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第5幕 天狗侍龍と翔け

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氏康はデュエルで闘いの場にあった。デュエルは実に半年ぶりだった。
相手の攻撃を間一髪で避けるが、その攻撃は地面でもあった闘技場を粉々に粉砕した。
「全く身体がなまっていてかなわんな。やはり稽古はしっかりと日々積まねばらんな」

★侍 対 虫人間★

◆〈侍〉東城氏康
赤獅子国の当主。
デュエルの闘士であった戦士たちを住民として迎え入れ戦力を増し続ける、現在各世界が注目し始めたデュエル界の大型ルーキー。
燃える剣である「緋閃村正」と魔を絶つ銀刀「輝夜」を装備。
配下には狼人族の女王、聖獣、超能力者などを持つ。

「私は配下じゃないぞ! あくまでもパートナーだ!」
アナウンスに当の狼人の女王オルフェが野次を入れていた。

◆〈虫人間〉ギ15846203号
戦闘虫のエース。
1億匹に1匹ほどしか生まれないという特別希少種。
戦闘という面においてまず多くの優位性を持っている。
自らは意志を持たず女王虫の命令を忠実に実行する。

「全く意志が見えんから攻撃が読めん。これは厄介だ」
虫人間は刃の腕で氏康を切り裂く。
紙一重で避ける。
「この切れ味はオルフェの爪に匹敵するな」
避ける所に別の腕から強烈なパンチを見舞われた。
これが腹にクリーンヒット。
氏康は数十m吹っ飛ばされた。
このデュエルは「場外アリ」での闘いのため場外負けは無い。
吹っ飛ばされたエリアは虫人間側のサイドで、氏康はそこの岩場に身体を叩きつけられた。
受け身は取れなったものの新しい鎧のおかげでダメージはほぼ無かった。
「経蔵にもらったこの鎧、軽量な上に黒鋼鉄の鎧より丈夫だ。科学というのは凄いもんだな」
虫人間は飛び掛かって両手の刃でクロスに斬りつけた。
岩盤は4つに切り裂かれたがそこに氏康はいない。
「全く休む暇も与えてくれんか。抜刀“紅蓮”!」
跳んで後ろに周り燃える剣で虫人間を斬りつけた。
背中から炎が上がると、虫人間は首を180度回転させ口から液体を吐き、燃えてる箇所に塗った。すると炎は一瞬で消化された。そのまま全身にもその液体を塗り始めた。
「なんと、消化液か何かか。これで紅蓮は効かないという事か。さてどうしたものか」
再び虫が斬りかかってくる。
その刃を弾き胴にを斬りつけるが全くダメージが無い。
「やはり硬い甲羅と筋肉しか無い身体は剣を通さぬか」
闘い始めてから何度も氏康の剣は虫人間を切り裂いているが、軽く筋が入る程度で全くダメージを与えられていないのだ。

「オルフェの爪かジンの雷ならダメージもあったかもしれんが、後はセンの……うむ。試すにはいいかの」
氏康は刀を鞘に納め、拳をにぎり構え呼吸を整えた。
「ギギギ!」
虫が二腕の刀で斬りかかるがことごとく氏康はかわし続ける。
虫は残り2本の腕で殴りかかる。
それを待っていたとばかりに氏康は合気の技でその虫人間を空中で反転させ、その腹に拳を叩きこんだ。
虫人間は数m吹っ飛ぶ。
「念の拳。センにオーラの使い方を学んでおいてよかった」
虫人間ははじめて自分が殴られ痛みを感じだ。これまで生きて来て痛みというのを感じた事が無かったので、その感覚を理解できず、怒りが自分を包んだ。
「やっとお主の感情が読めたぞ。それは怒りというやつだ。だが怒りにとらわれた者の動きは直進的になり読みやすい」
氏康はその攻撃を見切り再び数発の念の拳を叩きこむ。
よろめき後ろに後ずさりした虫人間、それに向かい氏康が跳ぶ。
刃ではなく峰打ちをその脳天に打ち込んだ。
「どんなに硬い生き物だろうと、脳を揺らさればどうにもなるまい」
虫人間はそのままうつ伏せに倒れた。

