上 下
20 / 33

  幕間の物語8 黄金の巨人ゴルデア

しおりを挟む
巨人は自らを巨人だとは認識しない
自分たちより小さな人間に出会い
初めて自分たちが巨人だと認識できる

それまで自然と共に静かに暮らしていた彼ら出会ったが、ある時、巨人の一人が小さき人間を見つけた。自分たちが生活している台地の断崖絶壁の端に倒れていたのだ。
巨人たちは台地の上で生活していた。その外は雲海になっており、落ちたら命はないと言われて育つ。なので皆その淵までは基本近づかないように生活している。

小さき人間を見つけた巨人の名はゴルデア。
淵の見回りがこの巨人の日々の仕事だった。
英雄の子孫と言われているが、心優しい巨人だ。

始めたはネズミか何かだと思ったが、よく見るとそれは人の形をしていた。
ゴルデアはびっくりした。小さな人間を見るのは初めてだったのだ。
持ち帰ってハンカチに寝かしていると、目を覚ました。
するとその小さき人間は怯え切っていた。

巨人ゴルデアはその青年オリーに優しく接すると、オリーも警戒心をなくしほどなく二人は打ち解けました。
お互いの事を話し始めた。
オリーは冒険家だと名乗り、この台地は地上の人間界では聖山として決して触れてはいけないものとして伝えられていたので、その伝説に挑戦してやろうと登り始めたという。
7日間のクライミングの果てに何とか台地に登り切ったが、力尽き気を失っていたという。

オリーは巨人の国に驚いた。
あちらこちらに黄金があるのだ。
巨人たちはこの光る石は太陽からの贈り物だと大事にしていた。
台地の中央には巨大な黄金棒があり、それは代々受け継がれて来た。
有事の際には戦士がこれを持ち戦えと伝えられている。
ゴルデアの家には先祖が使ったとされる黄金の鎧兜そして盾があった。
その昔、悪魔の軍が地上へ進行した際、ゴルデアたちの祖先がこの光る武器をまとってそれを撃退したという神話が語り継がれている。
「光る武器は邪をはねのける力があるんだ」
ゴルデアは誇らしげに語った。

数日後、青年オリーは下界へと戻った。
山頂の台地には巨人による素晴らしい国があった。
そこにはたくさんの黄金があった言い、証拠としてもらった一片の黄金を見せた。
皆はそれを信じた。

これを聞いた各国の諸侯はこの聖山を崩しにかかった。
国中の火薬を集め、山を削り始めたのだ。

青年オリーは辞めるように哀願したが、黄金の魅力の前にその声は届かなった。


巨人の国では小さな揺れを感じるようになった。
日々その揺れが大きくなっていく。
地震などこれまで一度も経験した事のない巨人たちは驚いた。
やがてその揺れが極限に達した時、巨人たちの住む台地が割れた。

地割れに飲まれる住民たち。
崩れ落ちる住民たち。
ゴルデアは急ぎ黄金の鎧兜と盾、中央に向かい、まつられている黄金の棒を手に取った。
その瞬間、自身も地割れに飲み込まれた。


しばらく意識を失っていた。
瓦礫の下敷きになっていたらしい。
何とか起き上がるると、周りにはたくさんの小さき人間の兵隊がいた。
それらが一斉に攻撃を仕掛けてきたのだ。
小さな槍や矢の攻撃などゴルデアにはなんの効果は無いが、傷つけまいと、まずはこの場から逃げることを考えた。

事情が分からないので、青年オリーを探そうと考えた。
聞いた話では村は元住んでいた山の麓だと言っていた。

だが探しても見当たらない。
山が崩壊して潰れたのかもしれない。

ゴルデアは身体にはダメージが残っていたので、まずは隠れられる場所を探した。
手ごろな大きな洞窟があったので、その中で身を潜めた。
そして、少し眠った。

鼻に何かがあたる感覚で目を覚ます。
目を開くと、目の前には小さな少女がいた。
「巨人さん、どこか痛いの?」
「いや、少し休んでいるところだ。お嬢ちゃんはこんなところで何をしてるんだい」
「お母さんが病気になったから、女神様の水をくみにきたの」
「女神の水?」
「そう、この洞窟の奥にある、湖の水なの。一口飲めばどんな病気も治っちゃうんだから」
「そうなのか」
「そうだ、巨人さんにもくんできてあげる。だけどお母さんの後にね」
「ああ、お母さんを大事にね」
少女は家に戻った。
ゴルデアはまた少し眠った。

声がきこえゴルデアは目を覚ました。
「やめてよ! 離してって!」
「おとなしくしろ! 母親がどうなってもいいのか!」
「分かったから母さんには何もしないで!」

遠くでの会話だ。
一人は先ほどの少女のようだった。

しばらくすると多くの兵士たちが少女を縄で縛りこちらに向かってきた。
「おお、まさしく、黄金の巨人だ」
「皆の者かかれー!」
「俺が巨人を仕留めてやるぜ!」
「心臓だ! 巨人といえど心臓をつけば殺せるぞ!」
「馬鹿野郎先に目をつぶせ! 所詮はデカ物、視力を奪えば後はなぶるだけだ!」
ゴルデアは兵士たちの殺気にひるんだ。
「ごめんなさい! あなたの事を話したらこの兵隊さんたちに場所を聞かれて! 言わないとお母さんを殺すっていうから」
ゴルデアは人間たちの浅ましさにうんざりしていた。
黄金棒を振り、道を作りそこから走り逃げた。
「ごめんなさい! 巨人さん!」
すれ違いざまに少女が誤った。
ゴルデアはそれに頷いて走り去った。

