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  前説の物語3 死神公務員サイレント

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ここは黄泉の国。
といっても、おどろおどろした雰囲気はなく、ビルが建ち並ぶ近代的な社会。
日本で言う所の「丸の内」のイメージに近い。

【東亜死神株式会社】
それが彼女、サイレントの勤める会社の名前だ。
東亜死神は死神会社の中でも最大手の大企業。
東亜地区の最大国である「中の国」は大量の出産と死亡を供給する事で知られ、この死神界隈でも最優良地域なのだ。
サイレントはぱっつんボブに身長120cmと小柄なら容姿のため、同僚からは影で「死神小学生」と呼ばれている。
しかし仕事においては、20代にしてこの会社のエースである。
エースと言えば聞こえがいいが、やたらめったら仕事を振られ、それをひたすらに処理をし続ける。
要はワーカホリックなのである。
やれどこぞの世界で戦争だともなれば、大量の魂の回収で出張が続く。場合によっては次元を超えての出張もある。
「魂の循環」を止めることは基本NG。なので残業に次ぐ残業で対応をしている。
そう、この会社はブラック極まる会社なのだ。

「いつになったらオートメーション化されるのよ!」
この彼女の叫びに上司が言う。
「君、人の手で行なう事こそが大事なんだ。真心だよ」
その上司は平日だろうとやれ接待だとゴルフという球技に明け暮れている事をサイレントは知っている。クラブではなく鎌を振れ! 軽く殺意を覚えるが、それは死神の仕事でない。

「やめてやる!」
これがサイレントの口癖である。

死神の仕事は、死に際の人間の「魂と肉体のつなぎ目」を「死神の鎌」で断ち、魂を「魂の循環」に誘導する事である。
死んで暫くこのつなぎ目をほっておくと、捻じれが起こり、腐り、「悪霊化」する。
断ち方が下手でも悪霊化する、ある程度の技術が必要なのだ。サイレントはこのつなぎ目を断つ技術が人一倍優れている。
「悪霊発生件数」は会社の査定に大いに響くので、早めの対応が必要になる。
結果、安パイの彼女が派遣される数が増える。

魂の循環が終われれば記帳する。
未だ死神会社の世界はIT化すら進んでいない。
これも数が溜まれば一仕事である。

最近の死神界の注意案件は「ネクロマンサー」の出現である。
魂を弄ぶこの存在は、死神にとっては災害の様なもの。
今日もテレビでニュースが流れる。
「ネクロマンサー21号が東亜地区に発生しました。予想進路は次の通りです」
このニュースに死神たちももらす。
「あー、もうまた休暇が潰れるじゃん」


死神と言っても公務員。いくら働いても給与は一緒。
手抜きの技術が上がっていく周りに対して、生真面目な性格のため頑張ってしまう。
そんな彼女の働きぶりに上司も厄介な案件が来れば彼女に振る。

負のスパイラルの完成である。

会社にはろくな人材もいないので出会いの場もない。
いい加減いいお年頃のサイレントはこの件も気にかけてはいたが、正直日々の仕事に追われてそれどころではない。


そんな折、会社に【世界の根幹】を名乗る者から【招待状】が届く。
上から下に、上から下に、たらい回しにされたこの案件は、結局サイレントが処理する事となった。

ただでさえ忙しいのに、決まって余計な仕事がまたも舞い込む。
まー、世の中そんなもんである。

サイレントはこの招待状を読む。
何でも闘いに勝利すれば「望むモノ」が手に入るという。

彼女の望みはただ一つ。
長期休暇だ!

彼女は日々の業務をこなしつつ、この闘いに参加するのだった。
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