<夢幻の王国> サムライドライブ

蒲生たかし

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  幕間の物語7 使役者 桜花耀

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火水風土
西洋世界において自然現象の4元素といわれいる要素だ。
これらを使役、つまりは思うままに操る事ができる者が現れた。
その者たちは「使役者」と呼ばれ、その日を境に世界のあり方が変わった。

「他を圧倒する力」を持った時、その人間の本質が現れる。
「他者は自分より下」と見るか、「この力は他の者を守るための物」と考えるか。
残念な事にこの世界では、前者の考え方をするものが多く、そして気持ちの強さが能力の強さに比例するため、他者を支配すると考える者が強い力を持った。世界の有り様は弱肉強食となり、一部の使役者の物ととなった。
法や道徳は絶対的強者にとっては意味がない。人が虫に対する気持ちと同じで、権利は認めない、そして何も気にせず命を奪う事が出来る。

西暦1999年
世紀末と呼ばれた時代。
日本は首都東京を境に東西二つの勢力に支配された。
東部は極東エリア5、西部は極東エリア4と呼ばれた。
元はロシア人だった者たちの集団と、元は中国人だったものたちによって。
この世界ではすでに国籍は意味のないもとなっている。

桜花耀(おうかよう)
親の仕事の都合で佐渡島で暮らしていた。
両親は希少生物の保護・研究を生業としており、当時はトキ保護センターで働いていた。
耀も両親の仕事を手伝いトキ保護センターでアルバイトをしていた。
見た目や言葉使いは完全にヤンキーの女の子なのだが、周りは根が優しい子だと知っていた。

そして、その日が来た。
中国側の使役者のグループが佐渡を襲撃したのだ。
リーダーと見られる火の使役者が、トキ保護センターを含む島全体を焼き払ったのだ。
観光気分で訪れ、ついでに掃除をするという考えでの襲撃だった。

耀の両親もその際に殺された。事務所となっている建物が火柱をあげ一瞬で消滅したのだ。
生存確認をするまでもなく、建物があった場所には炭しか残っていなかった。
その時、耀はトキの世話をしており、目の前で焼かれるトキを守ろうと着ていたスカジャンでトキを包んだ。
しかしその甲斐むなしく炎はトキを焼き尽くした。

だが、その炎はエネルギー体となり、耀の中に入り込んだ。
耀の髪は燃える様な赤い色に変わり、身体に火の力が駆け巡った事を理解した。

手のひらに意識を集中すると、小さな火の玉が現れやがてそれは鳥の形になり、それは大き炎のトキとなった。
「行くぞ、調子に乗ったシャバ僧どもを焼きつくすぞ」

リーダーの火の使役者の前に耀は立った。
「ほう、まだ生きている者が居ましたか。この島にももう飽きましたのでね。あれを焼いたら次に行きましょう」
耀は中国語が全く分からない。
「人の国に来たらよー、その国の言葉で話すのが決まりだろうが!!」
拳をにぎり、その男に殴りかかる。
「私を殴るつもりか。ぶあはっはっは! 面白い、全身火の恩恵を受けている私は殴れもしないし大やけどだぞ!」
「ギャアギャアうるせえ!」
耀の拳は炎に包まれ、それで力いっぱいその男を殴りつける。

男は数メートル吹っ飛び壁に叩きつけられた。

男が動揺する。
「殴られた?! バカな、火に等しい私を殴る事などありえない。しかもこの痛みはなんだ、『焼ける様』に痛いぞ!」
「てめーが火なのは分かってんだよ。小せえ火なんぞ、アタイの炎で焼かれちえ」
耀は燃える拳から巨大な火の鳥を作りあげた。
「焼かれる気持ちを味わって死ね!」
耀は手を振りそお鳥を放つ、そしてその男は炎に焼かれて炭となった。

リーダーである火の使役者が焼かれる異常な様を見て、その部下たちは煙を巻いた様に逃げ出した。

数日後、島の生存者の確認など状況確認が済んだ。
多くの人間が殺されており、トキ保護センターのトキも全滅していた。
運よく生きていたセンターの職員の女性が耀に声をかける。
「耀ちゃん、ご両親は残念だったね。これからどうするの? どこか親族の方はいらっしゃるの?」
「ああ、おばちゃんか。あんがとね。これからの事は、正直わかんねーんだけど、とりあえず、これと同じことしてる連中が日本全国にいるって話だから、そっこーで片っ端からぶっ潰しに行くよ」


耀の力は強力だった。
水を使役するロシア人女性との戦いで、耀の炎は氷柱の攻撃を一瞬で蒸発させた。
そのあまりの出来事に戦っていた相手は戦意を喪失した。


耀が生み出した火の鳥はやがて自我を持ち、常に具現化し、耀に迫る危険を自動で排除するまでになった。
耀はその鳥をセンターで死んだトキの生まれ変わりと思うようになり、キンタロウと名付けて呼んだ。周りからは名づけにセンスが無いと馬鹿にされたが、この名前は意味があるからいいんだよと言い放っていた。

「鳳凰の戦姫」
やがて、耀の事を皆がそう呼び始めた。
本人は「姫とか、はじーからやめれって。あとあれ鳳凰じゃなくてトキだかんな」と何度も言ったが、一度ついたイメージは払拭できない。

やがてゲリラで戦っていたものたちや、戦う力がなく隠れていたものたち、たくさんの人間たちが耀の解放戦に参加した。

「光炎の解放軍」
耀たちの解放軍はそう呼ばれた。これにかんしては耀は「かっけーじゃん。なんか高円寺みたいだな、アタイ昔そこに住んでたし」という感じだった。
解放軍には耀の他にも数人の使役者がいた。
土を使役する日向葵(ひなたあおい)、風を使役する柿崎楓(かきざきかえで)、水を使役する氷室零(ひむろれい)。
葵は旧九州地方で、楓は旧関西、零は旧北海道地方でそれぞれ耀に助けられ、そのまま解放軍に加わった。

こうして力をつけて行った解放軍は、長い戦いの日々を経て。日本を支配する者たちを焼き尽くした。
最後の旧北海道地区からロシア人の使役者たちを追い払い、日本は解放されたのだ。
解放者たちはこの地を「日本光国」と名を改めた。
だがその全土は争いの結果、荒廃しきっていた。


中には耀の力を利用して「世界に支配を広げよう」とそそのかす者もいたが、曲がった事が嫌いな耀はそんな考えの者たちを一括する
「奪われたもん取り戻して終いだ! やり過ぎたらまた争いがおこんだろうが!」

目的が一つならば、皆は団結する。
しかしそれを成し遂げてしまった時には、それで満足する者、もっとを欲する者、自分の働きに満足する者、自分の評価が低いと不満を漏らす者。皆がそれぞれの思いを持ち、違う方向を向き始める。
そうなると組織というのは簡単に壊れる物である。

日本の解放を成し遂げた功労者である耀を邪魔であると思う連中さえもいた。
後の社会で利権を牛耳ろうとたくらむ連中だ。
この手の連中は力はないが頭が働く。それも狡猾にだ。
日本が襲われた際に、真っ先に安全なシェルターに逃げ隠れ、勝機が見えて、気運が高まると耀を女神だなんだと持ち上げ、戦いが終わるとその始末にかかる。

戦いのさなかは黙っていたが、いざ戦い終われば、あれが欲しいこれが欲しいと不平不満を垂れ流すだけの存在も現れた。
自分たちは被害者だと、解放軍で戦っていた者たちに噛みつくものまで現れる。

耀は何のために戦っていたのか分からなくなっていた。


そんな中「世界の根幹」を名乗るものから「招待状」が届く。

「闘いに勝利すれば望むモノを与えよう」

耀が望む物は今回失われた命の復活だ。
ただし、望むモノに、命の復活は含まれるのははなはだ疑問だ。

耀の厄介払いのために、この戦いにて新しい自然豊かな土地を勝ち取ってくるように世論を誘導した。

耀も政治事に巻き込まれる事を嫌がり、この戦いに身を投じる事となる。火の鳥キンタロウと共に。
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