5 / 15
第4話 掲示板の『サ1』とは(3)
しおりを挟む
それは右ハイキックだった。
まさかメイド服を着ていた赤毛の可愛い少女がそんなものを出してくるとは思わなかった。
ハイキックは予備動作がどうしても大きくなる。
学生ではあるがプロキックボクサーでもある俺は、彼女が蹴りを出そうとした瞬間に、体が自然に動いた。
スウェーしてそのハイキックをかわす。
「……かわした」
「いや、当たり前ですって。かわさないと当たるじゃないですか」
おそらくかわさなかったら、俺の側頭部にまともにヒットしていただろう。
身長差がかなりあるのに、かなり正確なハイキックだったと思う。
「この反射神経……。あなたは『動ける変態』なんですね」
「……!?」
相変わらず侮蔑的な視線を向けながら、そんなことを言われた。
主人ではなく、父。まったく似ていないが、この少女は中年オヤジの娘だったようだ。
しかし変態と言われたのはなぜか。
アダルトビデオ出演の話が広まるには早すぎる気がするので、裸マントだからという理由だろうか?
「あのー。俺、ちょっと格好は変かもしれませんけど、変態というのはきついかなあと」
「変態でしょう。これを見て来たんですから」
彼女が紙を取り出す。掲示板に貼られていて俺が持ってきたものだ。
「その紙で判断できるもんなんですか?」
「とぼけているんですか」
「ええ? とぼけてないですって。だってそれ仕事内容とか書いてないじゃないですか」
「書いてありますけど。ほら、『サ1』って」
「それ意味わからなかったんですけど。何の意味なんです?」
「……」
少女は腰に手をやり、じっと俺の顔をのぞき込んできた。
思わず一歩下がるも、合わせて一歩踏み込まれる。
「……嘘はついていないみたいですね」
「あ、はい、いちおう」
いちおう、というか、完全に。
「こういう依頼が貼られている掲示板は、援助交際専門の掲示板です。あの掲示板で『サ』というのは、サポート、つまり援助交際という意味」
「ぇえ!?」
「そう。で、『1』は1ペニー。父は1ペニーで体を売ってくれる男を掲示板で募集していたんです」
「な、なんだってー!?」
「ちなみに依頼主の名前に『既』と書かれているのは既婚者という意味です」
衝撃の事実。
「お、俺、てっきり何か仕事をもらえるのかなと……。あ、でも体を買いたいなら、なんで蹴ってとかいわれたんです?」
「父はドMで、来た男にいつも蹴らせていたんです」
なんというか。世にはどうもいろいろな性癖の人がいるらしい。
「でも父が蹴られて気絶したのなんて初めてです。あなたは武闘家のかたなのでしょうか?」
「まあそういうことになるのかな? あっ、でもこの世界では少し違うのか。いちおう聖騎士だったってやつ?」
「……! そういえば、どこかで見た顔のような気が」
また顔をのぞき込まれてしまう。
一度だけ城のバルコニーから、王都民の前で王様に紹介をしてもらったことがある。
前のほうに立っていた王都民で、記憶力のよい人なら、覚えていても不思議ではないかもしれない。
「……すごいおかただったのですね。どうりで反射神経がよいわけです」
あ、まずい。
そう思った。
少女は、俺がアダルトビデオ出演発覚で追放されたということをまだ知らないようだ。
これは事実を知ったら大減点どころかマイナス65,536点くらい食らってしまうやつではないか。
まさかメイド服を着ていた赤毛の可愛い少女がそんなものを出してくるとは思わなかった。
ハイキックは予備動作がどうしても大きくなる。
学生ではあるがプロキックボクサーでもある俺は、彼女が蹴りを出そうとした瞬間に、体が自然に動いた。
スウェーしてそのハイキックをかわす。
「……かわした」
「いや、当たり前ですって。かわさないと当たるじゃないですか」
おそらくかわさなかったら、俺の側頭部にまともにヒットしていただろう。
身長差がかなりあるのに、かなり正確なハイキックだったと思う。
「この反射神経……。あなたは『動ける変態』なんですね」
「……!?」
相変わらず侮蔑的な視線を向けながら、そんなことを言われた。
主人ではなく、父。まったく似ていないが、この少女は中年オヤジの娘だったようだ。
しかし変態と言われたのはなぜか。
アダルトビデオ出演の話が広まるには早すぎる気がするので、裸マントだからという理由だろうか?
「あのー。俺、ちょっと格好は変かもしれませんけど、変態というのはきついかなあと」
「変態でしょう。これを見て来たんですから」
彼女が紙を取り出す。掲示板に貼られていて俺が持ってきたものだ。
「その紙で判断できるもんなんですか?」
「とぼけているんですか」
「ええ? とぼけてないですって。だってそれ仕事内容とか書いてないじゃないですか」
「書いてありますけど。ほら、『サ1』って」
「それ意味わからなかったんですけど。何の意味なんです?」
「……」
少女は腰に手をやり、じっと俺の顔をのぞき込んできた。
思わず一歩下がるも、合わせて一歩踏み込まれる。
「……嘘はついていないみたいですね」
「あ、はい、いちおう」
いちおう、というか、完全に。
「こういう依頼が貼られている掲示板は、援助交際専門の掲示板です。あの掲示板で『サ』というのは、サポート、つまり援助交際という意味」
「ぇえ!?」
「そう。で、『1』は1ペニー。父は1ペニーで体を売ってくれる男を掲示板で募集していたんです」
「な、なんだってー!?」
「ちなみに依頼主の名前に『既』と書かれているのは既婚者という意味です」
衝撃の事実。
「お、俺、てっきり何か仕事をもらえるのかなと……。あ、でも体を買いたいなら、なんで蹴ってとかいわれたんです?」
「父はドMで、来た男にいつも蹴らせていたんです」
なんというか。世にはどうもいろいろな性癖の人がいるらしい。
「でも父が蹴られて気絶したのなんて初めてです。あなたは武闘家のかたなのでしょうか?」
「まあそういうことになるのかな? あっ、でもこの世界では少し違うのか。いちおう聖騎士だったってやつ?」
「……! そういえば、どこかで見た顔のような気が」
また顔をのぞき込まれてしまう。
一度だけ城のバルコニーから、王都民の前で王様に紹介をしてもらったことがある。
前のほうに立っていた王都民で、記憶力のよい人なら、覚えていても不思議ではないかもしれない。
「……すごいおかただったのですね。どうりで反射神経がよいわけです」
あ、まずい。
そう思った。
少女は、俺がアダルトビデオ出演発覚で追放されたということをまだ知らないようだ。
これは事実を知ったら大減点どころかマイナス65,536点くらい食らってしまうやつではないか。
0
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
転生したら無自覚に世界最強になっていた件。周りは僕を崇めるけど、僕自身は今日も日雇い仕事を探しています。
黒崎隼人
ファンタジー
トラックに轢かれ異世界に転生した元サラリーマンの星野悠。
彼に与えられたのは「異常な魔力」と「無自覚に魔術を使う能力」。
しかし自己評価が低すぎる悠は、自分のチート能力に全く気づかない。
「困っている人を助けたい」――その純粋な善意だけで、魔物を一撃で消滅させ、枯れた大地を蘇らせ、難病を癒してしまう。
周囲が驚愕し、彼を英雄と崇めても、本人は「たまたまです」「運が良かっただけ」と首を傾げるばかり。
これは、お人好しな青年が、無自覚なまま世界を救ってしまう、心温まる勘違いと奇跡の物語。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる