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第3.5幕 鉄球の飛来物
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赤獅子国の季節は秋となり
田んぼの穂は垂れ
米の収穫の時期となった
赤獅子国初となる国産米は「赤獅子米」と名付けられた。氏康がいた大和国の縁起物「獅子舞」にもちなんだ名前だ。
同時に米酒の製造も職人たちが始めた、初の国産米「赤獅子米」と黒龍山で取られた名水をつかった酒を造っている。職人たちは米の出来と水のおいしさに期待感を高めている。「獅子龍」と名付けるといっていた。
氏康は考えていた事を国家会議の場にて提案した。それは「収穫祭」の開催だ。その日は、皆で仕事を休み食べて飲んで笑い合おうというのだ。出席者は皆異論はなく、是非やるべきだと賛同した。この事は国民全員に告げられ国をあげての準備に入った。3日後に開催を決定。
米の収穫の本格化。
オルフェたちフェンリルの森の住民は狩り。
漁師は祝い魚の漁へ。
学校の生徒たちは果物など自然の恵みを探しにそれぞれ向かった。
氏康は「アーディル工房」と名付けられた研究所に向かった。
そこは数カ月前にこの国に科学の種を植えてくれた天才少年博士の名にちなんだ名前だ。
氏康が入っても、出迎えは無い。
辺りには様々な科学機材と発明品が並んでいる。
その工房の主である「経蔵」という名の少年は研究に没頭していた。
この経蔵はアーディルにもその将来性を認められ、短期間であったとはいえ、学問を修めこれからも励むよう、「イジャーザ」という称号をもらったらしく、本人は「イジャーザ」と自分を名乗るようになった。先日、この彼の作った水鉄砲は厚さ5㎝の木片を打ち抜き、もはや子供の遊びの域を超えていたため、遊びで使う事が禁止された。
知識は爆発的に増えては行ったが中身は子供、加減が分からないのだ。
「おい経蔵! どこにおる?」
奥に進むと、少年は書物から目をあげ氏康を確認した。
「これは氏康様、こんなところにどうしました?」
「実は頼みがあったな。お主に花火を作ってもらいたいのだ」
「花火ですか?」
「そうだ、収穫祭の事は聞いておるだろう。祭りには花火が付き物だからな」
「分かりました。ド派手なやつを準備しますよ。そうだ、氏康様ちょっと待って」
言うなり経蔵は奥に行き、何かを持って戻って来た。
「これ持っていってください」
「なんだこれは?」
「通信機です。離れた相手とも話ができます。使い方説明しますね」
単純な操作しか必要ないのだが、機械音痴の氏康は凄い時間がかかり何とか使い方を理解した。
「これを押して話す。だな」
「これで遠くに離れた相手とも連絡が取れます。オルフェさんのフェンリルの森まで電波は届くはずです」
「東西南北の見張り台もつなげるのか?」
「あそこまでは遠すぎますね。中継地が必要です」
「そうか、この道具を使っての効果的な見張りの体制を組みなおすか」
「ところで氏康様、相談していた件は?」
「鉄の事か?」
「はい、やはり木製だと熱耐性が無いんで、作れるものも限られるですよ」
「鉱山の調査は進めてるんだが、中々思わしくなくてな。いっそ空から降ってこないものか」
「そんな事ある訳ないじゃないですか」
「まったくだ」
氏康はもらった通信機を城に持ち帰り、仲間内で見回りの体制の件を話しあった。
翌日、祭りの2日前。
ミリアが予知夢を見たと氏康のところにやって来た。
その内容は「空から大量の鉄球が降ってくる」とのことだ。
氏康は「俺が願ったからか」と思わず考えてが、ここでは黙っていた。
緊急で対策員会を設けた。
隕石だった場合、城下町や農地に落ちれば被害は大きい。
それより住民を守らねばならない、物は直せるが人の命はそうはいかない。
対策会議にはイジャーザも参加している。
今回は科学的な知見も必要だと、会議に参加を要請されている。
本人は研究に没頭したいので出たくないと言っていたが、国の一大事だと説き伏せられ、しぶしぶ参加している。
オルフェが無邪気に言う。
「打ち返せばいい」
「ダメです」
イジャーザがすぐさま反論する。
「そもそも衝撃がハンパ無いから無理です。オルフェさんのパンチ力の威力の1万倍の威力と思えば想像できますかね」
「それはシャレにならない威力だな」
「1万倍はざっと予想した数字です。実際は更にその上を行く可能性も高い」
「センの念弾で打ち返せないのか?」
「氏康、前にも言ったろ。オーラの力は生命体にしか効果が無い。ただの金属の塊に打っても何もおこらないよ」
「今回のセンは役立たずだな。キャハハハ」
「言い過ぎだぞオルフェ嬢」
以下の事が決められた。
・その時が来たら、住民を一か所に集める
・防空監視はジンライが担当
・上空にて追撃チームが鉄球の軌道をずらし、城下町以外に撃ち落とす
祭りと防空の準備は進む。
そして収穫祭当日となる。
全ての国民が城の広場に集められた。
氏康の挨拶が終わり、収穫祭は昼から始められた。
「どうなるかもわからない追放された俺について来てくれて、本当にありがとう。狼人族の皆、君たちの協力が無ければ、住むところままならぬ状態だったかと思う。おかげでこうして食べる物にも困らなくなった。今日は大いに食べて、飲んで楽しんでくれ!」
オルフェがコップを持って氏康の隣に立った。
「堅苦しい話は無しだ氏康! 皆コップを持て! 行くぞ!」
コップを天に上げる。
「かんぱ―――い!!」
皆がコップを高らかに上げた!
皆が仲良く食べ飲んでいる。
その姿を見て氏康は胸が一杯だった。
その横にミリアが来た。
「氏康様。いいですか」
「これはミリア殿」
「忙しそうで、最近ゆっくりとお話しができないですね」
「次から次に色々と起こるからね。国を治めるってのも大変だよ」
いい感じのところでセンドリックが間に入ってくる。
「油断も隙もあったもんじゃない」
「もーまた邪魔する気なの、おにーちゃん」
「邪魔じゃない。監視だ」
「まったく」
その夜、その時が来た。
はじめはミリア、次にジンライが気づいた。
空に大量の鉄球の存在を確認したのだ。
氏康が言う。
「幸い皆がここに集まっている。空からのをしのげば。俺たちの勝ちだ」
追撃方法は、ジンライ「雷砲」。氏康とセンは特注の「鉄棒」。職人たちに可能な限りの強度の棒を数本用意してもらった。センドリックは重いバットだなと言った。そしてオルフェは爪は容易く鉄を裂く。ただ果実酒を大いに飲んでいるので戦力になるかは疑問だった。
ジンライの背に氏康とオルフェ、そしてセンドリックが乗り命綱を付けた。
「いくぞ、これは国を護る者たちの責務だ! 誰一人死者はおろか怪我人も出すな!」
「皆から力をもらっているんだ聖獣としてここで仕事をしないとね」
「ベースボールはリトルリーグ以来だな」
「キャハハハ! 女王の務めは慣れっこだぞ、ヒック」
ジンライは空へと向かった。
しばらく空を見ていると、夜空には新たに数百の星が生まれた。
セバスチャンのテレパシーの力で氏康、ジンライ、オルフェ、センドリック、ミリア、経蔵の意識をつないでもらっている。
ただしセンドリックからは一度にこれでも人数のそれも距離の離れた相手の意識をつなぐことは精神的に疲れるため長い時間は無理だと言われている。
予備のために上空迎撃チームには小型の通信機を用意してもらっている。
「経蔵、ソロモンの計算ではどれだけの数がこの城中心に落下する?」
「ほとんどは海に落ちる。だけど、どうやら数十はこの周辺に落ちる」