ジャッジマスターは氏康の勝利を宣言した。

「ふう、やはり日々の鍛錬を欠かさずにせねばな」

こうして、氏康は新たに北の大地をその報酬をして得た。
祖国を思い、季節四季折々を楽しめる様にとの思いだった。



★魔女 対 戦闘機★

◆〈魔女〉リリィ
二つ名を“鈴鳴りの魔女”
浮島の世界アナシアからやってきた。
ちょっと多感な17歳。女の子。
トレードマークの眼鏡に長かった髪をバッサリとカットしイメージチェンジ。
その理由は男性関係云々ではなく、単純に鬱陶しかったから切った。とのこと。
黒を基調とした服装。首には二つ名の由来となった鈴のネックレスをしている。
祖国から厄介払いでこの戦いに参加しつつ、気ままな一人暮らしに満足しているとのこと。
最近の研究(趣味)は日本という国の漫画とアニメだとか。

◆〈戦闘機乗り〉のウィル
本名はウィルバー・アーチ。
代々飛行機乗りの家系の生まれついてのパイロット。
超高速戦闘の名手で世界大戦を終わらせた英雄。
現在は新世界政府軍所属。
愛機はWF-14、通称「ヴィセンテ」と呼ばれる機体。
祖国には妻のエレナとそのお中には子供のいる。

リリィとウィルバーによる壮絶なドッグファイトが展開されている。
ハイテクの髄を結集し作られれた前進翼型の戦闘機ヴィセンテと二人掛けのソファほどの紙飛行機に乗りリリィ。
ちぐはぐな見た目なその二つの勝負がなぜか成立してしまっている。
例によってリリィの魔法によって。
「何なんだよあの紙飛行機は! ことごとくこちらの性能の上を行く。一体全体どう言ったチューニングしてやがる!?」
「チューニングも何も、私が考えた事を実現しているだけですよ」
ウィルバーの無線機に強引に割り込むリリィ。
「くそ、どうやってこの回線に、まあいい! スピードで負けようとも戦闘技術で上回ればいいだけの話だ!」
ウィルバーはヴィセンテを宙返りさせリリィの紙飛行機の真後ろに付ける。そしてトリガーをしぼり機銃で攻撃した。弾丸がリリィ目掛けて飛んでいく。
「悪く思うなよ」
「何がですか?」
ヴィセンテのマシンガンの攻撃はことごとくバリアで弾かれる。
「そんなのありかよ」
「あるのですから仕方がありませんよ。どうしたのですか、これで攻撃は終わりですか?」
「ええい、まだだ!」
ウィルバーの百戦錬磨の戦闘技術もリリィは魔法の前には意味がなかった。
「意味が分かんねぇ! 魔法ってやつはなんでもありかよ!」
「はい、基本なんでもありです!」
「ならこれらなどうだ!」
ウィルバーは一度距離を取り搭載ミサイルの一斉射撃を仕掛ける。
「そのバリアで防ぎきれるかな」
「なんの!」
その空を埋め尽くすほどのミサイルを見てリリィは持っていた箒を魔法で大砲に変えた。
「まったく、この前戦ったロボット乗りの軍人もしかり、どうしてミサイル程度で勝ち誇れるのかしら」
リリィはその大砲でビールを放ち、空中で全てのミサイルを爆破していく。
「さあ、そろそろ飽きました。その飛行機を落としますか。帰ってアニメの続きを見たいですし」
そう言うとリリィは魔法の詠唱を始めた。


自分のデュエルが終わった氏康は、オルフェと共に中央世界で別のデュエルを観戦中している。その横で黒龍ジンライは人間の子供の姿になって一緒にいる。正確には頭には龍角とお尻には尻尾もついているが、それ以外は普通の人間の子供と変わらない。
聖獣は人からの感謝を受け、それを力に帰る事が出来る。人の姿に変身が出来る様になったのだ。はじめは氏康たちも驚いたが、基本、氏康をはじめ、国の人間も最近ではなんでも受け入れられるようになってきているので、この姿も「子ジン様」とあっさりと受け入れられた。一方で、黒龍の姿も最大では10mを超えるほどの巨体に成長していた。正直、龍の姿と人間の子供の姿のギャップが凄い。

