<夢幻の王国> サムライドライブ

蒲生たかし

文字の大きさ
8 / 33

第2幕 侍と龍

しおりを挟む
赤獅子国
陽があふれ季節は夏になっていた

氏康はコウと森へと向かっていた。城下町を行く時に、住民から声をかけられたが、いつもと違い狼人たちの姿が見えなかった。少し不思議に思いながらも先を急いだ。

オルフェの一族は城から西に20kmほどのに広がる広大な森を生活の拠点としていた。
そこを彼らはフェンリルの森と呼んでいた。狼人の一族のいた世界の名前が付けられたのだ。

30分ほどかかり、氏康が狼人族の所にたどりついた時、森では狼人たちが闘いを行っていた。
闘っていたのは女王オルフェと戦士サガ。
サガは一族の中でもっとも腕の立つ男で、常にオルフェと王の座を争うが、決着がつけば全力で彼女をサポートした。

オルフェに飛びかかるサガ。
その刹那、オルフェは合気でサガを宙へ投げる。
すかさず舞うサガの背中にオルフェの回し蹴りが入る。
予期せぬ攻撃にまともに蹴りを食らい、受け身もとれずサガは地面に叩きつけられた。
「勝負あり!」
審判役長老ミエルの声で決着とされた。
「闘儀の結果により、これからもオルフェ様を長とする」
ミエルが宣言した。
「また強くなりましたな、オルフェ様」
「ああ、合気は闘いの幅を広げてくれるぞ。お前も学ぶか?」
倒れたサガをオルフェは手で起こす。
一族は強さが全て、弱き者には一族を率いる資格なしとされる。
定期的に一族全てが参加の闘技大会が開催され、一族の長を決めるのが習わしだ。

氏康がオルフェに近づいた。
「何かの祭りか?」
「長を決める闘儀だ」
「戦いで決めるのか。さすがは狼人族だ分かりやすくていいな」
「何事もシンプルなのが一番だ」
「ところで夏に近づいたが調子はどうだ? お主らは厳しく寒い世界で暮らしていんだろ、生活の変化もある事だし」
「キャハハハ、まったく問題は無い。風も心地い、陽の光もこれほど浴びることができるのは初めてだ。村人からもらう魚っていうのも面白い食べ物だしな。家作りや農地の開墾ってのもなかなか楽しいもんだ。結構いいトレーニングにもなるしな」
「そうか、何よりだ」
「そうだ、ちょっと待っててくれ」
オルフェはそう言い、皆の元に走って行った。
しばらくするとオルフェは狼の赤子を腕に抱き戻ってきた。
「実は一つ願いがある。昨日一族に新たな命が誕生したんだ。これで一族は28人になったんだが、実は事情により一族が27人を超えたのは今回が初めてなんだ」
「それはどうして?」
「それは私から説明しよう」
最長老ミエルに説明を変わった。
「外敵に溢れた世界にいた我々一族は27人を超えないようにするしきたりがあった。常に移動を強いられた我らの集団戦いにおいては、陣形が鍵を握るからな」
「27ということは、3人を九組で本陣を中心に八方陣を形成するのだろう?」
「そうです。よくお分かりになりましたな」
「八方陣は戦術の基本だからな」
「そうなのですか。我々は生きてく上でそれを学びました」
「さすがは狼だな、本能でそこに辿りつくとは」
再びオルフェがしゃべりだす。
「でも、我々は平和な世界を手に入れた。過酷な旅の必要のない安住の地をな。だから、一族の会議でこの戒律を破棄しようと決めたんだ。この子は我々の新たなる世界の象徴。特別な子なんだ。だからぜひ氏康に名付け親になってほしい」
「た、大役だな。子は男か?」
「男だ。十年もすれば立派な戦士になるぞ」
赤子をあやしてオルフェが言う。
「名はすぐにではなくていいぞ」
「いや、今ひらめいた言葉がある」
「何だ」
「『リオン』というのはどうだ。お前たちの言葉で『獅子』を表す言葉だろう」
「意外だな、もっと和国風の名をつけるかと、ちょっと警戒していたんだが」
「お前、人に頼んでおいて……。一応、気を使ったんだよ、一族で自分だけ違う雰囲気の名前だと成長してからいじめられるかもしれんだろう」
「いじめというのは良く分からんが、『リオン』か、良い名をもらったな」
オルフェは赤子を天高くにかかげる。
「お前はこれからリオンだ」
 
「ところで用があったのではないのか?」
「ああ、デュエルを見に一緒に盛り場に行かぬか?」
「試合なら城の『ビジョン』というやつでも見れるだろう」
「盛り場のあの熱気が好きでな。ただ、一人で行くにはさびしい」
「ああ、行くぞ。すぐに準備してくる」

 
盛り場への通りで、オルフェがため息交じりに言った。
「コウ、お前もついて来たのか」
二人に氏康のパートナーである柴犬コウがついて来た。
「まぁ、氏康はまだまだ知らないことが多いからな。ところでコネホはどうした?」
「留守番だ。あいつは最近、街で狼人と人の通訳の仕事ばかりだからな」
「ひょっとして俺、お邪魔かい?」
「……もう、いい」
オルフェは氏康に突っかかる。
「おい氏康、一人で行くと言っていただろ」
「ああ、人は俺一人だろ」
「……もう」
一行が盛り場に着くと今にも闘いが始まろうとしていた。

 
★ 騎士 vs. 龍 ★

◆〈騎士〉ゲオルギオス
“竜殺しの覇王”
聖光国セルビアより参戦。
42歳。男性。
人々を苦しめていた魔竜を殺し国を救った英雄王。
竜を殺した十字槍の名は「グンニグル」。特別な輝きを放つ。
始めは人民を守るために行なっていた竜討伐であったが、いつしか竜の血には「不老不死の力」があると信じるようになり、竜を殺す事のみが目的となった。
この闘いに参加する理由は竜の生血を浴びるため。
愛馬のグレイプニルにまたがり闘う。
 
◆〈龍〉黒龍ジンライ
“主殺し”の異名を持つ。
東洋・雷国より参戦。
人間相当で13歳。男性。
元々は龍使いのパートナーとしてこの世界に来たがその主を殺す。
そこでついた名前が“主殺し”。
東洋龍の姿でとても長い全身を持つ。その身体は漆黒の堅い鱗で覆われている。
自在に空を駆け、稲妻を発する雷龍でもある。
また、鋭い牙と爪も武器となる。
本国の雷国では守護聖獣ではあるが、ジンライには本国より懸賞金がかけられている。

 
「氏康はどっちが勝つと思う」
「勝負の行方より、あの龍のとても寂しそうな目が気になる」
「悲しそう? そうか?」
オルフェは果実酒をあおりながら返事をした。
コウは必至にミルクをなめている。

 
ジャッジマスターが試合開始を告げると同時に、黒龍は天高くに昇った。
空高くに昇った龍の周辺に黒雲が集まって来る。
龍の咆哮と共に、一筋の稲妻がゲオルギオスを貫いた。
「雷竜との闘いは経験済みでね」
ゲオルギオスは大槍グングニルを地面に突き立て、避雷針として電撃を逃がして直撃を避けていた。
「雷撃は意味がないが、まだ続けるかい? 黒いの」
今度は3筋の光が走る。
しかし全ての電撃は槍に向かい、ゲオルギオスは無傷で立っている。
「さぁ、どうする。まさか雷だけではあるまい」
龍はゲオルギオスに向かい急降下する。
「そうだ! 互いに斬り合い、血肉躍る命のやり取りをしようではないか!」
すれ違いざま龍の爪と騎士の槍が交錯する。
光の筋にならい見事な鮮血が双方からちび散る。
「貴様の爪は薄皮一枚なでる程度か、ドラゴンよ! 死に物狂いで攻めて来ぬかぁ!」
龍は反転し再び光が走る。
幾度の打ち合いを経て双方幾筋の血を体に流れ落ちる。
突然龍が再び天に昇る。
「ふぅうむ。何か策を巡らすつもりか」
龍の咆哮に落雷が落ちる。
「それは無駄だと分からぬか!」
落雷を受け流す。

ドゴォォオオオォォオオオン!

次の瞬間急降下した龍はその蛇の様に長い体を騎士に巻き付け、
自らの爪を騎士に立てた。
「ふん、絞め殺すつもりならば、ちいと力が足らぬぞ!」
力でそれを引きはがそうとする。
龍は再び咆哮。
雷が龍自らに落ちる。
「ぐおぉっ!」
続けざまに二つの稲妻が落ちる。
「き、貴様も、続ければただでは、……済むまい!」
それでも稲妻が落ちる。
「しょ、正気か……」
なおも落雷。
いつ終わるとも分からぬほど、何度とそれは繰り返された。
それはもはや闘いとは呼べず凄惨な光景だった。

やがて騎士は崩れ落ちジャッジマスターが勝負の決着を宣言した。

 
帰る道すがら、氏康は街中で強い気配と不穏な影を感じ取った。
オルフェは果樹酒の飲み過ぎで千鳥足となっていた。
「コウ、オルフェ先に帰っててくれ」
「どうしゅたのだ、うじやしゅ」
もはや呂律が回っていない。
「ちょっと気になることがあってな。大丈夫だ、危険はない」
「わかりましゅたー」
(だめそうだな)
「コウ、オルフェを頼む」
「分かったよ。何かは知らないけど気をつけてね」
「ああ、いつもそうさ」
そう言ってオルフェは帰っていった。
 
氏康は不穏な気を感じた方へと駆けて行った。
高い所から確認するため、氏康は壁を駆けのぼり建物の屋根へと昇った。
塗炭屋根が並ぶその街並みの少し先に何かを探す二つの人影を見つけた。
「あっちか」
氏康は建物の屋上を駆けた。
途中ただならぬ気配を感じ通りへと跳び下りた。
袋小路となっていたその陰に巨大な黒いものがうごめいた。
同時に背後に殺気を感じ、振り向きざまに刀を抜いた。
相手の刀と刀が弾けあった。
そこには人影があった。
「そこを、どけ、小僧」
「いきなり刀で切りつけられて、どけと言われてもな」
「俺たちの獲物。横取り、ゆるさん」
影は一つだが、気配は二つ感じる。
影は少し揺らぐと氏康に向かって来た。
敵の円月刀を刀で弾くとその奥からもう一つの影が向かってきた。
氏康はとっさにその刀をかいくぐり、刀のつばを相手のみぞおちに入れる。
相手は引き体勢を整えている
「命のやり取りを望むなら手加減はできぬぞ」
氏康は刀を体の左下へと落とし、前傾姿勢で構えをとった
相手は引く様子は無い。
「それでも、くるか?」
相手は小刀を投げて来た。
(相手が避けて体勢を崩したところを撃つつもりであろう)
氏康は肩でその小刀を受け前進する。
「紅蓮!」
炎が宙で美しい輪を二つ描く。

キン! キィン!

相手二人の円月刀が折れる。
距離をとる敵。
「次は武器ではなく、体に入れるぞ」
燃える刀を相手に向ける。
相手はさらにじりじりと距離をとる。
「お前たちほどの手だれであれば、武器の破損はどれほどの不利を生むか、分からぬではあるまい」
敵は煙球を投げあたりの視界を奪った。
「そんなものまかんでも追いはせんよ。さて」
氏康は刀を払い炎を消し、鞘に納めながら振り向いた。
「やはり先ほどの闘いで自らも深い痛手を負っているようだな、黒龍よ」
「……」
近づく氏康に威嚇をする黒龍。
「俺の名は東城氏康、赤獅子国の国主だ」
「……」
「お前はパートナーとしてこの世界に来たと聞いた。言葉は理解していると思っているのだが?」
「……なぜ、助けた。懸賞金を自分で得るためか?」
「安心せい、俺は奴らの様な賞金稼ぎとは違う、金ならデュエルで稼げは良いしな」
「ならば、なぜだ」
「先ほどのお前の闘いを見て、ぜひとも話をしてみたくてなってな」
「嘘を言うな、僕だと分かったのはさっきだろう」
「最初にお前の気配を感じてな、追手の影を見つけたから俺も追ってみたんだ」
龍に近づく氏康。
「立てるか? 足の無いお前に言うのなんだがな」
「……」
「やはり、あんな無茶な闘い方で無事ではで済まぬな」
氏康は黒龍を肩に担いで持ち上げようとしている。
「何をしている」
「まずは治療だろう、いつまた追手が来るともしれん、俺の国に行くぞ」
持ち上げらない。
「これでも力はあるつもりなんだが、なんて重さなんだ」
「本当に僕を助けるつもりか」
「この言葉を覚えておけ、『武士に二言はない』」
龍はまっすぐと氏康の目を見つめた。
「おかしなそぶりを見せればすぐさま俺の首をはねるといい」
「……本当にはねるぞ、俺は主を殺しているからな」
「ああ、知っているよ。さぁ行こうか」
「……待て」
龍は光に包まれた。
光が治まると、龍は30㎝ほどのサイズに小さくなった。
「頼む」
「お前、すごいな。便利な体だ」
 
城に着くとコウは驚きで迎えた。
城で休んでいたオルフェが起きてきた。
「さっきの黒龍か」
「名をジンライと言う」
「大丈夫なのか?」
「ああ、こちらから手さえ出さなければ、あちらからは手を出さん」
さっそく秘伝の薬を黒龍の傷ついた体に塗り包帯を巻いた。
「この薬は我が故郷の薬草からなる特製でな」
「これは効くぞ。私もこれで傷が残らなかったからな」
オルフェが腕を組み得意げに言う。
「……ありがとう」
「さて、話を聞かせてくれるか」
黒龍ジンライは語りだした。


国からの命を受け、龍使いと共にこの世界に来た。
何戦かを終え、僕と龍使いは故郷の雷国に戻った時。
龍使いが酒をあおって寝入った隙をついて、自分の生まれた山へと行ったんだ。

そこで仲間の龍から母の事を聞こうと思ってね。
幸い、仲間に会えたが衝撃の事実を知らされたんだ。
母はすでに殺され心臓は帝に献上されている、と。
何でも国の中枢を握っている連中が僕達龍の心臓は不老長寿の源と考えているらしくてね。
ばかばかしい、そんな訳は無いのに。
僕は龍使いに騙され闘わされ続けた挙句、成長すれば帝に心臓を提供するため母と同じく殺されるという事実を知った。

急ぎ龍使いの家へと戻った。
文字通り家中をひっくり返して母の痕跡を探した。
そこである箱の中から竜爪を見つけたんだ。
龍は死ぬと一つの爪だけが残るんだ。
成龍になるとそれぞれに固有の印が現れ、それが本人の証明になる。
それは間違いなく母の爪印だったんだ。
また、そこに爪があるということは同時に母の死も意味していた。
僕はその爪を自分に刺して母の爪を吸収した。
我々龍は親から子には爪を継ぐしきたりがある。
元来は死に際に、親は子に爪を立て知識、経験、思い、力を引継ぐんだ。
龍使いが酔いからさめ、僕が事実を知った事を悟った。
奴は僕を殺そうと襲いかかって来たけど、母の爪を継ぎ力を増した僕は一撃で龍使いを仕留めたんだ。
龍使いの死はすぐさま国中に広がり、僕は“主殺し”の汚名をかぶった。
そして懸賞金が僕にかけられたんだ。
 
「……」
語りの途中で不穏に思ったジンライはコウに尋ねる。
「コウ、氏康とオルフェは寝ているのか?」
「お、起きているぞ、大丈夫だジンライ!」
慌てて、体を起こし氏康が答える。
「で、では、続けるよ」
 
後は闘いの毎日だった。
主のいない僕は闘いに登録こそされ、報酬は受け取れない。
エントリーされた上で闘いに参加しなければ、この中央世界から追放される。
生き延びるにはただ、闘い抜くしかなかったんだ。
さらに、パートナー登録の俺は殺しても相手にペナルティは無いらしく皆僕を殺しに来た。
 
「分かった、俺がお前の主になろう」
「無理だ。僕ら龍は弱い者には従わない、いや従えないんだ。弱者に命を託すことは聖獣として許されない事らくてね」
「やってみなければわからんだろうが」
「やってからでは遅いんだ。契約を賭けた闘いでは僕は手を抜くことはできない、命がけでの闘いが必要なんだ」
「安心せい、俺もそれほど軟弱ではない」
まっすぐと見つめる氏康の眼をジンライは見た。そこには一切の揺るぎの無い事を理解した。
「……分かった」
「では勝負はデュエルで行うぞ」
「外での闘いでいいんじゃないのか?」
「いやデュエルでなくてはならん。コウ、デュエルの申し込みだ」
「いつで申し込みを?」
「まずは闘いの傷が癒えてからがよかろう、2週間後ではどうだ?」
「やはり助けてもらった恩義がある。この闘いはやめよう」
「くどいぞ、もう決定したことだ。それに少なくとも対戦まで間の2週間はデュエルが組まれる事はなくなる、ゆっくり休めるだろう」
そして2週間後、デュエルが行われた。

 
★ 侍 vs. 龍 ★
 
◆〈侍〉東城氏康
字を“赤獅子の将”
赤獅子国の国主。
16歳。男性。
字に習い、黄金の鬣のついた赤い獅子の兜をかぶり、赤と黒の鎧をまとう。
獲物は「緋閃村正」。刀に一筋の緋色が走る名刀。
刀を燃やす「紅蓮」という技を繰り出す。
 
◆〈龍〉黒龍ジンライ 
“主殺し”
東洋・雷国より参戦。
人間相当で13歳。男性。
主を殺した東洋龍。
全身が黒く堅い鱗で覆われ、稲妻を自在に操る。
鋭い爪は全てを斬り裂く。
 
バトルランクは2。
フィールドは無し。円形闘技台の上でのみ決着。リングアウトは敗北と決定。
【グローブ】は氏康、黒龍共に3となった。
 
デュエル前に黒龍は『契約闘技の儀』を行なった。
自らの爪でもう片方の指に切り傷を付け額に血で印を結んだ。
「我、黒龍ジンライは東城氏康をその主と認めるに値するか試すものとする」
その言葉の終わりに、ジャッジマスターはデュエルの開始を宣言した。
 
黒龍は天に昇り稲妻を落とした。
「落雷は通り道を作ればよいのだよ」
そう言うと天に刀を掲げ素早く大きく横に振りおろした。
稲妻はその刀の軌道をたどり地面に落ちる。
「雷は真空を通るというからな、空を切ればそこに流れるのが道理」
黒龍は少し微笑む。かつてこうやって落雷を防いだ者はいなかった。
稲妻を避けられたと見るや爪を立てて急落下して来る龍。
すれ違いざまお互いの爪と刀が交差する。
龍はその細長い体を折りたたみ方向転換し再び氏康へ襲いかかる。
幾度と打ち合ったが、双方体に傷は無い。
黒龍は一度体を縮め急速な伸びで勢いをつけ突進した。
氏康の急所を狙ったその爪は刀で打ち上げられた。
と、同時に黒龍の左横腹の一つの鱗が切り取られ宙に舞った。
黒竜は起こっていることが理解できないままで、氏康は次のアクションをとった。
「紅蓮!」
地面を走らせ炎に包まれた刀が、先ほど鱗が切りとられた箇所に打ち込まれた。
黒龍の体全体に凄まじい熱が駆け巡った。
「ぐぅあ!」
飛びのき距離をとる。
「どうだジンライよ。まだやるか?」
黒龍は、その問いに『雷弾』で答えた。
雷弾とは黒龍が体内で作った雷を球体にし、吐き出す攻撃。
速度があり触った者に電気と熱でダメージを与える。
氏康はそれを交わす、後方で弾けたそれは爆発し爆風をあげる。
第2、第3の雷弾がバチバチ! という音を立てて飛来する。
氏康はそれらの攻撃も避け距離を詰める。
刀と共に黒龍に飛びかかるが、黒龍は大きなとぐろを巻いて待ちかまえていた。
氏康の姿を確認し黒龍は全身を巻き付ける!
さらに爪を立てにかかる。
氏康はその爪を兜で受ける。
巻き付ける力を強めようとすると氏康の姿が消えた。
正確には甲冑を脱ぎ捨て、脱皮の要領で抜け出していた。
黒龍の体を駆け上がる。
黒龍は自らの体に稲妻を落とす。
その稲妻を氏康は刀でその雷を受けた!
「行くぞジンライ! 渾身の一撃だ!」
氏康はその刀で黒龍の眉間に打ち込んだ。
最後の咆哮をあげ黒龍の意識が無くなった。
 
ジャッジマスターが氏康の勝利を宣言した。
 
氏康は黒龍の背に気合を入れた。
黒龍は意識を取り戻した。
「僕は、負けたのか」
「目が覚めたか、手当はちょっと待ってくれ」
氏康は闘技台の中央に歩むと刀を地面に刺し、高らかに宣言した。
「只今より、黒龍ジンライのマスターはこの東城氏康とする」
氏康は全世界へ向けた発した。
「これより、この黒龍ジンライを狙う者は、マスターであるこの俺、東城氏康も相手にすることと同義であると心得よ!」
傍らにオルフェが並び立つ。
「我ら狼人フェンリルの一族も相手になろう」

 
氏康、コウ、オルフェ、ジンライはある山頂にいた。
「闘いの報酬に山を所望してな。どうだ、お前の故郷の山と同じはずだなんだが」
「ああ、そっくりだ」
「山より川を敷いてもらった。これで皆の生活も楽になるだろう」
氏康はジンライに向かって続ける。
「それでな、この山の名を『黒龍山』としようと思っている」
「黒龍山……」
「お前には母はもうおらん。だが安心せい、俺たちはいつまでも一緒だ。そしてここが新しいお前の家だ」
うつむいていたジンライが顔を上げた。
「氏康、額を見せてくれ」
氏康は髪をあげた。
「こうか?」
「ああ、それでいい」
ジンライは自分で自分の指を切り血の出た指で氏康の額に印をきった。
「我、黒龍ジンライは東城氏康を主とし、ここに契約をする。主を命を賭して守り、決して裏切らないことを誓う」
氏康とジンライが光に包まれ、やがてその光が消えた。
オルフェが不思議がりたずねる。
「前の主を殺したけど、契約は意味があるのか?」
「龍使いとは主の契約をしていなかった。母を人質に無理やり従わされていただけさ。そもそもこの契約の存在を知っているものは、龍だけなんだ」
ジンランは氏康に向き合って言う。
「氏康は僕の初めての主だ」
「ジンよ、俺は主じゃない」
「どうゆうこと?」
「俺たちは家族だ」
「なら、私はお姉さんだな」
オルフェが笑った。
龍は氏康とオルフェに背を向けた。
オルフェが覗きこんで言う。
「龍も泣くのだな」
「泣いてなんかいないよ」
「いいんだよ、ジン。嬉しい時には泣けばいい」
オルフェが優しくジンを包みこんだ。
 
しばらくして、一陣の風が皆を撫ぜた。
氏康はジンライの方を向き言った。
「ひとつ、空の散歩をしようか、ジン」
「私も行くぞ」
龍は二人を背に乗せ天高く舞い上がる。
「どうだ、ジン。俺たちの国の風は」
「うまい、何よりあたたかい!」
「そうか、ならばよし!」
 
赤獅子国―造山流川
住民
侍:1人
犬:1匹
人間:178人
狼人:28人(INCREASE)
兎:1匹
龍:1頭(NEW)
 
陽あれる夏
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...