「正確な数字を頼む」
「ジンライさん、今の高度はどれくらい?」
「言われた通り城の真上1万メートルあたりにいるよ」
「そこから東に1キロほど進んでください」
「はい、移動したよ」
「その半径300メートルに落ちてくる鉄球をすべての軌道をずらしてください。氏康さん、その数は26個です!」
「26か、中々骨が折れそうだな」
「ふあー、来るぞウジヤシュ!」
オルフェの叫びに一つ目の鉄球が降って来た。
氏康は経蔵のアドバイスを思い出していた
「いいですか、落下してくる物体の正面ではなく、横か後ろを叩くんです。そうすれば軌道が変わります。少しでいいんです、少しでも軌道をずらせれば街への被害はなくなります」
鉄球に向かって氏康か跳ぶ。
その横側を思いきり打ち付けた。
その衝撃で鉄球の軌道がズレ、氏康は吹っ飛ばされるが、その威力を使い、伸縮性の高い命綱でジンライの背に戻る。
「ふー、これで一つ。あと25個か」
「次は私が行くぞー!」
「オルフェ、分かっているな。正面から行くなよ」
「ああ、任せておくのだ、ヒック」
そして正面から突っ込むオルフェ。
オルフェの渾身の一撃に鉄球の軌道は変わったが、皆のいる場所にすさまじいスピードで戻ってくるオルフェ。
ジンライがこぼす。
「あれ受け止めたくないんだけど」
「任せておけジン。オルフェ嬢、ちょっとばかし痛いが我慢してくれよ」
するとセンドリックは両手を突き出し、念の障壁を作った。
その壁に激突するオルフェ。
「痛ったーい!」
衝撃が弱まりジンライに背中から着地した。
「おいオルフェ、正面から行くなと言ったろ!」
「キャハハハ。いやーつい盛り上がっちゃって、行けるかなーって」
「全く、少し身体を休めていろ、しばらくは俺とジンとセンで対応する」
「おい氏康。今度は10個近く連続で来るぞ」
「今思いついたんだけど、弾いて球を別の球に当てれば手数少なくならないか」
「ああ、ビリヤードみたいな感じか」
「びりあーど?」
「ああ、俺の国にあった球付遊びだ。なるほどな、いい考えだ」
言うなりセンドリックはジャンプして狙いを定める。
「いくぜ! ダラァ!」
見事なクリーンヒットは二つの球に連続で当たる!
「見ろよ! ナイスヒットだろ!」
「ああ、ジンも俺たちの打ち漏らしを頼む」
「任せておいて」
30分ほどが経った。
「これが最後だ!」
氏康の26個目となる鉄球を弾く。
「ふー、終わったなー」
センドリックが汗を拭き横を見ると、オルフェは気持ちよさそうに寝ている。
「全くこの女王様は」
「しょうがないよセン。経蔵。聞こえるか?」
「……」
「ん? 聞こえんのか?」
「氏康、どうやらセバスチャンさんの体力が尽きたらしい。数分前から下とは連絡がとれていない」
「そうか、ジン。急いで下に戻ろう」
「ああ。危なかったよ、そろそろ俺もエネルギー切れだったからさ」
地上へ向かう。
空から地上と見る。
城下町には幸いダメージは無いようだ。
遠くを見渡すと幾つかの農地に大きなクレーターが出来ていた。
「収穫の後で良かった」
地上に戻る。
慌てて経蔵が迎えてくる。
「氏康様! 急いで戻って最後に1つだけ現れて、それが丁度ここに落ちる!」
「ジン行けるか?」
「ごめん、直ぐには無理だわ」
「経蔵、落下想定は何分後だ?」
「10分も無い」
「困ったの」
辺りを見渡す氏康。
そして何かを思いつく、
「経蔵、直ぐに計算を頼む」
皆は城の天守閣の屋根の上にいた。
そこには何十もの大筒が並べられている。
「氏康様もめちゃくちゃな事考えるよな」
「言っただろう。祭りには花火だと。締めくくりにはピッタリだ」
「仮にすべてが計算通りだとしても、大分威力を弱めるだけですからね」
「十分だ、最後は俺が仕留めてくる。そら、来たみたいだぞ」
経蔵は時間を計りながら花火に火をつけていく。
最後の鉄球が降ってくる。
そこに連続の花火が打ちあがった。
目が覚めたオルフェは、言われた通りまずセンドリックを空に投げる、続いて氏康も投げた。
鉄球に向かって飛んでいく二人。
「壁作れる時間は限られる、しっかり合わせろよ」
「ああ、任せておけ」
迫りくる鉄球、センドリックは空中に念の壁を作る。
氏康はそこを足場に踏ん張り、跳び、鉄棒を思いきり振りぬいた。
「たまーやぁー!」
最後の鉄球は暗闇へと飛んで行った。
こうして鉄球が降り注ぐ夜は無事、怪我人も出さずに防ぎ切った。
氏康は回復したジンライの背に氏康、オルフェ、経蔵を乗せ、落下した鉄球の調査に向かった。
一番近くに落下した鉄球にたどり着いた。
球を中心に半径100メートルほどのクレーターが出来ていた。
「これが街に落ちていたらと思うとぞっとするな」
経蔵が鉄の棒でコンコンと叩いてみるも変化はない。
「どうだ経蔵」
「ここだと何なのかわからないですね、持ち帰って調べてみないと。ただ、心配していた爆発の心配はないと思います。爆発するのなら、氏康様が殴った時にはもう爆発してたでしょうし」
「お前、それ分かってて言わなかったの?」
笑顔で返す経蔵。
すると鉄球がもぞもぞと少し揺れた。
「おう氏康、今ちょっと動いたぞ」
オルフェがそう言うと、その鉄球から四肢と頭がはえた。
それはまるで鉄の亀だ。その鉄の亀は目を当たりをジロジロと眺めている。経蔵の方を向くとのしのしと歩き始めた。経蔵は持ったいた鉄棒を前に構える。剣の心得は無いので、棒先がぶるぶる震えている。
その鉄の亀はその棒に噛みついた。そしてバリバリと食べ始めた。
食べ終わると全身が光り、少し大きくなった。
「鉄を食べて成長した?」
「なんだ鉄を食べる亀か。なら人に危害は無いか」
氏康の安堵の声に経蔵が返す。
「違う氏康様! 人の血には鉄分がある、鉄食だとしたら人間も食べる危険性がある!」
それを聞くやいなやオルフェが爪でこの亀を両断した。
その亀は動かなくなった。
「この『鉄亀』の捜索・討伐チームを編成せねばだな。まったくとんだ収穫祭になったもんだ」
氏康は経蔵の方に振り向く。
「とはいえ、経蔵。どうやら鉄が大量に手に入るみたいだぞ」
田んぼの穂は垂れ
米の収穫の時期となった
赤獅子国初となる国産米は「赤獅子米」と名付けられた。氏康がいた大和国の縁起物「獅子舞」にもちなんだ名前だ。
同時に米酒の製造も職人たちが始めた、初の国産米「赤獅子米」と黒龍山で取られた名水をつかった酒を造っている。職人たちは米の出来と水のおいしさに期待感を高めている。「獅子龍」と名付けるといっていた。
氏康は考えていた事を国家会議の場にて提案した。それは「収穫祭」の開催だ。その日は、皆で仕事を休み食べて飲んで笑い合おうというのだ。出席者は皆異論はなく、是非やるべきだと賛同した。この事は国民全員に告げられ国をあげての準備に入った。3日後に開催を決定。
米の収穫の本格化。
オルフェたちフェンリルの森の住民は狩り。
漁師は祝い魚の漁へ。
学校の生徒たちは果物など自然の恵みを探しにそれぞれ向かった。
氏康は「アーディル工房」と名付けられた研究所に向かった。
そこは数カ月前にこの国に科学の種を植えてくれた天才少年博士の名にちなんだ名前だ。
氏康が入っても、出迎えは無い。
辺りには様々な科学機材と発明品が並んでいる。
その工房の主である「経蔵」という名の少年は研究に没頭していた。
この経蔵はアーディルにもその将来性を認められ、短期間であったとはいえ、学問を修めこれからも励むよう、「イジャーザ」という称号をもらったらしく、本人は「イジャーザ」と自分を名乗るようになった。先日、この彼の作った水鉄砲は厚さ5㎝の木片を打ち抜き、もはや子供の遊びの域を超えていたため、遊びで使う事が禁止された。
知識は爆発的に増えては行ったが中身は子供、加減が分からないのだ。
「おい経蔵! どこにおる?」
奥に進むと、少年は書物から目をあげ氏康を確認した。
「これは氏康様、こんなところにどうしました?」
「実は頼みがあったな。お主に花火を作ってもらいたいのだ」
「花火ですか?」
「そうだ、収穫祭の事は聞いておるだろう。祭りには花火が付き物だからな」
「分かりました。ド派手なやつを準備しますよ。そうだ、氏康様ちょっと待って」
言うなり経蔵は奥に行き、何かを持って戻って来た。
「これ持っていってください」
「なんだこれは?」
「通信機です。離れた相手とも話ができます。使い方説明しますね」
単純な操作しか必要ないのだが、機械音痴の氏康は凄い時間がかかり何とか使い方を理解した。
「これを押して話す。だな」
「これで遠くに離れた相手とも連絡が取れます。オルフェさんのフェンリルの森まで電波は届くはずです」
「東西南北の見張り台もつなげるのか?」
「あそこまでは遠すぎますね。中継地が必要です」
「そうか、この道具を使っての効果的な見張りの体制を組みなおすか」
「ところで氏康様、相談していた件は?」
「鉄の事か?」
「はい、やはり木製だと熱耐性が無いんで、作れるものも限られるですよ」
「鉱山の調査は進めてるんだが、中々思わしくなくてな。いっそ空から降ってこないものか」
「そんな事ある訳ないじゃないですか」
「まったくだ」
氏康はもらった通信機を城に持ち帰り、仲間内で見回りの体制の件を話しあった。
翌日、祭りの2日前。
ミリアが予知夢を見たと氏康のところにやって来た。
その内容は「空から大量の鉄球が降ってくる」とのことだ。
氏康は「俺が願ったからか」と思わず考えてが、ここでは黙っていた。
緊急で対策員会を設けた。
隕石だった場合、城下町や農地に落ちれば被害は大きい。
それより住民を守らねばならない、物は直せるが人の命はそうはいかない。
対策会議にはイジャーザも参加している。
今回は科学的な知見も必要だと、会議に参加を要請されている。
本人は研究に没頭したいので出たくないと言っていたが、国の一大事だと説き伏せられ、しぶしぶ参加している。
オルフェが無邪気に言う。
「打ち返せばいい」
「ダメです」
イジャーザがすぐさま反論する。
「そもそも衝撃がハンパ無いから無理です。オルフェさんのパンチ力の威力の1万倍の威力と思えば想像できますかね」
「それはシャレにならない威力だな」
「1万倍はざっと予想した数字です。実際は更にその上を行く可能性も高い」
「センの念弾で打ち返せないのか?」
「氏康、前にも言ったろ。オーラの力は生命体にしか効果が無い。ただの金属の塊に打っても何もおこらないよ」
「今回のセンは役立たずだな。キャハハハ」
「言い過ぎだぞオルフェ嬢」
以下の事が決められた。
・その時が来たら、住民を一か所に集める
・防空監視はジンライが担当
・上空にて追撃チームが鉄球の軌道をずらし、城下町以外に撃ち落とす
祭りと防空の準備は進む。
そして収穫祭当日となる。
全ての国民が城の広場に集められた。
氏康の挨拶が終わり、収穫祭は昼から始められた。
「どうなるかもわからない追放された俺について来てくれて、本当にありがとう。狼人族の皆、君たちの協力が無ければ、住むところままならぬ状態だったかと思う。おかげでこうして食べる物にも困らなくなった。今日は大いに食べて、飲んで楽しんでくれ!」
オルフェがコップを持って氏康の隣に立った。
「堅苦しい話は無しだ氏康! 皆コップを持て! 行くぞ!」
コップを天に上げる。
「かんぱ―――い!!」
皆がコップを高らかに上げた!
皆が仲良く食べ飲んでいる。
その姿を見て氏康は胸が一杯だった。
その横にミリアが来た。
「氏康様。いいですか」
「これはミリア殿」
「忙しそうで、最近ゆっくりとお話しができないですね」
「次から次に色々と起こるからね。国を治めるってのも大変だよ」
いい感じのところでセンドリックが間に入ってくる。
「油断も隙もあったもんじゃない」
「もーまた邪魔する気なの、おにーちゃん」
「邪魔じゃない。監視だ」
「まったく」
その夜、その時が来た。
はじめはミリア、次にジンライが気づいた。
空に大量の鉄球の存在を確認したのだ。
氏康が言う。
「幸い皆がここに集まっている。空からのをしのげば。俺たちの勝ちだ」
追撃方法は、ジンライ「雷砲」。氏康とセンは特注の「鉄棒」。職人たちに可能な限りの強度の棒を数本用意してもらった。センドリックは重いバットだなと言った。そしてオルフェは爪は容易く鉄を裂く。ただ果実酒を大いに飲んでいるので戦力になるかは疑問だった。
ジンライの背に氏康とオルフェ、そしてセンドリックが乗り命綱を付けた。
「いくぞ、これは国を護る者たちの責務だ! 誰一人死者はおろか怪我人も出すな!」
「皆から力をもらっているんだ聖獣としてここで仕事をしないとね」
「ベースボールはリトルリーグ以来だな」
「キャハハハ! 女王の務めは慣れっこだぞ、ヒック」
ジンライは空へと向かった。
しばらく空を見ていると、夜空には新たに数百の星が生まれた。
セバスチャンのテレパシーの力で氏康、ジンライ、オルフェ、センドリック、ミリア、経蔵の意識をつないでもらっている。
ただしセンドリックからは一度にこれでも人数のそれも距離の離れた相手の意識をつなぐことは精神的に疲れるため長い時間は無理だと言われている。
予備のために上空迎撃チームには小型の通信機を用意してもらっている。
「経蔵、ソロモンの計算ではどれだけの数がこの城中心に落下する?」
「ほとんどは海に落ちる。だけど、どうやら数十はこの周辺に落ちる」
「正確な数字を頼む」
「ジンライさん、今の高度はどれくらい?」
「言われた通り城の真上1万メートルあたりにいるよ」
「そこから東に1キロほど進んでください」
「はい、移動したよ」
「その半径300メートルに落ちてくる鉄球をすべての軌道をずらしてください。氏康さん、その数は26個です!」
「26か、中々骨が折れそうだな」
「ふあー、来るぞウジヤシュ!」
オルフェの叫びに一つ目の鉄球が降って来た。
氏康は経蔵のアドバイスを思い出していた
「いいですか、落下してくる物体の正面ではなく、横か後ろを叩くんです。そうすれば軌道が変わります。少しでいいんです、少しでも軌道をずらせれば街への被害はなくなります」
鉄球に向かって氏康か跳ぶ。
その横側を思いきり打ち付けた。
その衝撃で鉄球の軌道がズレ、氏康は吹っ飛ばされるが、その威力を使い、伸縮性の高い命綱でジンライの背に戻る。
「ふー、これで一つ。あと25個か」
「次は私が行くぞー!」
「オルフェ、分かっているな。正面から行くなよ」
「ああ、任せておくのだ、ヒック」
そして正面から突っ込むオルフェ。
オルフェの渾身の一撃に鉄球の軌道は変わったが、皆のいる場所にすさまじいスピードで戻ってくるオルフェ。
ジンライがこぼす。
「あれ受け止めたくないんだけど」
「任せておけジン。オルフェ嬢、ちょっとばかし痛いが我慢してくれよ」
するとセンドリックは両手を突き出し、念の障壁を作った。
その壁に激突するオルフェ。
「痛ったーい!」
衝撃が弱まりジンライに背中から着地した。
「おいオルフェ、正面から行くなと言ったろ!」
「キャハハハ。いやーつい盛り上がっちゃって、行けるかなーって」
「全く、少し身体を休めていろ、しばらくは俺とジンとセンで対応する」
「おい氏康。今度は10個近く連続で来るぞ」
「今思いついたんだけど、弾いて球を別の球に当てれば手数少なくならないか」
「ああ、ビリヤードみたいな感じか」
「びりあーど?」
「ああ、俺の国にあった球付遊びだ。なるほどな、いい考えだ」
言うなりセンドリックはジャンプして狙いを定める。
「いくぜ! ダラァ!」
見事なクリーンヒットは二つの球に連続で当たる!