「しかし、あのリリィという魔女は洒落にならん。未だ勝てるイメージがまったくわかんな。今のままでは一太刀浴びせる事もかなわんだろう」
「何を言っている氏康。私ならあんな小娘パンチ一発だ」
「いやいや、それは無理だって」
「今は、あのリリィが我々に敵対して来ないことを祈るだけか」
すると氏康たちは声をかけられる
「あの、すいませんが。あなたは『赤獅子国』の『東城氏康』様でしょうか?」
「ん、そうだが、お主は誰だ?」
氏康が振り返ると、見たことが無い者がそこにはいた。


時と場所は変わり
日本という国、西暦1923年、大正という時代。
夏が少し過ぎた頃。
富士山の上空に黒い雲が現れた。
そして、富士山は赤い煙を吹き、日本は壊れた。

太古の昔、地脈にはそれぞれ楔が打たれ、邪悪なる魑魅魍魎たちは封印されていた。
所謂死霊や妖怪の類だ。

世界中の魔術師たちがこれにすかさず反応し、富士山を中心とし日本全体に結界がはられた。
西洋東洋様々な何重にも重ねられた結界により、内からこれを破る事は出来なくなった。
こうして日本は「日本幽国」と呼ばれ、世界から隔離された。

それまでにも日本には妖怪はいた。
しかしその多くは人との共存を目指していたため、邪悪なる妖怪が現れても妖怪の間で決着がつき、人は妖怪の存在すら知らない場合もあった。

しかし、封印されていた大妖怪が解き放たれ、事情が変わった。

元からいた妖怪たちは天狗の一族を長とし、人と共にまたは隠れて生活をしてきた。

現れた2派は

人を食らいその霊力をわが物とし力を得る者たち
「食人派妖怪」
その長は『八岐大蛇』として神話で登場する邪龍。

人を殺し、その霊魂や死体を操る
「殺人派妖怪」
ぬらりひょんと呼ばれる妖怪が長を務める。

共人派妖怪の長の鞍馬天狗は、この2派に対するため戦いを挑むが、無尽蔵に力と勢力を増す相手に終始劣勢となり、その戦いは敗北する。
更に決定的だったのが鞍馬天狗の長が戦いの中で命を落としたのだ。

天狗の長を継いだ少年は、戦う事をあきらめ逃げ延びる事を選択した。

強い法力を持つ「結界師」と呼ばれる者たちにより、人間たちの小さな集落を形成し、やがて残り2派が力尽きるのを待ったのだ。
その間にも多くの人間が2派により犠牲になり続けた。

結界集落は基本洞窟や地下に作られていた。
外敵である妖怪たちには結界でその存在が見えないとはいえ、そこにある事は変わらないので、平地に作り知らずに巨大な妖怪に踏みつぶされるという事も起こりえる。
なので結界集落の人間たちは長く日の光を見ていない。
子供たちも空を知らずに育つのである。
だが安全には変えられない。
これで暫くの間は安心安全に暮らせるはずだった。

しかし、極度の飢えから業を煮やした食人派妖怪は特殊工作に作戦を変えた。
副官とも言える玉藻の前ら九尾の部隊が人間に化け、各結界集落に潜入し結界師を殺害して回ったのだ。

やがて外界とのコンタクトは極力とらないという方針となり、各結界集落間での連絡は取らないこととなった。

たった一つの結界集落だけが残り、約6000万もいた当時の日本人は、その数も数千という数にまで減らしていた。

更に天狗の長を継いだ若い天狗もこの結界集落を守るため、遠い地で囮となり大規模な戦いの中で姿を消した。
遠目にその戦いを見守っていた仲間によると、雷鳴轟き、嵐が暴れまわる驚天動地の戦いだったとの事だ、凄まじい光が走り、その天狗の姿は消えたという。

リーダーを失い、仮のリーダーを天狗族ではなく、河童族の蒼珠(そうじゅ)が担った
天狗の一族も結界維持に回らなくてはならなくなり、天狗の一族以外の者が成らざるを得なかった、というのが流れだ。

ソウジュはカワウソの姿をしていたため、「かわいい」と人間たちにはたいそう人気があった。子供たちは正直少し舐めてるきらいもあったが、この殺伐とした世ではそれくらいが良いとの考えが多かった。

この結界集落には共人派の妖怪が何人もいた。
代表的戦力的なところでは
天邪鬼の魔月(マガツ)。
鬼の一族である彼は二刀流で一流の剣士である。弱い勢力についた方が戦いを楽しめる、というひねくれた理由で人間側についている。天邪鬼は正確がひねくれた者たちだが、このマガツは群をぬいたひねくれものである。布で目隠しをしているが、生活にも戦闘にも支障はない。なぜ目隠しをしているかは、誰も知らない。
座敷童の望子(ボウコ)。
皆には「ボッコ」と呼ぶように強制しるが、結局は「ボッコちゃん」と呼ばれている。「金属を大きくする妖術」を持っており、古くは住んでいる家の貴金属を巨大化させて富をもたらせていた。戦う際は、アクセサリーとして身につけている斧型の首飾りを超巨大化しそれを振るう。怪力の持ち主である。無口であり、その言葉を聞いた者は少ない。
カマイタチの飯綱(イズナ)。
手を鎌状にして、切れ味鋭い真空波を放つ事が出来る。冗談好きで、無口やひねくれ者などで形成されているこの一団のムードメーカーの役割もこなす。
そして河童の蒼珠(ソウジュ)を加えたこの4人は、それぞれが一騎当千の戦闘力を持つ。
その他にも、
ムジナの夢時歌(ムジカ)。狐の様な顔で三角帽を深めにかぶる。ギターをならし皆に曲で一時の安らぎを与える。
などの非戦闘妖怪の多くが人と暮らしている。
非戦闘員の中でも覚(さとり)の大悟(ダイゴ)は生き物の心が読めるため、敵の探査能力としても重宝された。この村が未だ無事である要因の一つでもあった。


結界村は人長と妖怪長との間で話し合いが行なわれ、食事の管理や、労働の割り当てなどを人妖怪公平に決められている。
ソウジュはそういった決めごとが苦手で基本人間に決めてもらっている。しかし会議の場では心を読む事が出来る妖怪である覚の大悟も同席しているので、隠し事は出来ない。だが、時勢もあるが、人間たちもこの共生している妖怪たちに悪意がない事は分かっているので、何ら問題は起こらない。

その日もソウジュがいつも通り覚の大悟と共に結界外を見回りをしていた。ソウジュは会議が苦手で、こうして体を動かしている方が好きだった。
突然ゴダイが一人の妖怪の存在をとらえた。
ソウジュが慌てて水鉄砲を取り出し口に水を含んだ。ソウジュの水鉄砲は細い木ならば貫通する威力を持つ。そして静かに狙いを定める。
「撃つなよ、ソウジュ」
岩陰から現れたのはソウジュも知った者だった。

名前を「村井のきあ」という。

「のきあ! 無事だったのか!」
ソウジュがのきあに抱きついた
「死なないとは思っていたが、どこに行っていたんだ?」
「大悟、詳しくは戻ってから話す。喜べソウジュ、これまで持つことを禁じられてきた『希望』ってやつを持ってもいいかもしれないぜ」
のきあこそが、この結界村を守っていた天狗の長。


結界集落にのきあが戻ると皆は喜びを表した。
のきあは早速集落の運営者に集まってもらい自分に起こった事を話した。
「八岐大蛇との戦いで『時空のさけめ』に落ちたらしく、この地球とは違う、『赤獅子国』という土地に流れ落ちた。そこで手当を受け、身体が治るまでその国の街作りを手伝った。
皆良い人ばかりでな」
のきあは思い切って言った。
「それで、皆に相談がある。赤獅子国の主である東城氏康さんが、赤獅子国で俺たちを受け入れてくれると言ってくれた。俺は皆でそこに行こうと思う」
皆がざわついている。外が危険な事は周知の事実だからだ。
「どうやって行くんだい?」
天邪鬼のマガツが聞いた。
「富士山の火口にその国に繋がる中央世界という所がある、そこを経由して向かうつもりだ」
河童のソウジュが続けて聞く。
「富士山は殺人派妖怪の巣窟だ、あそこを無事に通れるとは思えないよ! ましてやここにいる2000人もの人たちと一緒じゃなおさらだ」
「ここにいても先は無い。危険な事は分かっている、それも伝えた上で、皆で決議を取ろうと思う」
その日、のきあは結界集落の皆を集め、自分の計画を話した。危険が伴う事、ただしこの結界集落も結界師たちの体力も限界に近づいており先が短い事、赤獅子国の人たちの温かさ、自然豊かな大地の事、そして降りそそぐ太陽の事。
翌日結界集落の皆で投票を行なった。
結果は賛成多数となった。
日の光への憧れは人という生物には何よりも力強かったのだ。

のきあは大移動の計画を詰めた。
大まかな所は決めていた、移動結界を作り、富士山にある次元のさけめを目指す。一方でのきあが単身囮となり、富士山一体の妖怪たちを引き連れ樹海を目指す。ここで待ち構えていた戦力で持久戦に挑む。皆の移動がすんだ頃合いで、戦闘部隊も散り、それぞれ次元のさけめに向かう。

村井のきあ。
鞍馬天狗の一族の長。先代が亡くなり後目を継いだ。元は宮大工としていたが、日本が壊れてから戦いの日々となった。風神の呼ばれ、「つむじ」という風の子の力を操る事が出来、のきあの生み出した風龍はその一撃で岩も削る威力を持つ。「つむじ」が成長し「しなと」になると邪を払う強力な力を得ると言われている。

戦いの始まりを継げるのきあの風撃が富士一体の妖怪たちに炸裂した。
一斉に富士の麓に潜んでいた妖怪たちがわらわらと表れた。
それは遠目に黒くまがまがしい絨毯の様だった。
「これはこれは、倒しきれるとは思えん量だな」
マガツの言葉にのきあが返す。
「倒しきる必要はない。皆が中央世界にまでたどり着く時間さえ稼げれば俺たちの勝ちだ」

戦いは数時間にも及んだ。
敵の数は衰えるどころか増すばかり。
逃げる隙を見つけようにも、その猶予を与えてはくれない。

皮肉屋の天邪鬼マガツが大の字で倒れて言う。
「あーあ、やっぱ付く方間違っちまったな。斬りたりねーってのに、ここまでかい俺の道も」
いつもは無口の座敷童のボッコちゃんですら倒れながら言葉を発した。
「こいつらほんとウゼー」
「おいおいボッコちゃん、最後の言葉それってのは味気ないでしょうが」
腕があがらなくなり、全身傷だらけのカマイタチのイズナが木によりかかり言う。
「ちょっと、しゃべ……るのが、辛いんだけど。皆と戦……かえて、本当に……」
水鉄砲を撃ち続け限界を迎えた河童のソウジュも遂に倒れた。

「ここまでかな」
のきあが力を使い果たして見上げると、そこには巨大なドクロ妖怪である「がしゃどくろ」がいた。そしてゆっくりとがしゃどくろは腕を振り上げた。
その目が怪しく赤く光る。
「皆、すまなかったな。こんな頼りないリーダーで」
皆は言葉を返す力はなく、ただ無言で頷いた。
マガツだけは「まったくだ」という顔で笑っていた。
がしゃどくろの腕が振り下ろされる。

のきあが死を覚悟した時、空から落雷が落ちがしゃどくろを貫いた。
動きが止まったそのがしゃどくろに炎が走る。
「紅蓮の型!」
がしゃどくろは二つに割られ燃え尽きた。

「間に合った様だな。のきあ!」

そこには巨大な黒龍に乗ったサムライ東城氏康の姿があった。
「氏康、来てくれたのか」
「キャハハハ、こりゃ中々の戦場だな」
「オルフェまで」
オルフェは一瞬で周りにいた妖怪たちを一掃した。
「話は後だ、仲間を集めろ。一気に逃げるぞ!」
「えー! もっと暴れたいぞ氏康!」
「ダメだオルフェ! まずは味方の救援が先だ!」
のきあは力を振り絞り、風の力を使いソウジュたちを黒龍ジンライに乗せた。
「よーし、ジン! 巨大なやつを一発頼むぞ!」
「はいはいさー!」
するとジンライは天に登り、巨大な雷柱を数本地上に立て辺りは強烈な光に包まれた。
「どんどんいくよー!」
光は何度となく走る。
それは天変地異と呼べるほどの絶大な威力だった。
「ジンラン、お前いつの間にか凄い力が増しているな」
オルフェがあっけにとられている。

