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第3幕 侍ボーイ・ミーツ・超能力ガール

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フェンリルの森に氏康が向かう。デュエルを見に盛り場へと誘うつもりだった。
ついてみるとサガからオルフェは不在だと告げられた。
何でもリオンをはじめとする幼い者たちを連れ、訓練を兼ね遠出しているという。
「ああ見えて、一族の長の責任感は強い方ですので」
氏康は「ああ見えて」のところでオルフェをサポートするサガの気苦労が見てとれた。
サガに礼を言ってコウとジンだけで盛り場に向かった。
ジンは小さくなって氏康の肩に乗っている。ここは最近のジンのお気に入りの場所となっている。

盛り場に着くとちょうどデュエルが開始されるところだった。
 
★ バイキング vs. 超能力者 ★

◆〈バイキング〉ハルバルト・ドノウ
“大地割りの剛腕”またの名を“豪傑王”
バイキングの王国・ノウシャンクより参戦。
45歳。男性。
立派な髭を蓄え、二つの角のあるヘルメットをかぶり、白熊の毛皮でつくられた衣服を身にまとう。
腕には大型の斧「トールハンマー」を携え文字通り剛腕で海を支配した。
猪突猛進の言葉を体現したかのような性格で、考える前に体が動くタイプ。
その性格に苦労した部下たちがこの闘いへの参戦をそそのかしまんまと乗り込んだ。
特に希望する物は無く、ただ闘いを望むバトルマニア。
 
◆〈超能力者〉センドリック・サウザンド
“一騎当千(サウザンドアームズ)”のコードネームをあてられる。
統一連邦の州国アストリア共和国の軍所属のエージョント。
20歳。男性。
普段着はパーカー、GパンにTシャツという一般的な物。
Tシャツの柄は好きなカートゥーンアニメのキャラクター。しかしこの点は家族から不評。
武器の類は一切使用せず、肉体のみで戦闘を行う。
体術にすぐれ、空間操作タイプの超能力を使う。

闘いは佳境を迎えていた。
〈バイキング〉ハルバルトの巨大な斧が闘技台を打ちぬく。
すでにそこに〈超能力者〉センの姿は無い。
「おのれチョコマカと! 男なら堂々と打ち合って力比べをせんか!」
「何を言ってんだよ。脳筋ヤローとは付き合ってらるかよ」
「ノウキンとはなんだ?」
「脳ミソまで筋肉って意味だよ。オッサン」
「ぐわっはっはっは! 褒めても何も出んぞ!」
「褒めてねーから」
「チョコマカ、チクチクと女々しい奴と思っとったが、相手への敬意を忘れぬ礼節わきまえた立派な戦士だったか」
「なぜそうなる……」
「だが、そのもやしの様な体ではいかん! 筋トレだ。筋トレに励め! 全ての悩みは筋トレが解決してくれるぞ!」
「大丈夫、こう見えてインナーマッスルはちゃんと鍛えてるから」
(しっかし、なんて精神的にタフなオッサンだ、さっきから波動弾が全く効いてねーしな)
「もう動きまわるの疲れたろう、こちらも礼を尽し一思いに頭を割ってやろう」
「なぜ、そうなる……」
(とはいいつつ、長期戦は疲れるし次で決めるか)
〈超能力者〉センはまっすぐに立ち、両腕を横に広げ、手の平を天に向けた。
「むぅ、また、チクチクする攻撃か? 小僧」
「今度はもっと面白いのをお見舞いするよ」
「ぐわっはっはっは! 言うではないか小僧。そういつは楽しみだ!」
(小僧、小僧ってうるさいんだよ、ったく)
手をゆっくりと下し、2歩後ろへ下がった。
「さて、準備はOKだ、来なよオッサン」
「行くぞ小僧!」
一瞬で距離と詰め、大きく斧を振りかぶる。
(巨漢のくせになんてスピードだ。だが、その速さが命とりってね)
振り下ろされる斧に合わせて、センは拳をボクシングのフックの要領で横に振る。
「ダラァ!」
拳の遥か遠くでハルバルトの顎が横にズレた。
「ダラァアアアア!」
センの拳の連打に呼応して遠くでハルバルトの顔が四方八方へと弾け飛ぶ。
「これで終いだ!」
両の手を組み、大きく振りかぶり、頂点からそのまま打ちおろす。
同時にハルバルトの頭が地面にたたきつけられた。
「どんな強靭な体だろうと、脳を揺らしちまえばこっちのものってね」
 
カウント10の後、ジャッジマスターはセンの勝利を宣言した。

 
帰る道すがら、氏康はコウに質問した、
「さっきのアレはいったい何だったんだ?」
すると後ろから声がした。
「見えない力で殴ってたんだよ」
先ほどまで闘いの場にいたセンがそこにいた。
「よぉ、赤いオサムライさん」
「サウザンドアームズの……」
「コードネームで呼ぶことないだろ、センでいいよ」
「私は」
「知っているよ、トージョーさんだろ。この前のデュエル見てたよ」
「氏康と呼んでくれ」
「実は君と内密に話がしたいんだが。ここではちょっと場所が悪い」
「ならば、我が国へと来るかい」
「願ってもない」
「氏康、初対面の人間をうかつに信じていいのかい?」
「あぁ、問題無い。幸い我が国にはまだ盗まれる様な宝は無いしな」
 
氏康たちは扉(ゲート)と通り赤獅子国へとたどり着いた。
始めは城しかなかった風景が、今では立派な城下町や田園が広がる国となっていた。
「ここがあんたの国か」
「ああ、赤獅子国だ」
「『レッドライオン』。まさにだな……」
「何か言ったかい?」
「いや、何でも無い、ただ……」
「ただ?」
「さっきから木の陰から俺を睨んでる、あの猫耳娘は何者だ?」
「猫耳ではない! 狼耳だ!」
オルフェは馬鹿にされたと思い怒り顔で姿を現した。
「オルフェ、戻っていたのか」
「氏康、何者だこやつは!」
「彼はセン、えーと、超能力者というやつだ」
「あれか、怪しい術を使う連中だな」
「そう、俺はそんな連中だ。で、あんたは?」
「彼女はオルフェ、狼人(ワーウルフ)の女王だ」
「女王様か」
「氏康、こんな怪しげな奴をなぜ連れて来た」
「怪しげって、まぁ、そう言われてもしょうがないか」
センはそう言おうと右手を二人の前にゆっくりだし、指を鳴らした。

パチン!

瞬間、空気が弾け大きな炸裂音が響いた。
氏康とオルフェが一瞬目を離したスキにセンの姿が消えた。
「どこだ!」
そう叫んだオルフェの背後にセンはいた。
そしてオルフェの耳をつまんだ
「やっぱ本物か。なんかフニフニしてるな」
いきなり背後をとられた上に耳をつかまれたことに激怒し、力一杯爪を伸ばした腕で殴りかかった。
「死ね!」
「怖いなー」
オルフェの振り下ろされる腕に向かってセンは人差し指を突き出した。

キン!

金属が弾けた音がし、オルフェの爪がはじかれた。
「な?」
状況が分からないオルフェの前に氏康が割って入った。
「セン! オルフェに謝ってくれ。彼女は耳が『セイカンタイ』というところらしく、触られることが苦手らしい」
「う、氏康! そういうことを軽々しく人に言うな!」
「はは! ゴメン、ゴメン、冗談が過ぎたみたいだ。オルフェ嬢。悪かった。非礼を詫びるよ。俺はセンドリック・サウザンド。センと呼んでくれ。氏康殿と内密な相談事があり、許可を頂き入国した次第だ」
「そう、改められると……。私も疑いの目から入ったのは悪かったが」
「よし、仲直りだな。では城に行こうか。ちなみに、オルフェの同行は問題ないだろうか?」
「ああ、構わない。オルフェ嬢もその方が安心だろう」

 
「妹を助け出したい」
城へ着き、要件を聞くと、センはいきなりそう切り出した。
「助け出すというのは?」
「人質として、俺の軍に囲われている」
「?」
氏康とオルフェはあからさまともいえるほど訳が分からないという顔をした。
「順を追って話そう」
センは事の次第を話し出した。
 
俺の国アストリアは諜報活動により敵国を壊滅に追いやって世界統一を成し遂げた。
その実は俺たち能力者の舞台裏の戦いがメインだったんだがな。
その直後、大統領に謎の【招待状】が届いた。
すぐさま軍内部で最強の戦士を選別するようにと命令が下った。

元々、軍には研究機関としてエスパーアーミーというものがあった。
超能力を使った特殊部隊という構想だ。
軍は始め兵士の中からエスパー能力を見出そうと試みたが失敗に終わった。
『能力者』というのはオーラを自分の意志で操り力を持つ者を言うんだ。 
基本、体内にあるエネルギーの『オーラ』は持って生まれるもので、操る才能が無い人間はどう頑張ろうと身に着くものではないんだ。
当然、責任者はクビになった。
だが次に室長になった男にはタチの悪い能力があった。
それは『能力者を見つける能力』だ。
これは厄介極りない。
この個の能力は全く力を発揮しないが、軍を手足の様に動かす事が出来れば、これほど効率的な『能力者発見装置』は他に無い。
それまで地方で平穏の内に暮らしていた俺たち兄妹だったが、あっという間に軍に包囲され捕えられた。俺一人であればどうにかなったんだが、妹が先にとらわれちまって、ゲーム・オーバーさ。
俺は軍のエージェントとして汚れ仕事をさんざんさせられた。
それから、例の【招待状】さ。集められた能力者で選考会が行なわれ、それに勝ち抜いた俺がこの闘いに参加させられたと言う訳だ。
 
「氏康。起きてるか?」
「お、おう!起きてるぞ!」
「オルフェ嬢?」
ZZZZZZZZZZ……
まるで天使の寝顔だ。
「こっちはごまかす気すら無いか……」
「とにかく、妹さんを助け出すんだろ! ただ、なんで俺なんだ? この【中央世界】には俺より手だれなど、それこそ星の数ほどいるだろう。例えば魔女リリィなど無敵だろうに。協力してくれるかは別として」
「君じゃなければダメなんだ」
「どうして」
「実は妹のミリアは……それが捕えられている理由のもう一つでもあるんだが、『予知』ができるんだ」
「予知?」
「未来を知ることができるというものだ」
コウが答える。
「そう、それで、あいつは俺たちが離れる前にこう言ったんだ、『レッドライオンが私たちを助けてくれる』とな」
「レッドライオン……」
「言葉の真意が分からずに、俺はこの世界で〈獣人の獅子タイプ〉や〈ライオンを使役する者〉などライオンにまつわる色々な者たちと闘ってきた、しかし、すべて俺に倒された」
「闘ったのか」
「ああ、軍の施設には俺のレベルの連中が何人もいる。俺に勝てない者が俺たちを救えるとは到底思えないからな」
「では、俺も君と」
「ああ、デュエルをしてもらいたい」

一瞬、間があいた。

「実はもう諦めかけていたんだ、レッドライオンはここにはいないんじゃないのか、ってね。そんな折、君が現れた。“赤獅子の将”と来たもんだ。そのものズバリだよ。実際、俺も君だと思う。二つのデュエルを見て確信を感じた。だからこそ全力で闘ってもらいたい。真偽を図るために」
「正直、俺は君に勝てないと思うんだが」
「俺はそう思わない。だからこそ闘いたい。これで俺が負ければ希望が見えるからな」
「やればいい」
オルフェがそう言った。
「オルフェ。お前、寝てて状況分からないだろ」
「分かる。氏康が闘って勝てばセンの未来に光が差すんだろ」
「へぇ、寝てた割には要点を掴んでるね」
「これでも女王だからな、いくつもの会議を経て、要点だけを掴む特技が身に付いた」
「得意げに言うんじゃないよ」
氏康はあきれ顔で言う。
「お前が言うな」とコウは思っても口には出さなかった。
「大丈夫だ。闘った私だからこそ言える。氏康の闘いには“覇者の精神”を感じた。それは王たる者が持つ黄金の輝きを放つ精神だ。氏康の勝利はすべての者に光を与える」
「オルフェ嬢、やっぱりあなたは皆の上に立つ女王だな。その言葉には人に勇気を与える力がある」
センが感じ入ってそう言った。
「まったく、持ち上げたところで結果は変わらんかもしれんぞ」
「いい結果であれば、変わる必要はないよ」
 
「そうと決まれば、この場でデュエルの申し込みだ」
センは何かを思い出した風に胸ポケットをまさぐった。
「あ! えっと……紹介が遅れたが……俺のパートナーのハムスターの」
センの胸ポケットがごそごそうごめき、ハムスターが顔を出した。
「ハム太です。紹介忘れてたろ、セン!」
「ゴメンゴメン、きっかけが無くてさ」
「きっかけって、まず始めだろ!」
「だからゴメンて」
「コウさん。日程は」
「三日後でどうだろうか」
「どうだセン」
「OKだ」
「おい、本人確認しないで勝手に決めるな」
氏康が言う。
「問題ないだろ」
「別に、無いけど……」
 
センは扉(ゲート)の前で別れの挨拶をした。
「じゃあ、三日後に」
「ああ」
「本気で倒しにかかるから。覚悟しててくれ」
「そっちもな」
「ああ、期待してる。本気の俺を上回ってくれ」
そう言って。光の中にセンは消えた。

 
二日がたった。
「コウ、また今日も氏康は『ザゼン』?」
「ああ、今日もな」
オルフェが様子を見に来た。
「前の説明でも良く分からなかったけど、『ザゼン』って本当に効果があるのか? 剣を振ってた方が、訓練になるんじゃないのか。なんなら私が付き合ってやってもいいぞ」
「説明したとおり、座禅は『無』から始まり、千や万もの型を短時間で思考できる。実際に刀を振るより深い効果を得られるんだよ。デュエルの実態は王の器を図る競技だ。だから【グローブ】なんてものもあるわけだしね。最後は刀の速さではなく、思考の速さが勝敗を分けるのさ」
「そんなものか?」
「そんなものさ」
「……分かった。じゃあ、剣の稽古をしたくなったら呼んでくれ」
「ああ、……やはり分かってないか……」
オルフェは森へ帰って行った。
 
三日後。対戦当日。
「どうだい、氏康。突破口は見つかったかい」
「全容が分からない相手だ。突破口も何も無いよ。ただ、この三日間で頭は空っぽにできた。」
「そうか、それは何よりの成果だな」
 

★ 超能力者 vs. 侍 ★
 
◆〈侍〉東城氏康
字を“赤獅子の将”
赤獅子国の国主。
16歳。男性。
字に習い、黄金の鬣のついた赤い獅子の兜をかぶり、赤と黒の鎧をまとう。
獲物は「緋閃村正」。刀に一筋の緋色が走る名刀。
刀を燃やす「紅蓮」という技を繰り出す。
“主殺し”黒龍ジンライの新たなる主となる変わり者。
 
◆〈超能力者〉センドリック・サウザンド
“一騎当千(サウザンドアームズ)”のコードネームをあてられる。
統一連邦の州国アストリア共和国の軍所属のエージョント。
20歳。男性。
普段着はパーカー、GパンにTシャツという、つまらないスタイル。
Tシャツの柄はアニメのキャラで、この点は家族に受け入れていない。
武器の類は一切使用せず、肉体のみで戦闘を行う。
体術にすぐれ、空間操作タイプの能力者。
 
センはすでに円形闘技台の中央に立っていた。
「待たせたな」
氏康が言うと、センは笑みを浮かべて、返した。
「ああ、ずっと待っていたよ。長い間ね。待ちぼうけはご免だからな」
「やれるだけ、やってみるよ」
 
【グローブ】は氏康がレベル3、センはレベル5が適用された。
ルールは「フィールドあり」を適用。

ジャッジマスターが試合開始をアナウンスする。
 
すぐさま氏康が距離を詰める。
「いきなりかい?」
「距離をとられると厄介そうだからね」
刀を幾度と振るが、そのすべてはセンの波動弾ではじかれ。
「ならば」
氏康は刀を下段に落とし、地面を走らせた。
「あのファイヤーソード(燃える剣)か!」
「そう、緋閃村正“紅蓮”だ!」
すかさずセンが両の手の平を刀に向ける。
すると振り上げようとした刀が上がらないばかりか、村正がまとった炎まで一瞬で消え去った。
衝撃波で炎と刀の振り上げを阻んだのだ。
「なに!」
「一度でも人目にさらした技をそんなに信用しちゃいけないぜ、氏康」
言いながら拳を氏康に向かい突き出した。
拳と氏康との距離はあったものの、強い衝撃波が氏康に打ち込まれ、大きく後ろに吹き飛んだ。
「見せるなら、“見えないよう”にしなくちゃ」
距離をとったところで、
センは間髪入れずに波動弾を連射した。
いくつもの『見えない弾丸』が氏康の体にヒットした。
(このまま終わってくれるなよ、氏康!)
氏康は刀を逆手に持ち、地面に思い切り刀を突き刺した。
強い衝撃に闘技台の石は割れ砂埃が立った。
「目くらましのつもりか! 氏康!」

カン!  カン! カン!

砂煙の中から何かを打つ音がしてからセンに向かって拳大の石が飛んできた。
冷静に二つをかわし、避けた方に飛んできた比較的遅い石は波動弾で撃ち落とした。
(三つの礫。これだけか?)
次の瞬間、空か風を切る音が聞こえそちらに向くセン。
空から一つの石弾が落ちてきた。
「な! まだ?」
予想外の攻撃に慌てて交わし体勢を崩す。
思考を巡らすセン。
「そうか、まず一つを打ち上げ、次の二つを真っ直ぐ打ち込む、最後の一つは打音を隠すため、『手』で投げたのか!」
「ご名答だよ、セン」
いつの間にか背後に回った氏康の振り下ろす手刀がセンの後ろ首を狙う。
「最後の最後で詰めが甘いな、氏康」
センは言いながら氏康の左足に波動弾を撃ち込み体勢を崩させた。
更に自信もブーストの力を使って瞬時に避けた。
手刀は首をかすめ空を切った。
すぐに体勢を整えセンが距離をとる。
「刀のリーチがあれば、勝負は決していたところだ。真剣で来いと言ったはずだぞ」
「手を抜いたつもりはない、手刀の方が確実だと思っただけさ。単純に君が上回っただけだよ」
ゆっくりと立ち上がりながら氏康はそう言った。
「そんなセリフを吐くなんて、ギブアップのつもりか?」
「まだ諦めたりはしないさ」
「それを聞いて安心したよ」
センは腕を横に広げ天に手のひらをかざした。
フィニッシュの覚悟を決めたのだ。
内心、もはや氏康に勝機は無いと。
「さっきの手は結構いい線行っていたよ。だからこそ、決め切れなかった君に勝機は無いように思うんだがね」
「いや、まさにそのさっきの砂埃の中で起死回生の案を思いついたんだ」
「ほう、どんな?」
「こうするのさ」
氏康は兜を脱ぎ、身につけていた布を強引に切り裂き、その布で目隠しをした。
「師の言葉を思い出した、目で追うのではなく、心の目で追えとな」

センはため息をついた。
「そうか……(つまり君でも無かったといことか)……勝負を決めよう、氏康」

「ああ、これが最後だ」
そう言って刀を鞘に納めた。
(抜刀か、それでいくら剣速を速めたところで、近づけなければ意味がないよ)
センが交差させた人差し指と中指を氏康に向け、波動弾を発射した。
センに向かう氏康はその波動弾を交わした。
(交わした? 偶然か?)
再び二発の波動弾を発射した。
氏康はその一つを避け、一つを右拳で「弾いた」。
(不可視の波動弾を避け、弾いた!?)
オーラの力はオーラでしかはじく事が出来ない。つまり、元来氏康が素手でオーラ攻撃である波動弾を弾くことなど不可能なのだ。
「面白い! やはり君は俺が待ち望んだレッドライオンか!」
再び、発射した波動弾をすべて弾く姿を見て、それを確信した。
「見えないと言っても攻撃の実態はある、気の動きを感じ取れば対応できる」
(君自身も分かっていないようだな、オーラの力に目覚めつつあることを!)
センは2歩ほど後ろに引く。
「だがな、俺の技はこれだけでは無いぞ!」
氏康が近寄ったところで、拳のラッシュを繰り出した。そうバイキングを葬ったあの技だ。
実態はサッカーボール大の波動エネルギーの塊を空中に数多く仕掛け、接近した相手に四方八方から攻撃するというものだ。センが『ミサイル』と呼ぶ技だ。
「君が言った言葉だ、セン。一度人目にさらした技は信用してはいけないよ」
「ダラァアアアアアアア!」
その全てを氏康は交わし、いなし、弾いた。
(うれしいね、体術も本物か)
「!」
戦いの中で、センは氏康の腕にオーラの存在を感じた。
(俺の攻撃が氏康のオーラを目覚めさせたのか)
すべてを身切り懐に飛び込む氏康。
「これが最後のトラップだ」
センがそお言い、空中に仕掛けていた『波動機雷』を弾いた。

パチィーーーンッ!

地雷と同じ要領で空中に仕掛けられた空気爆弾、それがセンの奥の手『マイン』という技だ。赤獅子国に招かれた際にオルフェに仕掛けた悪戯レベルではなく、殺傷力を持った威力で放つ。技を放ったセン自身も衝撃破を出し自らの身を守った。

ガードをして数メートル吹き飛ばされた氏康だが、空中で刀の鞘を地面に刺し、それを軸に素早く回転し、その反動の勢いも利用して再び距離を詰める。
センも波動弾「ショット」で追撃するも、氏康は全て腕で弾き向かってくる。
そして間合いに入った次の瞬間。
「抜刀“紅蓮”だ」
炎の刀が一閃しセンの体を炎が包んだ。
「勝負ありだな」 

ジャッジマスターは氏康の勝利を宣言した。氏康は刀を振るいセンを包む炎を消し去った。


中央病院の病室に寝てるセン。
目を覚ましたセンの前には氏康、コウ、オルフェ、小さくなったジンがいた。
起き上がりセンは言う。
「やっと会えた」
センは手を氏康の方に出した。
「ああ、妹さんを助けるんだろ」
その手を握り、氏康が答える。
「君がいればそれは可能だ」
「私もいるぞ」
オルフェが割って入る。

 
「早速だが」
「勝負に負けた俺にはもうそろそろ刺客が送られるはずだ」
「どうして?」
「お前、ここのルールをまだ完全に覚えてないのかな」
 
「ルールにはこうある、闘士が存命の場合、他の闘士を同一所属から参加させることはできない。ただし、闘士が死んだ場合、次の闘士を参加させることは可能である。とな」
「つまり?」
「俺が生きてたら、次の人間を送り込めないってことだ、一度負けた者は再戦のチャンスはほぼ無いという話だから、俺は国にとって邪魔なだけな存在なのさ。俺の国はなんであれ『一番』でないと気がすまないタチだからな。さらにせっかちだ」

センは能力について説明を始める。

俺たちの超能力には大きく分けて大体2つのタイプがある。
それはオーラを身体に留める「身体の強化」とオーラを体外に出し操る「空間支配」だ。
大体の場合は「身体の強化」が発現する。俺みたいな「空間支配」タイプは結構レアタイプだったりする。一応これ自慢な。
「身体強化」でフィジカルを強化するタイプは比較的相手にしやすい、ただ「五感の強化」タイプはクセのあるやつが多くて、ハマルと厄介だ。ちなみに妹のミリアの「予知」は「五感・知覚の強化」に当たるらしい。さらに時を操る能力があるらしいが、「空間支配」タイプよりさらにレアタイプだ。俺も未だに出会ったことはない。
 
「だから。4行以上の説明で眠くなるクセどうにかしろ! お前ら」
ウトウトしている氏康とオルフェ。
コウもあきれ顔でうなずく「僕も全くの同感だ……」
意識を取り戻しオルフェが言う。
「とにかく! 攻めてくる悪い奴はやっつければいいんだよな」
「オルフェ、要約ありがとう…」
「いいって、気にするな」
「……」
当てつけで言ったつもりのセンだったが、オルフェには響かないとあきらめた。
 
いきなり病室の壁が壊された。
あがる煙の中から人影が現れた。
「さっそくお出ましか」
巨大な体躯とその方に乗る小柄な二人組の姿があらわになった。
「〈筋肉〉と〈耳〉かよ。俺もなめられたもんだな」
「私がやるぞ。最近実戦不足で体がなまっているからな」
オルフェが進み出る。
「オルフェ嬢。奴らは『超筋肉』と『地獄耳』と呼ばれる二人組だ。力だけなら君より上だ。耳の方は筋肉が動く音すら聞きことができ、行動は読まれると思っていい」
「問題ない」
「ぶははははは! セン! 『千の軍(サウザンドアームズ)』などと呼ばれいきがっていたようだが、所詮は負け犬。お前を殺して、俺がこの闘いに世界に参加をしてやるよ!」
「典型的な三下タイプだな」
オルフェが爪を出し静かに歩み出す。
「なんだ小娘。変な耳など付けおって。邪魔をするならお前もミンチだぞ」
「オルフェ! 無益な殺生はだめだ。」
「分かってる」
「殺さないでと命乞いの相談か?」
一瞬だった。
オルフェの体が跳ねた瞬間。
〈筋肉〉の両脚の腱を切りあげていた。
「お前を殺すなという話だ」
「ぐおおおおおおお! 何だ! 何が起こった!」
「力があろうとスピードが無ければ無駄だということだな」
オルフェは〈筋肉〉の顎に強烈なパンチをぶち込み、相手は崩れ落ちた。
「さぁ、そっちのお〈耳〉さんはどうする」
「く、くそ」
〈耳〉が「頭」となり指示を出し〈筋肉〉が「体」を受け持ち効果的な闘い方を基本としていたため、「体」が動けるなくなると〈耳〉の戦闘力は0に等しい。
〈耳〉は逃げをうった。
「逃げられ軍本部に状況が知れたら厄介だ!」
「任せておけ!」
オルフェが駆けて〈耳〉をあっけなく仕留める。
〈筋肉〉と〈耳〉は堅い鋼鉄糸でぐるぐる巻きにされた。
さらに〈筋肉〉は筋肉の腱を切られ、力を奪われている。
「こいつらが失敗したと分かったら次が来て、また次、そのまた次と終わりは無い」
「ならば、一気に本丸を攻め落とすしかないな」
「ああ、準備も何もないがな」
「私の一族を援軍に呼んでくるか?」
オルフェが聞く。
「いや、少数精鋭の方がいいだろう。最悪の場合人質として敵に吸収されることも考えられる」
「われら一族はそれほど軟ではないぞ」
「それが過信で無い事は分かるが、敵には相手を操るタイプもいる、それ以上に時間がない」
氏康が最終決定をする。
「今いる、このメンバーのみで行こう」
 
氏康たちは場所を変えた。
街外れの見はらしのいい野原に来ていた。
「で、施設の見取り図は」
「今見せる」
センは言うと土の広がっているところへ歩いていった。
両手を地面に向けて意識を統一した。

「はっ!」

勢い良く土埃が舞い上がり、地面の土には施設の見取り図が現れた。
「衝撃波で作った見取り図だ。これでも建築家志望でね。正確なはずだ」
「これまで俺が集めた情報によると。ミリアは地下5階に収容されているはず」
「そこへの道は」
「ここのエレベーター一基のみ。秘密の道はあるかもしれないが、俺が知っているのはそれだけだ」
「ところでなんで敵はお前の場所を特定できるんだ」
オルフェは聞く。
「おそらくミリアと俺が通じ合っている波長を追っているんだろう。軍に中に人の波長を追うことができる奴がいるんだ」
「ならばセン、お前が近づけば」
「ああ、軍にも知れるだろうな」
氏康は少し考えてから口を開いた。
「よし二手に分かれる。センは残って追っ手を倒し続けてくれ。その隙に俺とオルフェとジンでミリア殿を助け出す。敵は俺達の存在に気付いてはいないはずだからな」
「だが、案内が」
「地図は覚えた、それとも、俺とオルフェとジンでは役不足か?」
「策があるなら聞いておきたい。信用していない訳ではないが、慎重を期すために。その二、その三と策は重ねておきたい」
「電撃戦を仕掛ける。センが遠くにいる状態と見せてその隙に相手の虚を突く」
「侵入はどうする?」
「簡単だ、―――」
策を聞いて一同はあっけにとられる
「単純だが一番確実か」
「単純なのは好きだぞ」
「たどりつくまでは分かったが、だが肝心の最後は」
「問題ない俺たちには『翼』がある」
 
侵入はあっけなくできた。
鉄を裂くオルフェの爪と二人の速さがあれば難しい事は無い。
施設の電子ロックなどは張り子の虎も同じことだった。
さらに言えば多くの能力者はセンの追撃に出払っている。
エレベータ―の扉を切り開き、箱の中からエレベーターの天井に昇った。
「行くぞ」
「ああ」
氏康は刀を抜いて、エレベーターを支えていたロープを切りおとす。
凄まじい速度でエレベーターの箱が落ちる
「飛ぶぞオルフェ。力一杯蹴り押すぞ!」
「ああ!」
落ちるエレベーターの箱を思いっきり蹴ると同時に二人は跳ねた。
安全装置が作動するひまはなく最下層の地面に衝突し轟音と共に爆発した。
二人は刀と爪で壁にしがみついた。
混乱に乗じて地下5階、ミリアがいるであろうフロアに入った
(貴方は、ミリア様の救出者でしょうか?)
突然、氏康の頭の中に声が聞こえた。
「誰だ!」
(ミリア様と共にこの施設に捕えられている者です。思念派、『テレパシー』というもので直接あなたの頭に声を飛ばしています)
「どうした氏康」
「頭の中で声がする」
(あなたがミリア様がおっしゃっていたレッドライオン殿であれば、いくつか伝えることがあります)
「何だ?」
(まず、ミリア様救出にはいくつか障害があります。まずは正面の部屋の主。この施設の最高責任者で。〈壁〉という障壁を操る能力者です。生半可な攻撃では本人に傷すら与えられません。)
「打ち破る術は無いのか?」
(これに関しては、ただただ強い力で壁を打ち続けるしかないでしょう。能力は精神の強さと同じです。相手の心を折る闘いだとお思いください)
「分かった、次の障害というのは」
(今はまず始めの障害に集中しましょう)
「分かった、まずはその者を討つ。続きはその時に」
(はい、お待ちしております)
 
鍵が掛った扉をオルフェが切り裂き、二人は中に入る。
「騒がしいと思ったら侵入者か」
椅子に座った人影が言った。
部屋はたくさんのモニターがあり、どうやら指令室というところらしい。
「貴様らどこのエージェントだ」
椅子が氏康の方を向き、二人の姿を確認した様だ。
「そのおかしな格好。なるほどセンの協力者か。向こうの世界で協力者を得たか」
少し笑って男が立ちあがった。
「センがいっこうにこちらに向かってこない。何か企んでいるかと思っていたが、協力者とは……。他人を信じず何でも一人でやろうとする男だけに協力者の線は予想をしていなかったな」
奥の扉を見た。
ガラス張りのその奥に人一人が入るほどのガラスの筒があった。
その前に男はゆっくりと歩みを進めた。
「その奥にミリア殿が?」
男は椅子を置きそこにかけた。
「俺を倒して行けば分かるぞ」
「ならばそうさせてもらう」
既に氏康は刀を抜き斬りかかっている。

ギュアン!

衝撃音。
氏康の刀は「見えない壁」に阻まれた。
すぐさまオルフェの爪で切りつけるが、これも壁に阻まれた。
「時間はあるんだゆっくりと話でもして過ごそうではないか」
氏康とオルフェは何度も斬りかかる。
「せっかくだ、名前を聞かせてはくれないか」
「悪党に語る名は持たん」
「私も持たん」
「悪党か、フフ、何とも……。ではお前たちは正義の味方か?」
「そうだ」
「これは笑える。善悪も分からない子供たちがセンの口車に乗せられた、といったところか」
「ミリア殿を誘拐しておき悪ではないと言うか!」
「それは認識の相違だよ。彼女は我々の計画に協力してくれているのだ」
「計画?」
「平和な世界の実現だ」
「何だと」
「平和とはなんだ、小僧?」
「争いの無い世界だ」
「ではそれをどう実現する」
「対話を進めれば誰とでも通じあえる」
「それは無理な話だ。お互いの利権が対立すれば、いくら対話を進めたところで最終的には戦争で決着をつけることとなる。自分の世界で考えてみろ」
「ならば、お前はどうすれば世界平和になるという」
「簡単な話だ、その圧倒的な力による支配だよ」
「圧倒的な力?」
「これほどシンプルで分かりやすい事は無い。どの相手も自分より絶対的に強い相手の前では争おうという考えすら消えうせる。そのために我々は能力者を集め絶対的な軍隊を作り上げる」
「暴力が支配する世界など、それは単なる隷属と言う」
「ああ、そうだ。だがそれの何が悪い」
「人と人とは対等だ、誰に従い誰を支配するなどということはあってはならない」
「まったく、いちいち子供の戯言か。そもそも、その『人は対等だ』という考えからして間違っているんだよ」
男は机の上にあるグラスを持ちそこにブランデーを注いだ。
「持てる者、持たざる者。この世に生まれ落ちた瞬間に人の階級は決められているんだよ」
「ダメだ氏康、こいつの目的は時間稼ぎだ。無駄話で部下が集まるのを待つつもりだ!」
「ほう、獣の娘。意外に頭が回るではないか。そんな形でも知性というものもあるのだな」
オルフェが半獣化して斬りかかる。
「無駄だということが分からないんかね。お前たちは」
壁に弾かれる。
「戻れ、オルフェ!」
オルフェが氏康の元へ来る。
「俺に策がある、―――」
「ワカッタ」
「よし、次で決めるぞ」
「ほう、まだやるか。一つの事実を君たちに格言を教えてあげよう。『同じ方法で繰り返し行い、違う結果を期待すること、それを狂気と言う』。ある学者が言った言葉だ。まさに今の君たちの為にある言葉じゃないか」
「『意志の力は岩をも通す』という言葉もあるぞ」
氏康は刀を抜き下段横に構え腰を落とした。
「では見せて見たまえ、君たちの意志の力を」
「オルフェ!」
オルフェが駆ける。
連撃を繰り出す。
幾つもの閃光が弾ける音と響き部屋の中に渡る。
「どけオルフェ!」
続けざまに氏康が斬りかかる
「紅蓮!」
一太刀
「舞炎!」
二の太刀、三の太刀と続ける。
その太刀は十、二十と続く
いつの間にか刀にはオーラがまとわれ、見えない壁に次第に「傷」が露になっていく。
「馬鹿な! 不可侵の絶対障壁に傷だと!?」
(そろそろだ)
「ジン!」
「ああ、僕にも見えた!」
氏康のその掛け声で黒い影が巨大化する
「ドラゴンだと!」
驚きの声に合わせてジンの爪が走る。
「ただのドラゴンじゃないよ、聖獣さ!」
ピキッ!
何がが欠ける音がし、氏康が叫ぶ。
「見えた!」
空間の裂け目を見出し、氏康がそこに渾身の刀を振るう。

ガギャァアアァアァン!

何かが割れ落ちる音、まるでガラスが割れるような音がした。
「私の、私の絶対不可侵の衝壁が破られるだと!!」
「ジンとどめだ!」
龍の咆哮で光の球が走り、椅子の男撃ち抜いた。
凄まじい光と爆風が部屋の中で広がった。
「なぜだ……」
「俺たちの想う気持ちがお前の力を上回った。それだけだ」
男は意識を失い崩れ落ちた。
 
(やってくれましたか)
「ああ」
(ミリア様はその扉の奥です)
扉を開ける。
そこには透明の筒に横たわる一人の少女がいた。
美しい黒髪にはヘルメットの様なものかぶされでいていろいろな管につながっている。
体自体にもざまざまな管がつながっている。
(これから私が言うとおりにコンピューターを操作してください)
機械に慣れていない氏康にとってはこの入力はある意味刀での闘い以上に苦戦した。

指示の通り最後に「エンターボタン」を押した。
スリープケースはプシューッ! という音と共にゆっくりと開いた。
中で眠っていた少女はゆっくりと目を開き上体を起こした。
そして氏康の方を向き微笑みながら言った。
「待っていました」

黒髪の美しい少女を前に、少年は一目で恋に落ちた。
 
(さて、それでは最後の難関です)
「ああ、指示を頼む」
「セバスさんと話を?」
「指示を仰いでいる」
(時間がありません。最後の難関は脱出となります。ミリア様がそのケースより降りると、施設の爆破装置が作動します。3分以内に施設を脱出してください)
「爆弾?」
「爆弾って何だ氏康!」
「なぁ、皆の思考を繋いで話はできないのか、時間が無い中で繰り返しは避けたい」
(分かりました……、ミリア様、待ち人との出会い、おめでとうございます)
「セバスチャン! ありがとう、あなたも無事なのですね、先ほど話していた爆弾とは?」
(あなたがそのケースを降りてから3分でこの施設は爆破されるということです。あなたが敵国に渡る事を恐れての処置のようです)
「分かりました。その途中であなたも救出します」
(何をおっしゃっているのですか! ただでさえ時間がない中、老い先短い人間にかまっては行けません!)
「恩人を置いてなど行けるか!」
氏康が叫ぶ。
「ミリアさん、そのセバスチャンの場所は分かるか?」
「はい私の千里眼を使えば」
(いけません、私の事など構わず!)
ミリアは目を閉じ両手をあわせた。
ミリアは元々『予知』の能力を持っていたが、長い監禁生活の中で『千里眼』の能力を発現していた。
『千里眼』とは、対象の事を強く念じれば、その場所が分かるというものだ。
ただし、見れるビジョンは曖昧な場合が多い。
「見えました地下2階です!」
「ジン、頼むぞ」
「振り落とされるなよ」
「さぁ、ミリアさん!」
ミリアがジンに飛び乗ると、部屋の全モニターが警告を示すレッドシグナルと化した。
モニターに表示された数字は3分。
「行け! ジン!」
龍は三人を乗せ飛んだ。
施設はパニックに陥っていた。
その中で龍の存在にかまけておられる者などいなかった。
エレベーターの破壊はその混乱に輪をかけた。
囚人が収容されている地下2階へと進む。
一番奥の部屋の扉をオルフェが裂いた。
部屋には初老の男性がいた。
「来てはいけないと言ったのに……」
「俺たちの龍の速さを侮ってくれますな」
「さぁ、セバスチャン。早く!」
憔悴しきってうまく動くことができないらしい。
それを見たオルフェがセバスチャンを担ぎジンに飛び乗った。
「さぁ、お前の神速を見せてくれ!」
龍は吠え、風の様に駆けた。
 