ゴルデアは人間の長に話を付けようと思い、大きな城のある街に向かった。

途中で巨人族のテオとアオロというゴロツキ兄弟と会う。
人間側につき、ゴルデアに黄金の装備をおいていくように迫った。
それを拒否すると殴りかかって来たので、棒で薙ぎ払い立ち去った。
人間のみならず同胞にまで攻撃されてゴルデアは心が折れかけた。

城に近づくと、巨大な軍勢が整然と並び待ち構えていた。
皆同じ旗を掲げている。ゴルデアはあれがこの国の旗かと認識した。

人間にしては大柄な兵士が前に出てきた。
どうやら隊長らしい。背中には自身の身長ほどの大剣があった。
その隊長の指示で押し車で何かが運ばれてきた。それは何かの柱だった。
よく見るとそれは巨人たちの頭を串刺しにして作られた柱だった。
しかも、その中にはゴルデアの父と母の物もあった。
「こうなりたくなければ、その黄金の装備を置いて……」
言い終わらないうちにゴルデアはその男を棒でつぶしていた。

それは戦いの合図ともなった。

人間たちは全ての武器でゴルデアに向かって来る。
怒りでぶちぎれたゴルデアの全身は真っ赤に染まる。
それは、まさに人間たちの童話に出てくるオーガの姿そのものだった。

一時間ほどの時間がたち、そこには幾万の死体が転がった。
その中にゴルデアは一人立ちすくんでいた。

時間が立ち冷静さを取り戻したゴルデアは王の元へ向かった。

城下町は高い城壁に囲まれていたが、ゴルデアは棒でその壁に穴を開け、城の兵士たちの制止を無視し進み続けた。

城の前に来ると、王は待ち構えていた。
その横には巨人族のローガンがいた。ローガンは一族でも一番喧嘩が強かった。ゴルデアは昔から喧嘩でローガンに勝った事は無かった。
「ゴルデア、その棒は我々一族の物だ。置いていけ、ついでにその鎧兜もだ。そうすれば、命までは奪わないでやるよ」
「一族の者がこいつらに殺されているんだぞ。お前は何も思わないのか」
「こいつらは飯と酒を俺に約束した。それだけで十分だ」
「もういい」
ゴルデアは再び怒りで身体を赤く染める。
「おお、おとなしいお前が『憤怒の装』を使える様になったか」
ゴルデアは持っている棒で答える。
ローガンはその振り降ろされた棒を両手で掴んだ。その身体も赤く染まっている。
「残念だったな。『憤怒の装』は俺も使える」
ローガンはゴルデアに蹴りを入れる。ゴルデアは吹っ飛び、あたりの民家は破壊された。
ローガンは握っていた棒を持ち直し、ゴルデアに向かい殴打を繰り返した。
「なあゴルデア! 俺のために死んでくれよ!」
全ての攻撃を盾で防ぐが返す手段が無い。

その時、ローガンに対して矢が飛んできた。
蚊ほどのダメージも無いがそちらに目を向ける。
そこには弓を持ったオリーがいた。
「ゴルデアさん。済まなかった、全て俺のせいだ」
オリーは何本もの矢をローガンの顔に放った。
ローガンはまったく痛みは無かったが、鬱陶しく思いその人間を棒で払った。
オリーは数十メートル吹っ飛ばされた。間違いなく生きてはいないだろう。

その光景を見て、ゴルデアは吠えた。

「なんだゴルデア、さっきのゴミは知り合いか?」
ゴルデアはゆっくりと立ち上がり、ゆっくりとローガンに近づく。
ローガンは何度も棒で殴るが歩みを止めない。
そして、目の前に立ち、ゴルデアは渾身の右ストレートをローガンの腹に打ち込み、
その身体を貫いた。
「な?」
ローガンは言葉にならない言葉は発しそのまま仰向けに倒れた

ゴルデアは王の前に来た。
「お主の望みはなんだ!」
「お前たち全員の死だ」
ゴルデアはローガンから取り戻した棒で王を潰した。
一成に皆が悲鳴を上げる。
ゴルデアは叫ぶ。
「今からお前たちを皆殺しにする! 死にたくない奴はすぐにこの街から立ち去れ!」
住民たちはただちに街を去った。

すっかり静かになった街。
ゴルデアは城に持たれかかり座って空を眺めていた。
すっかり空っぽになり、やる事が思いつかない。

そんな折に【招待状】が届く。
空から板が落ちて来て地面にささった。
そこに書かれた文の差出人は【世界の根幹】と名乗る者。
そこにはこう書かれたいた。
「闘いに勝利すれば望みのモノを与えよう」
仲間たちの生存の確認はもう正直どうでもよかった。
何よりこの人間たちの世界にうんざりしていた。
欲しいものは特になかったがゴルデアはそれに参加しようと決めた。

指定された場所は、崩れた落ちた元の住み家である台地。
文面の中には動物の帯同を許可するとあったが、そのあてはなかった。

台地跡についてみると、家畜で飼っていたヤギが一頭そこにいた。
ゴルデアはそのヤギをつれ【ゲート】をくぐった。
しおりを挟む

処理中です...