妖怪たちが目くらましにあっている隙に、ジンライは猛スピードで火山の火口に向かい次元のすきまから逃げ延びた。

帰りの最中のきあが氏康に聞く。
「どうして助けに来られたんだ」
「俺が読んで来た」
氏康の影から覚のダイゴが姿を見せた。
「ダイゴ! 無事だったのか」
「ああ、お前たちのおかげで中央世界にたどり着く事ができた、そこでその世界の全員の心を聞いて、『赤獅子国』か『東城氏康』を知っている人を探したんだ」
「そこに丁度、俺とオルフェがデュエル終わりに観戦中でな、事情を聞いて慌てて飛んで来た。さあ帰るぞ!」


「ここが赤獅子国だ」
結界集落の住民たちはその強烈な日光に一瞬戸惑うが、すぐさまその全身で光を浴びた。
「これが太陽の光ってやつか、ずっと見たいようって言っていた」
イズナの冗談にはいつももな冷たかったが、今日だけは違った。
「くそったれだな。あの薄暗い結界村が何だったんだって話じゃねーか」
「ヤベー、まぶしーぞ」
「はっは、ボッコちゃんの笑顔は初めて見たな」
「わらってねーよ」
のきあが仲間たちの笑顔と笑い声で幸せな気分になった。
そこに先にやって来ていた者たちが合流した。
「のきあ! 本当に俺たちここに住んでいいのか!」
「やべーよのきあ! ここは天国じゃねーか!」

のきあは氏康の前に来た。
「改めて、東城氏康様、助けてくれて本当にありがとう!」
「様はやめてくれと言ったろ、のきあ」
「ああ、すまない。こんなにうれしい日は本当に久しぶりなもんでな。本当に俺たちはここに住まわせてもらっていいのかい?」
「ああ、正直土地は有り余っている。国もできたばかりで、まだ何も整っていないのが実態だ。ぜひお主たちの国の者たちにも協力をしてもらいたい」

覚の大悟が二人の会話に加わった。
「凄いな、こんなに澄んだ心の奴は、のきあ、お前以来だ」
「おい大悟、氏康は俺たちの恩人なんだ、心を読むなよ!」
「何を言っている。皆のためには万全を期すのが絶対だろう」
氏康が二人の会話を不思議そうに見ていた。
「すまないな、氏康。こいつは妖怪の覚で名前は大悟という。覚という妖怪は生き物の考えを読む事が出来るんだ」
「じゃあ、大悟殿の前では隠し事ができないのか?」
「ああ、それで氏康の言葉に嘘が無いか確かめたらしい」
「人間ってのは妖怪に偏見を持っている奴が多いからな」
「はっはっは、なら安心してくれ、この国にはもう既に狼人も龍もおる。少しくらい風変りな者だろうと、このくにの人間は何も気にはとめんさ。何よりのきあには住居を作る際にとてもお世話になった、その事を忘れている住民は一人もいないさ」
「いい国みたいだな」
「まだ人数が少ないからかもしれんがな、だが、皆分かり合えると俺は思っている」
「のきあ、この氏康って人間はお前と気が合うだろうな。二人とも超楽天家だ」
大悟は言って皆の元へ向かった。

「それで、さっきの話しの続きだが、喜んで皆も協力させてもらう」
「住み家や仕事の事は後々あるが、まずは住民台帳の登録を済ませてくれぬか」
「ああ、分かったよ」
約2000人もの人間と50ほどの妖怪が赤獅子国に加わった。
氏康は東の広大な土地である東野地方で住むように勧めた。妖怪たちの中にはかつて自分たちがすんでいた遠野の風景に似ているという者たちもおり、その地を大変気に入った。

取り急ぎ、中央世界へのゲートのところに結界師により結界が張られた。
妖怪たちがここを攻め込んでくるとも限らないからだ。
ただし、以前は村一つを取り囲む巨大な結界だったので8人がかりだったが、今回は小規模な物で良かったので、交代交代で一人の結界師がそれにあたった。結界師たちは依然に比べれば身体は全然楽になったので助かると言っていた。
「結界や防御に関してもおいおいちゃんと考えないといかんな」
氏康は考えた。


