つれづれに。

惟奏夢

文字の大きさ
上 下
2 / 2
ショートストーリー  一話完結

小遣い稼ぎ

しおりを挟む
自分の手の形は、本当に綺麗だと思う。
それに関しては自画自賛出来るし、他人から「ナルシティズムに満ちたやつ」と言われたとしても「だから?」としか思わない。

ただ…この肌の張りやキメ、甲の骨のラインとか、歳を重ねたら衰えていくのだろう。

そう思ったらすごく勿体無いな、と、思ってしまった。なんとかしてこの美しさを保存しておきたい。写真も勿論だけど、何か良い方法はないのか。クローンが作れる世の中だったら楽なのに。

まぁクローン作れてもソイツも歳をとっちゃ意味がないんだよなァ…と、くだらない事を考えつつ某青いSNSを監視していた。

シリコンで、リアルな手首を作る若い子の動画。フォロワーさんが面白がって共有してきた。運命だと思った。

——そうだ、自分もこれをやってみれば良いんだ——

そこからフォロワーさんにDMを送り機材や材料を買い集め、ひたすら「自分の手」を作り続けた。
材料の配合を変えたり、着色方法を変えたり。
ここまで真面目に何かをするのは、久しぶりだった。会社の新人研修以来かもしれない。

やっと満足出来るモノが出来上がった時には、何十、何百と言うのは盛ってるけど…大量の「俺の手のなりかけ」が転がっていた。

作っていた時に気に入らないモノと言っても、自分の分身。フォルムや形は悪くない。

このまま捨てるのも事件かと思われそうだしなぁ…いっそ、これもフォロワーさんを真似して売ってみるか。

機材やら材料やらに給料を注ぎ込んでしまっていたし、少しでも元が取れるならと、フリマアプリに登録したんだ。

思っていた以上に、ウケは良かった。
俺の手のなりかけが売れていく。

中には「すごく綺麗な手ですね!」ってSNSに画像上げつつ褒めてくれる人もいてさ。それが話題になって、あんなにあった「なりかけ」が本物扱いされて全部売れたんだ。

そりゃあ嬉しかったよ、俺の美しい手のなりかけ…それが認められて売れたんだからさ。

思っていたよりもお金になったし、自分としても良い作品が出来たし、本当に満足してたんだ。



数ヶ月後、警察から連絡が入るまでは。

全国各地のあらゆる事件で、俺の指紋が出てきたらしい。
「○月○日、貴方は何処に居てそれを証明出来る人は居ますか?」なんて聞かれる事になるとは思ってもいなかった。

そう、俺は俺自身の手を作ってた。
勿論、指紋もそのままだ。

何回も同じ事を聞かれ、何度も何度も話をして。DNAは出るわけが無いから、証拠不十分になるんだけど良い気はしないよね。

小遣い稼ぎ程度、って軽く思ってたら痛い目を見たなぁ。

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...