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第3部 遺された漁港・銚子

第37話

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「おー。これがギョコウってやつか!」
「漁港の“跡”、だね。放棄されてもう長い年月が経ってるから」

 かつて銚子漁港と呼ばれた廃港の埠頭ふとうに立つヒーロー、上杉ハヤテ。
 黒色と赤色の密着型特殊戦闘ボディスーツ――いわゆるヒーロースーツ――に身を包んでのウキウキな様子が面白く、同伴者の三条ワタルはどうしてもニヤケてしまう。

「俺、こんなに海を近くで見るの初めてだ。すげーきれいだな」
「河口の中だから、正確にはここはまだ海じゃないかな。あっちに見える防波堤跡の向こうが海だね」
「お、そうなのか。じゃあ先にそっちに行ってみてもいいか?」

 防波堤跡およびそこにある小さな灯台も、今回の仕事「銚子漁港跡の調査」の対象に入っている。
 ヒーロー支部臨時職員でありハヤテの支援を担当するワタルは、首を縦に動かした。



 割と狭い防波堤跡を、二人で歩く。
 コンクリートは痛んでいるが崩落はしておらず、さほどの凹凸もない。割としっかりしていた。

「こういうの、ゼッケイ絶景って言うんだろ? すごいな」
「あはは。うれしそう」
「そりゃ、初めてだからな!」

 興奮気味に波立つ外洋を鑑賞しながら、先を歩くハヤテ。
 しばらくすると、防波堤跡の先端にある小さな灯台の向こうに、誰かがいると気づいたようだ。

「ん? 誰かいるな」
「本当だ。子供に見えるけど、なんでここに」

 それまでは、死角に入っていて二人とも気づいていなかった。
 ここに子供がいるということ自体が不自然である。ワタルが小型業務用端末に搭載された獣機検出スキャンを発動させた。
 結果は陰性。子供に扮した獣機ではないようだ。



 防波堤の先は、円状に広くなっていた。
 その中央に立つのは、運用が終了して長らく放置されているとは思えないほどの、しっかりとした姿の灯台。
 そして少し離れて、コンクリートの端に座って足をぶらりとさせている子供がいる。半袖半ズボン姿でつばの広い帽子をかぶり、右手に持った長めの竿を海に向けていた。

 子供のほうも二人に気づいたようだ。
 竿を縮ませて小さなボディバッグのポケットに差し込むと、ゆっくりと立ち上がった。
 近くに置いてあった電動スケートボードと思われるものを足で立たせ、右手で持つ。

「誰? アンタたち」
「あ、うん。僕は三条ワタル。ヒーロー支部の者だよ」
「ヒーロー……」

 その子の見かけは、小学校高学年くらいだと思われた。
 普通それくらいの歳の子供であれば、戦闘中以外のヒーローの姿を見ると、寄ってこないまでも笑顔で手を振ってくれることが多い。
 だがこの子は違う。どこか冷めたような、能面のような表情をしていた。

「で、こっちのお兄さんは……って変身してるとお兄さんってわからないか。でも見てわかると思うけど、ヒーローだよ。今日、僕らは調査の仕事をしに来てる。ね?」
「ああ。一人でこんなところにいると危ないぞ? 何かやってたのか?」

 ハヤテの質問にも、その子供は答えない。
 やがて――。

「ヒーローは嫌いだ」

 子供はそう言うと、ハヤテの腹部を蹴飛ばし、電動スケートボードであっという間に去っていった。



(続く)
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