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第5.5幕 赤翼武道大会
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赤獅子国
季節は夏が近づいて来た。
日本幽国から2000人ほどの人間と50ほどの妖怪が加わり、赤獅子国の人口は一気に増えた。
人が増えた事で色々な事が整備され始めた。
その中の一つが医療体制だ。
北村栄次郎という40代の幽国出身医師を中心に国の医療体制を整える活動が始まった。
北村は氏康に一つお願いをした。
国の医療体制がある程度整うまで次元スカウトの旅は待ってくれという内容だ。
違う世界で新しい病原菌を持ち込んでしまうかもしれない。
最低でも検査ができる状態まで出発を待つようにとの事だ。
それと同時に全国民の健康診断をする事も決まった。
北村の弟子の橘さなという女医が女性を担当。
ミリアを始め何名もの看護師がサポートした。
身長、体重の測定
視力、聴覚の検査
医師による触診問診が行われた。
一日がかりの作業となった。
約2000の住民を一度にみたのだ。
そこで北村医師から氏康に共有があった。
どうやら氏康の国の出身者である和人と、のきあの日本幽国出身の日本人では筋量が全く違うとの事だ。
簡単に言うならば、和人の方が圧倒的に力が強い。
言うまでもないが、その和人よりも狼人族の方が力が強い。
ただ氏康に限り、狼人族と遜色の無い筋量だという。
日本幽国では喘息気味だった子供たちも、この国に来てから改善の様相を見せているという。赤獅子国の綺麗な空気が体によかったのだろう。
何よりも太陽の無い世界で過ごしていた人々には陽の力は絶大だった。
氏康は北村医師に、国民全員の健康診断は年に一度の定例行事とするように頼んだ。医師の方も元よりそのつもりだった。そのためにも検査機器の充実を氏康に願い、氏康はそれを約束した。中央世界経由の貿易や経蔵たち技術開発のチームに依頼すると伝えた。ほしい機器があれば、何でも言ってくれと笑顔で返した。
全国民の身体検査が終わった数日後。
「『赤翼武道大会』? 何だそれは」
「言葉の通り、赤翼隊の連中で武道の大会をするんだよ」
休日、氏康とセンドリック、陽炎の三人は城の一室で談話中。
赤翼隊とは赤獅子国の防衛隊で7人で構成されている。
忍びの空牙陽炎が隊長となり日々稽古をしているが、軍経験者のセンドリックにもアドバイザーに入ってもらっている。
「トーナメント式でね」
「とーなめんと、とは?」
陽炎が質問。
「ああ、ちょっと待ってな」
センドリックは近くの紙にトーナメント表を書いて説明する。
「くじで番号を決めて、1対1で戦い、勝ち進んでいくだ」
「おー! 面白そうだな」
「おうよ、バトルトーナメントは男のロマンよ!」
「俺も参加したいぞ」
「ダメに決まってんだろ。氏康が出たら優勝するに決まってるだろ。あくまでも訓練と序列を決めるのが目的だ」
「序列?」
「そう、自分の力を客観的に知り、もっと腕を磨こう、又は1位の人間はその地位を守るため、皆が切磋琢磨するいいやり方だ」
「なるほどな、我々忍びは滅私の精神。誰かが抜きんでる事は好まれないが、たしかに防衛隊ではそれでもいいのか。競えば全体の武力を上げるにはもってこいだな。丁度訓練の成果も見てみたかったところだ」
陽炎が関心する。
「しかし隊は7人だ、この表だと、どの道あと一人必要だな」
「そこは招待選手として大和から来てる指南役の伊丹さんでも入れとこう」
「なんだかワクワクするな、これは街の皆にも見てもらおう。自分たちの防衛の力を知るにはいい機会だ」
「ああ、そのつもりだ。実はもう一つ目的があってな。住民が増えた事だし、防衛隊への参加者募集のプレゼンテーションにもなると思ってな」
大会は大々的に皆に知らされ、会場も新たに新設される事となった。
デザインはデュエルの闘技場を模して作られた。
大会当日
会場にはほぼ全ての住民が観戦にやって来た。
氏康がこの日は休日とし、皆に呼びかけたためでもある。
ルールはこうだ。