大きな爆発の後。
施設は大きな円を描き地下に沈んだ。

その中心から煙を裂いて龍が天に昇った。
空で盾がわり使ったセバスチャンの囚人部屋のベットを捨てた。
「間に会った……」
ミリアがつぶやく。
「奇跡か……」
セバスチャンがこぼす。
「この神龍ジン様のお陰だからな」
「ああ、お前のおかげだ。流石は聖獣様だ」
氏康がジンの頭をなでる。
皆は煙をあげるその大きな穴を見降ろしていた。
特に長年監禁されていたミリアとセバスチャンは感慨深い表情だった。
「さぁ、帰ろうか」


赤獅子国
【扉(ゲート)】の前で血だらけでボロボロのセンが座ってた
「おせーよ、お前ら。あとちょっとでやばかったかな」
「お兄ちゃん!」
「ミリア、無事だったか!」
「はい、それよりお兄ちゃんが」
「救いに行けなくてすまなかったな、俺が近づくと救出が困難になると思ってな」
「分かってました、でも大丈夫でしたよ。氏康様が助けてくれましたから」
「私もいたぞ」
「はい、オルフェ様にもとても感謝しております」
「別にお前のためにいったわけじゃないんだぞ。氏康が行くっていうから」
「それでも命をかけて戦ってくれました。ありがとうございます」
「お、おう」
氏康はセンの隣に腰を落とす。
「可憐な女性だな、ミリア殿は」
「おう、……ん?」
氏康の頬が少し赤らんでミリアを見ているのを確認したセン。
「お、お前まさか、ミリアの……事を?」
「ああ、おそらくこれが恋というやつなんだろうな」
「ダメだ!」
「な?」
「助け出してくれたことには感謝している、一生感謝し続けてこの借りは返して行くつもりだ。だが、付き合うとなると話は別だ!」
「ちょっと待ってよ、なんでお兄ちゃんにそんなこと言われなきゃいけないの」
「セン、お前、シスコンというやつか」
オルフェが言ってはならない事を言う。
「違う! ちょっと妹思いのお兄さんなだけだ!」
「それを世ではシスコンというらしいぞ」
「だーかーらー! 俺は断じてシスコンじゃねー!」
「氏康様は私の運命の人です」
「ちょっと待て、氏康は私の運命だ!」
「え! そうなの!」
オルフェの言葉に驚く氏康。
「なんでお前が驚く! あれだけの事をされたら運命の相手だろう」
「あれだけとは?」
「お前に教えてやる義理は無い。私と氏康だけの秘密だ」
「私だって氏康様とは4年も前から待っていたんです。時間が違います」
「初めてあったのはついさっきだろう!」
「モテモテだな氏康」
ジンが茶化す。
「いやいや、なんかすごいめんどくさいことになってる気がする」
「なんかもー、ふつーのラブコメみたいだな、これ」

 
「セバスチャン、もういいのかい?」
「ええ、おかげさまで。ここ数日、陽の光を浴び、栄養のある食事もとれました」
「そうか、ところで、故郷があればそこまで送って行こうかと思うんだが」
「実は私はあの施設に捕えられるまでは、ある一家にて執事をしておりました」
「コウ、執事って?」
「主人を補佐するのが仕事かな」
「ええ、そんなところです。しかし、私が捕らえられた時に巻き添えで殺されてしまいました。ですので、この歳で身寄りのない身でございます」
「そうか、では我が国で暮らさぬか? 数日過ごして分かったと思うが、自然豊かな良い国だぞ」
「こちらからもお願いしたく思っておりました。命の恩、この一生をお仕えしお返ししてゆきたいと。この城にお部屋を頂き宮使いをさせてください」
「恩とか、仕えるとかそおゆうのはいいから。では城の好きな部屋を使うといい」
「これからよろしくお願いいたします。氏康様」
「氏康様はやめてくれ。氏康でいいよ」
「そうはまいりません、主人に対して」
「俺たちもよろしく頼むぜ、氏康」
振りかえるセンとミリアがいた。
「セン、もういいのか」
「ああ、やっぱあの薬は良く効くよ。もう何の支障もない」
「氏康様」
ミリアが氏康に近づこうとする間にセンが割って入る。
「あのな、氏康。俺たち兄妹、この国に世話になるが、妹に手を出したらただじゃすまないからな」
「お兄ちゃん、やめてって言ってるでしょう」
「ダメなものはダメなんだ」

 
センとの戦いで新たに東に広大な農地を得た。
「東野」と名付けられたその土地を皆で開墾をしていた。
ここが次の季節にメインの農地となる場所だ。

一方、先だって耕していた田園では見事に穂が垂れ、畑には実りが満ちていた。
人と獣人が協力した結晶が形になったのだ。
畑仕事を手伝っていた氏康もふと一息つき、木陰で座りその光景を見ていると、胸が一杯になっていた。
富める国、皆が幸せに暮らせる世界。
その歩みは確かに思えた。
セバスチャンが淹れてくれた緑茶を飲みながら、氏康は次の国作りについて思いを巡らせていた。


赤獅子国―農地拡大
住民
侍:1人
犬:1匹
人間:180人(INCREASE)
狼人:28人
兎:1匹
龍:1頭
超能力者:2人(NEW)
ハムスター:1匹(NEW)
執事:1人(NEW)
 
森燃ゆる秋
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