シンキクサイレン

秋村ふみ

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 御手洗の家は、新築の家だった。まだ建って間もないだろうその家の入り口の前に、僕と図書委員は立っている。彼女に連れられて来たのはいいが、僕は別に御手洗の家に訪ねる気は無かった。たしかに、彼女の体調が少し気になってはいたが、この図書委員に強引に連れて来られなければ、来ることは無かっただろう。
 図書委員は、入り口の右にあるインターホンのボタンを押した。しかし、返事は無かった。誰もいないのだろうか。それとも、居留守を使っているのだろうか。数回ボタンを押しても返事が無く、仕方なく図書委員と僕は帰ることにした。
 その夜だった。数日ぶりに、御手洗から僕にメールがあったのだ。
『高梨さんと仲いいの?』
 一瞬、誰のことかと思った。今日僕を強引に御手洗の家に案内した、あの赤縁メガネの図書委員は、高梨というらしい。
『別に。図書室で最近知り合っただけだよ』
 僕がそう返信すると、『なんで今日、家に来たの?』というメールが来た。御手洗はあの時、居留守を使っていたらしい。そのメールに対しての返信を、僕は躊躇した。なんて返せばいいか悩んだ末、『心配だったから』と返信した。それから少し間が空いてから来たメールには、『明日は学校行くから』と書かれていた。
 明日は御手洗に会えると思うと、少し嬉しくなった。『明日の昼休みに、図書室で会おう。借りていた本も返したい』と返信し、ベッドに横になった。
 早く明日にならないかとか、早く学校に行きたいと思ったことなど、ここ数年なかった。人は、目標があるからこそまっすぐ歩ける。楽しみがあるから朝早く起きれる。僕はそれを悟った。いつのまにか、御手洗陽菜に恋をしていたのだ。
 
 
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