武器は木刀のみ。場外、気絶、降参により決着。命を奪った者は失格。隊も除名。
優勝した者には赤翼隊第1席の座を与える。
抽選の結果、トーナメントは以下の形となった。
Aサイド
・巴(ともえ)
・守和(もりかず)
・邦一(ほういち)
・黒乃(くろの)
Bサイド
・累(るい)
・指南役伊丹
・琴(こと)
・淡次郎(たんじろう)
「三姉妹全員バラバラになったね」
「うわー、累姉と同じブロックだー、嫌だよ」
「お前、その文句は淡次郎に勝ってからにしろ」
第1回戦
第1試合
巴 対 守和
隊員の中では最も防御の形が優れる守和だが、総合力で勝りその上をいく巴に成す術無く、完敗。
「守和君は防御の形がしっかりしているのだから、そこから攻撃転じる形を見出さないとね」
「僕はどうも攻撃というものは苦手なんですよ」
第2試合
邦一 対 黒乃
黒乃は体術に優れており、木刀と蹴りの連打で邦一を攻め立てる。
その一撃一撃には普通の樹木であれば折る事ができるほどの威力を持つ。
しかし邦一はそれらを全て防ぎきり、体力の無くなった黒乃に一撃を与え勝利。
「黒乃、お前の課題は持久力だな」
「その前に決めてやるさ」
「それでは防衛戦は務まらんぞ」
「分かっている」
黒乃はそのまま会場を後にした
「まったく、もう少し皆と打ち解けてもらいたいものだがな」
第3試合
累 対 指南役の伊丹
累が大振りの木刀を持って登場。
「累殿、そ、その巨大なモノは?」
「この日のために特別に作ったんだ!」
「それは殺しにかかってるんでしょうか。決まりはご存知ですよね。相手を殺したら敗戦に加え、除隊だと」
「ああ、だから死なないでね伊丹さん!」
伊丹は累の大木刀を何度か受けるも、自らの木刀が木っ端みじんに破壊されたの見て、降参。
第4試合
琴 対 淡次郎
互いに似た、手数とスピードで勝負するタイプであったため、中々に見ごたえのある勝負となった。そのスピードは徐々に上がっていく。観客も段々そのスピードについて来られない者たちが増えていく。その全ての攻防で琴が上回っていく。
休日も狼人族に稽古を付けてもらっている琴が一枚上手でこの勝負を制する。
「完敗でした」
「まあ、私はいつも狼人たちに鍛えてもらっているからな。淡次郎君も来るといい」
「いやですよ、休日くらいはダラダラしていたいです」
三姉妹が順当に勝ち上がり、邦一を加えた4人が準決勝に勝ち上がった。
準決勝
第1試合
巴 対 邦一
事実上の決勝とも言われたこの試合。隊の一番手を決める戦いと言ってもいい。
先に仕掛けたのは邦一。リーチ差を活かし巴を追い立てる。
止めの一撃と思われた攻撃を巴はひらりと跳んでかわし呼吸を整える。
木刀を大きく構えゆっくりと上下に動かし舞を始めた。
「巴さん、それは?」
「鶴の舞を参考にしました剣舞です。私の愛刀は姫鶴の名をいただいおりますので」
「なるほど、ではこちらから行きますよ」
邦一は一気に距離を詰める。
その動きに呼吸を併せ巴の剣舞が始まる。
上下左右、攻めていたはずの邦一はいつの間にか防御に精一杯となり、次第にさばききれなくなる。
銅に横掛けを受け、邦一は降参した。
「凄いな巴さん、動きは見えているはずなのに、不思議とさばききれなかった」
「鶴の舞は相手の呼吸を崩す攻撃ですの。邦一さんの攻撃防御のリズムは日頃の訓練で存知てましたので、それをかわさせて頂きました」
「完敗です」
「いえ、相手を知っていたから早く対応出来たにすぎません、初見の相手では邦一さんの方が上だと思います」
「ふふ、世辞でも嬉しいよ」
第2試合
累 対 琴
「累姉、その剣ズルい」
「ズルかないよ、戦いは戦う前に始まってる、準備も立派な戦術だよ」
「だからってそんな丸太みたいの、見た目に脅威だし、卑怯」
「いいからかかってきな琴」
琴は腰を落とし、一瞬で累の間合いに入る。
「まあそんなデカい剣じゃ、間合いに入ればこっちのモノだけどね」
「あまい!」
累の右アッパーが琴の顎をとらえる。
寸前の所で木刀でガードをする。
しかしの威力を殺す事は出来ず、数メートル後ろに吹っ飛ばされる。
「何なのよ馬鹿力!」
間髪入れずにに累が跳ね琴に大斬りを仕掛ける。
これも寸前の所で身体を横に転がし避ける。
「ええい、ちょこまかと!」
「累姉が大雑把すぎるんだよ!」
琴は仰向けから跳ね起き、そのまま斬りつける。
その攻撃は一撃では終わらず、回転も加えたその連撃は小さな竜巻の様に累を襲う。
累は大木刀を盾替わりに防御を硬め、攻撃疲れの隙を待ったが一向に終わる気配が無い。
しびれを切らし攻撃に移ろうとする累。
「待ってました!」
その一瞬の隙を琴がつき、顎に木刀の突き上げを決める。
「決まった!」
そのまま仰向けに倒れそうになる累。
だが右足を大きく後ろにつきだし、倒れる力をそのまま回転に繋げ大木刀を横に振る。
勝ったと思って油断している琴は一瞬防御が遅れ、身体の前に木刀を入れるのが精一杯。
その攻撃をまともに食らってしまう。
持っている木刀は真っ二つに折れ、闘技場の場外に吹っ飛ばされた琴。
場外負けで敗北した。
「何なのよ累姉の馬鹿力!」
「はん、一撃入れたくらいで浮かれてるからだよ。大体ひ弱な琴の一撃食らったくらいじゃダメージなんて無いんだよ」
累は涙をこらえて強がった。流石に少しは効いていた様だった。
決勝は三姉妹の長女と次女の戦いとなった。
決勝
巴 対 累
「巴姉えとは一度本気でやってみたかったんだよね」
「ふー、私はやりたくありませんでしたよ」
開始の合図と共に累が駆ける。
「あの舞は使わせないよ」
累は駆けながら大横切りで剣を振るう。横に払うつもりだ。
巴は刀を下向け、刀先を少し引いた形で構えた。
巴は上に避けるだろうと予測し、そこに追撃と思っていた累は、攻撃を受ける姿勢を見せる巴に面を食らう。
累の大振りの攻撃に巴は刃を滑らし、その力を利用して宙に舞う。
「舞にも色々あるのよ累」
宙で身体を反転させ累の後ろ首に一太刀を入れる。
差ながら鶴が宙に舞い羽ばたく様に綺麗な動きだった。
累はあまりに無防備な中で攻撃を受けてしまい、そのままうつ伏せに倒れ気を失った。
決勝はこうして一瞬で決着がついた。
実力者同士の戦いは得てしてそうなるモノである。
授与式が行なわれる。
氏康から「第1席隊印」を受ける巴。
「これからも頼むぞ、巴」
「ありがたきお言葉です。氏康様」
受け取った隊印をそのまま胸に付けた。
「この第1席に恥じぬ様精進してまいります」
「ああ」
こうして赤翼隊の赤翼武道大会は決着となった。
この大会を見て、多くの者が隊へ入隊志願者をした。
元からの住民である狼人族、日本幽国から来た者たちの中からだ。
陽炎は隊を32人にまで増やしたいと氏康に提案
氏康は問題無いとそれを許可した。
今から第2回目の赤翼武道大会を楽しみに待つ声が街で囁き始められた。
オルフェなども自分も参加したいと募らし始めた。
センドリックがこれは赤翼隊のためのモノだと説明するが、「ならば我々が参加できる大会も作ってくれ、氏康も出るぞ、な」と聞き分けが無い。
だが氏康は、皆の戦闘力が高すぎるから、デュエルの様なグローブの様な仕組みや、医療体制がシッカリしないうちは開催しないと名言した。
「オルフェ、お主のパンチをまともに食らって無事な奴がこの国に何人いるというんだ」
「でも出たい! 出たい! 出たい!」
「分かったから、そのうち体制が整ったら開催するから」
「絶対だぞ氏康!」
数日後、赤翼隊の入隊テストが行なわれて計25人のメンバーが加わり、計32名の隊となった。
中には獣人や妖怪なども加わり、隊の戦力は順調に力をつけていった。
鍛冶職人の虎徹のみが一気に25本もの刀の注文が入り泡をくっていた。
ちなみに虎徹の工房にも何人か弟子が入り、その腕を継ごうと日々精進している。
赤翼隊創設時は一人一人にあったものを作ったが、今回は25人分となり時間がかかるとなり、全て同じ型で作る事になった。
主に弟子たちが作り、虎徹が最終仕上げとする工程を担当。
刀の名は朱鷺剣(ときつるぎ)とされた。
赤獅子国の赤にちなんだ赤鳥にちなんだ、そしてこの事で朱鷺はこの赤獅子国の国鳥となった。
季節は夏が近づいて来た。
日本幽国から2000人ほどの人間と50ほどの妖怪が加わり、赤獅子国の人口は一気に増えた。
人が増えた事で色々な事が整備され始めた。
その中の一つが医療体制だ。
北村栄次郎という40代の幽国出身医師を中心に国の医療体制を整える活動が始まった。
北村は氏康に一つお願いをした。
国の医療体制がある程度整うまで次元スカウトの旅は待ってくれという内容だ。
違う世界で新しい病原菌を持ち込んでしまうかもしれない。
最低でも検査ができる状態まで出発を待つようにとの事だ。
それと同時に全国民の健康診断をする事も決まった。
北村の弟子の橘さなという女医が女性を担当。
ミリアを始め何名もの看護師がサポートした。
身長、体重の測定
視力、聴覚の検査
医師による触診問診が行われた。
一日がかりの作業となった。
約2000の住民を一度にみたのだ。
そこで北村医師から氏康に共有があった。
どうやら氏康の国の出身者である和人と、のきあの日本幽国出身の日本人では筋量が全く違うとの事だ。
簡単に言うならば、和人の方が圧倒的に力が強い。
言うまでもないが、その和人よりも狼人族の方が力が強い。
ただ氏康に限り、狼人族と遜色の無い筋量だという。
日本幽国では喘息気味だった子供たちも、この国に来てから改善の様相を見せているという。赤獅子国の綺麗な空気が体によかったのだろう。
何よりも太陽の無い世界で過ごしていた人々には陽の力は絶大だった。
氏康は北村医師に、国民全員の健康診断は年に一度の定例行事とするように頼んだ。医師の方も元よりそのつもりだった。そのためにも検査機器の充実を氏康に願い、氏康はそれを約束した。中央世界経由の貿易や経蔵たち技術開発のチームに依頼すると伝えた。ほしい機器があれば、何でも言ってくれと笑顔で返した。
全国民の身体検査が終わった数日後。
「『赤翼武道大会』? 何だそれは」
「言葉の通り、赤翼隊の連中で武道の大会をするんだよ」
休日、氏康とセンドリック、陽炎の三人は城の一室で談話中。
赤翼隊とは赤獅子国の防衛隊で7人で構成されている。
忍びの空牙陽炎が隊長となり日々稽古をしているが、軍経験者のセンドリックにもアドバイザーに入ってもらっている。
「トーナメント式でね」
「とーなめんと、とは?」
陽炎が質問。
「ああ、ちょっと待ってな」
センドリックは近くの紙にトーナメント表を書いて説明する。
「くじで番号を決めて、1対1で戦い、勝ち進んでいくだ」
「おー! 面白そうだな」
「おうよ、バトルトーナメントは男のロマンよ!」
「俺も参加したいぞ」
「ダメに決まってんだろ。氏康が出たら優勝するに決まってるだろ。あくまでも訓練と序列を決めるのが目的だ」
「序列?」
「そう、自分の力を客観的に知り、もっと腕を磨こう、又は1位の人間はその地位を守るため、皆が切磋琢磨するいいやり方だ」
「なるほどな、我々忍びは滅私の精神。誰かが抜きんでる事は好まれないが、たしかに防衛隊ではそれでもいいのか。競えば全体の武力を上げるにはもってこいだな。丁度訓練の成果も見てみたかったところだ」
陽炎が関心する。
「しかし隊は7人だ、この表だと、どの道あと一人必要だな」
「そこは招待選手として大和から来てる指南役の伊丹さんでも入れとこう」
「なんだかワクワクするな、これは街の皆にも見てもらおう。自分たちの防衛の力を知るにはいい機会だ」
「ああ、そのつもりだ。実はもう一つ目的があってな。住民が増えた事だし、防衛隊への参加者募集のプレゼンテーションにもなると思ってな」
大会は大々的に皆に知らされ、会場も新たに新設される事となった。
デザインはデュエルの闘技場を模して作られた。
大会当日
会場にはほぼ全ての住民が観戦にやって来た。
氏康がこの日は休日とし、皆に呼びかけたためでもある。
ルールはこうだ。
武器は木刀のみ。場外、気絶、降参により決着。命を奪った者は失格。隊も除名。
優勝した者には赤翼隊第1席の座を与える。
抽選の結果、トーナメントは以下の形となった。
Aサイド
・巴(ともえ)
・守和(もりかず)
・邦一(ほういち)
・黒乃(くろの)
Bサイド
・累(るい)
・指南役伊丹
・琴(こと)
・淡次郎(たんじろう)
「三姉妹全員バラバラになったね」