「見ろよ! ナイスヒットだろ!」
「ああ、ジンも俺たちの打ち漏らしを頼む」
「任せておいて」
30分ほどが経った。
「これが最後だ!」
氏康の26個目となる鉄球を弾く。
「ふー、終わったなー」
センドリックが汗を拭き横を見ると、オルフェは気持ちよさそうに寝ている。
「全くこの女王様は」
「しょうがないよセン。経蔵。聞こえるか?」
「……」
「ん? 聞こえんのか?」
「氏康、どうやらセバスチャンさんの体力が尽きたらしい。数分前から下とは連絡がとれていない」
「そうか、ジン。急いで下に戻ろう」
「ああ。危なかったよ、そろそろ俺もエネルギー切れだったからさ」
地上へ向かう。
空から地上と見る。
城下町には幸いダメージは無いようだ。
遠くを見渡すと幾つかの農地に大きなクレーターが出来ていた。
「収穫の後で良かった」
地上に戻る。
慌てて経蔵が迎えてくる。
「氏康様! 急いで戻って最後に1つだけ現れて、それが丁度ここに落ちる!」
「ジン行けるか?」
「ごめん、直ぐには無理だわ」
「経蔵、落下想定は何分後だ?」
「10分も無い」
「困ったの」
辺りを見渡す氏康。
そして何かを思いつく、
「経蔵、直ぐに計算を頼む」
皆は城の天守閣の屋根の上にいた。
そこには何十もの大筒が並べられている。
「氏康様もめちゃくちゃな事考えるよな」
「言っただろう。祭りには花火だと。締めくくりにはピッタリだ」
「仮にすべてが計算通りだとしても、大分威力を弱めるだけですからね」
「十分だ、最後は俺が仕留めてくる。そら、来たみたいだぞ」
経蔵は時間を計りながら花火に火をつけていく。
最後の鉄球が降ってくる。
そこに連続の花火が打ちあがった。
目が覚めたオルフェは、言われた通りまずセンドリックを空に投げる、続いて氏康も投げた。
鉄球に向かって飛んでいく二人。
「壁作れる時間は限られる、しっかり合わせろよ」
「ああ、任せておけ」
迫りくる鉄球、センドリックは空中に念の壁を作る。
氏康はそこを足場に踏ん張り、跳び、鉄棒を思いきり振りぬいた。
「たまーやぁー!」
最後の鉄球は暗闇へと飛んで行った。
こうして鉄球が降り注ぐ夜は無事、怪我人も出さずに防ぎ切った。
氏康は回復したジンライの背に氏康、オルフェ、経蔵を乗せ、落下した鉄球の調査に向かった。
一番近くに落下した鉄球にたどり着いた。
球を中心に半径100メートルほどのクレーターが出来ていた。
「これが街に落ちていたらと思うとぞっとするな」
経蔵が鉄の棒でコンコンと叩いてみるも変化はない。
「どうだ経蔵」
「ここだと何なのかわからないですね、持ち帰って調べてみないと。ただ、心配していた爆発の心配はないと思います。爆発するのなら、氏康様が殴った時にはもう爆発してたでしょうし」
「お前、それ分かってて言わなかったの?」
笑顔で返す経蔵。
すると鉄球がもぞもぞと少し揺れた。
「おう氏康、今ちょっと動いたぞ」
オルフェがそう言うと、その鉄球から四肢と頭がはえた。
それはまるで鉄の亀だ。その鉄の亀は目を当たりをジロジロと眺めている。経蔵の方を向くとのしのしと歩き始めた。経蔵は持ったいた鉄棒を前に構える。剣の心得は無いので、棒先がぶるぶる震えている。
その鉄の亀はその棒に噛みついた。そしてバリバリと食べ始めた。
食べ終わると全身が光り、少し大きくなった。
「鉄を食べて成長した?」
「なんだ鉄を食べる亀か。なら人に危害は無いか」
氏康の安堵の声に経蔵が返す。
「違う氏康様! 人の血には鉄分がある、鉄食だとしたら人間も食べる危険性がある!」
それを聞くやいなやオルフェが爪でこの亀を両断した。
その亀は動かなくなった。
「この『鉄亀』の捜索・討伐チームを編成せねばだな。まったくとんだ収穫祭になったもんだ」
氏康は経蔵の方に振り向く。
「とはいえ、経蔵。どうやら鉄が大量に手に入るみたいだぞ」
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