数日掛かりで住民の登録が終わった。

国としての取り決めをする国家会議。
東城氏康、狼人族の女王オルフェ、最長老ミエル、元氏康村村長の儀作、大工の棟梁作左衛門、町医師の玄爺の6人で始まったこの会議に、今では元軍人センドリック、防衛担当の空牙陽炎そして今回新たに新住民代表として村井のきあが加わった。

氏康はこの場でのきあに対して、住民たちにそれぞれの仕事を国に提供してほしい事も伝えた。
特に今は国の整備をしている段階なので、法整備や国家のあり方を定める文官や、医療体制の整備やインフラの整備など、未だにやる事は一杯あった。

「文官の必要性は分かっているが、俺の国は壊れてしまっていて、生きる事に精一杯だったんだ、適任の人間は正直いないな。医師ならば北方英次郎先生ならきっと役に立ってくれると思う。医療機器がほぼ壊滅した状態で俺たちの村の医療を一手に担ってくれていた先生だ。人間も妖怪の傷も治して来たくらいだからね」
現医療チームの長である玄爺が尋ねる。
「北方先生はおいくつですかな?」
「正確には分かりませんが、おそらく40歳くらいかと、でもどうして?」
「いや、儂ももういい年でな、知識も経験も年齢面を考えても、北方先生に今後はまかせた方がよさそうですな」
「何を言っているんだ玄爺」
氏康が問う。
「それがこの国のためですよ。何より最近では目が悪くてね、医学書の文字も十分に読めなくなっているんですよ」
「分かりました。俺から先生に話しておきます。断る事は無いと思いますけど」
「ではのきあ、北方先生にお願いしてくれ」
「ああ、他にも色々な技術者がいるから、リストをまとめて来るよ」
「他に何かあるものは?」
「氏康様、私からもいいでしょうか」
「なんだ陽炎」
「のきあ殿、人間、妖怪かまわぬが戦闘に長けた者はいますでしょうか」
「戦闘に関しては特出した4人の妖怪がいる、一人で一騎当千の力はあるが、皆性格に問題を抱えていてね」
「性格はかまいません、国の防衛のためにご助力を願いたいのですが、氏康様いいでしょうか?」
「ああ、最近は空や次元の裂け目やら、色々なところからこの国を攻めて来る勢力がいるからな、陽炎を中心に進めてくれ。あと、戦いがある時は俺も極力参加するよ。デュエルで感じたが、やはり最近身体がなまっているみたいだからな」
「分かりました氏康様」
「後は、何かあるものは?」
「そうだ氏康」
「ん、どうした、のきあ?」
「文官を探していると言ったろ」
「ああ」
「考えてみたんだが、次元を渡って人材をスカウトしてみたらどうだろう。向こうには俺たちの国の様に困っている人間たちもいるかもしれないし」
「キャハハハ! それ面白そうだ! 私も行くぞ!」
「次元を渡ってのスカウト旅か。そうか、待ってないで、こちらから行くのか。その考えは無かった! ぜひ検討してみよう! ありがとう、のきあ」
「行く時は俺も誘ってくれ、助けられた恩もある、戦いでも役に立ってみせるよ。こう見えても中々やるよ俺は」
「ああ、分かった。では今日の会議はこんなところかな。皆お疲れ!」
皆お疲れさまでしたといい会議場を後にした。


「スカウト次元旅か。確かに面白そうだ」
氏康は城下を見下ろす。
そこでは赤翼隊が訓練をしていた。
木刀での乱取りを行っていた。
対戦しているのは三姉妹の琴と黒乃の様だった。
その攻防はとても速く見ごたえがあった。
「赤翼隊も日に日に力をつけている様だな。城主の俺もうかうかしてられんな」

街並みを眺めると桜並木が綺麗に街を染めていた。
季節はすっかり春だった。
建国から1年の時が過ぎた。

新しい冒険の始まりの予感に、氏康は少しワクワクしていた。



赤獅子国―人口増加
住民
人間:2214人(INCREASE)
狼人:35人(INCREASE)
妖怪:55人(NEW)
龍:1頭

人間内訳(一部):侍、超能力者、忍者
防衛隊・赤翼隊:7人
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