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  幕間の物語9 妖怪総大将ぬらりひょんの邪凶

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日本幽国
富士山の大噴火により世界の妖怪の封印が解かれる。
世界各国の暗部は迅速にこれに対応し、日本という国は結界に覆われ世界から封じ込められた。
東洋西洋幾多の結界が重ねられた結果、中からは脱出不可能な牢獄となった。

ぬらりひょんという妖怪があった。
元はとるに足らぬ弱小妖怪だったが、知略戦術に長けた妖怪であったため、長い年月を経て妖怪の総大将という立場となる。
元々は群れることが無い妖怪だが、数千年に一度、それらを統べる存在が現れる。
まとめた一群で進む姿は百鬼夜行と呼ばれれた。

ぬらりひょんの邪凶
それが今の時代の長の名前である。
この妖怪はタガが外れていた。

妖怪は無からは生まれない。
元は人間の想像力の中だけの存在だった。だが、その認識が集まり形を成し実体化する。
または人が変異し妖怪となる、鬼や法術の先に進み天狗となった者などはその部類だ。

妖怪の糧は人間。
それを食べ人の持つ霊力を取り込み妖気と変えるもの。
人を殺しその魂を死霊と変えるもの、またはその死体を使役するもの。
それらは全て人間に依存する。
つまり人間の全滅は自分たちの生存すら難しくなる。

だが邪凶が考えたことは、全人類の抹殺だった。

食人派の妖怪の長は八岐大蛇。
太古の伝説にも登場する大妖怪だ。
元はただの蛇だったという、長い年月人を喰らい続け龍となり、さらにそこから八岐大蛇となった。
この龍に名前は無い。

日本が日本幽国へと変貌してから、邪凶は殺人派の妖怪の長となり八岐大蛇と協定を結んだ。
多大の勢力に対して攻撃はしない。標的は人間のみとする。
餌場(人間の集落)は見つけた陣営の物であり、奪い合いなどの争いは禁止する。
この取り決めは邪凶の陣営に結果有利となる。

人間に組みする天狗の一族が結界を張り、人間たちはどこかに隠れ住むようになった。
その結果妖怪たちは中々餌場にたどり着けなくなる。
そこで邪凶は妖狐の一族に人間に化けさせ、結界外に出ていた人間と遭遇させ、村まで案内させた。

結界にも2種類ある、その存在を隠す結界とバリアの様な物で覆い侵入を阻む物。
バリアに関しては、相手の妖力により力が変わり、強者の結界には入る事が出来ない。
最上級の結界は存在が分からず、かつバリアで守られている。
邪凶はバリアの無い結界に絞り、攻略を開始した。

人間たちはみるみるその数を減らしていく。
それと共に邪凶の勢力もどんどんと強大になっていく。
そろそろ八岐大蛇の一派を超え始めた。

そんなある時、さらなる朗報が舞い込んできた。
八岐大蛇と人間に組みする鞍馬天狗の長が戦い、鞍馬天狗は死に、八岐大蛇は重症を負ったというのだ。
邪凶は戦いは八岐大蛇の軍勢に負わせ、自分たちは勢力の拡大のみを続けていた。
さらに数年後、鞍馬天狗の長を継いだ村井のきあという小僧も八岐大蛇との戦いでその姿を消したという。
戦いを見ていた者の報告では、空に光る裂け目が現れ村井のきあはそれに飲み込まれたという。

その戦いで弱った八岐大蛇をぬらりひょんの一派が強襲し、これを討ちとる。
ぬらりひょん邪凶は食人派妖怪の残党を自分の勢力に取り込み、ついに妖怪の総大将となったのだ。
邪凶は全妖怪に宣言した。
「私がこの忌々しい結界世界から脱出する術をお前たちに与えてやろう! しばし待て、その時が来たら大いに暴れるがいい!」

長く日本全土の結界に閉じ込められている邪凶にとっては、その光る裂け目は、この日本幽国を脱出し、新たな狩場へ行けるヒントであると知った。
大きなエネルギー同士がぶつかり合った時に発生するという事は分かった。
だがそのエネルギーを生み出す方法がまだわからない。
それを調べる日々が始まった。

元来妖怪は本能のままに生きる種族であり、何かを研究することなどない者たちだ。
だがこのぬらりひょんという種族は知力への渇望が大きい。
だからこそ知略戦術のみで妖怪の長にまで登りつめたのだ。

研究に明け暮れる日々の中で、部下の報告で村井のきあが自分たちの本拠地である富士山の麓である樹海に現れたという。
急ぎ勢力の中でも強大な力を誇るがしゃどくろなど大量の妖怪たちを送り込んだ。

ぬらりひょんも遅れて行くが、もう事は済んでいた。
がしゃどくろは真っ二つになっており、多くの妖怪たちは消し炭となっていた。

そこに小さな蜘蛛の妖怪がぬらりひょんを待っていた。

「首尾は?」
「はい、次元を渡る糸を、大きな黒い龍に付けておきました」
「でかした! 後は次元を開くあの仕組みが完成すれば、遂にこの結界世界から抜け出せるぞ!」

ぬらりひょんの邪凶は、氏康の赤獅子国への扉を開く、その一歩手前まで来ていた。
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