「うわー、累姉と同じブロックだー、嫌だよ」
「お前、その文句は淡次郎に勝ってからにしろ」
第1回戦
第1試合
巴 対 守和
隊員の中では最も防御の形が優れる守和だが、総合力で勝りその上をいく巴に成す術無く、完敗。
「守和君は防御の形がしっかりしているのだから、そこから攻撃転じる形を見出さないとね」
「僕はどうも攻撃というものは苦手なんですよ」
第2試合
邦一 対 黒乃
黒乃は体術に優れており、木刀と蹴りの連打で邦一を攻め立てる。
その一撃一撃には普通の樹木であれば折る事ができるほどの威力を持つ。
しかし邦一はそれらを全て防ぎきり、体力の無くなった黒乃に一撃を与え勝利。
「黒乃、お前の課題は持久力だな」
「その前に決めてやるさ」
「それでは防衛戦は務まらんぞ」
「分かっている」
黒乃はそのまま会場を後にした
「まったく、もう少し皆と打ち解けてもらいたいものだがな」
第3試合
累 対 指南役の伊丹
累が大振りの木刀を持って登場。
「累殿、そ、その巨大なモノは?」
「この日のために特別に作ったんだ!」
「それは殺しにかかってるんでしょうか。決まりはご存知ですよね。相手を殺したら敗戦に加え、除隊だと」
「ああ、だから死なないでね伊丹さん!」
伊丹は累の大木刀を何度か受けるも、自らの木刀が木っ端みじんに破壊されたの見て、降参。
第4試合
琴 対 淡次郎
互いに似た、手数とスピードで勝負するタイプであったため、中々に見ごたえのある勝負となった。そのスピードは徐々に上がっていく。観客も段々そのスピードについて来られない者たちが増えていく。その全ての攻防で琴が上回っていく。
休日も狼人族に稽古を付けてもらっている琴が一枚上手でこの勝負を制する。
「完敗でした」
「まあ、私はいつも狼人たちに鍛えてもらっているからな。淡次郎君も来るといい」
「いやですよ、休日くらいはダラダラしていたいです」
三姉妹が順当に勝ち上がり、邦一を加えた4人が準決勝に勝ち上がった。
準決勝
第1試合
巴 対 邦一
事実上の決勝とも言われたこの試合。隊の一番手を決める戦いと言ってもいい。
先に仕掛けたのは邦一。リーチ差を活かし巴を追い立てる。
止めの一撃と思われた攻撃を巴はひらりと跳んでかわし呼吸を整える。
木刀を大きく構えゆっくりと上下に動かし舞を始めた。
「巴さん、それは?」
「鶴の舞を参考にしました剣舞です。私の愛刀は姫鶴の名をいただいおりますので」
「なるほど、ではこちらから行きますよ」
邦一は一気に距離を詰める。
その動きに呼吸を併せ巴の剣舞が始まる。
上下左右、攻めていたはずの邦一はいつの間にか防御に精一杯となり、次第にさばききれなくなる。
銅に横掛けを受け、邦一は降参した。
「凄いな巴さん、動きは見えているはずなのに、不思議とさばききれなかった」
「鶴の舞は相手の呼吸を崩す攻撃ですの。邦一さんの攻撃防御のリズムは日頃の訓練で存知てましたので、それをかわさせて頂きました」
「完敗です」
「いえ、相手を知っていたから早く対応出来たにすぎません、初見の相手では邦一さんの方が上だと思います」
「ふふ、世辞でも嬉しいよ」
第2試合
累 対 琴
「累姉、その剣ズルい」
「ズルかないよ、戦いは戦う前に始まってる、準備も立派な戦術だよ」
「だからってそんな丸太みたいの、見た目に脅威だし、卑怯」
「いいからかかってきな琴」
琴は腰を落とし、一瞬で累の間合いに入る。
「まあそんなデカい剣じゃ、間合いに入ればこっちのモノだけどね」
「あまい!」
累の右アッパーが琴の顎をとらえる。
寸前の所で木刀でガードをする。
しかしの威力を殺す事は出来ず、数メートル後ろに吹っ飛ばされる。
「何なのよ馬鹿力!」
間髪入れずにに累が跳ね琴に大斬りを仕掛ける。
これも寸前の所で身体を横に転がし避ける。
「ええい、ちょこまかと!」
「累姉が大雑把すぎるんだよ!」
琴は仰向けから跳ね起き、そのまま斬りつける。
その攻撃は一撃では終わらず、回転も加えたその連撃は小さな竜巻の様に累を襲う。
累は大木刀を盾替わりに防御を硬め、攻撃疲れの隙を待ったが一向に終わる気配が無い。
しびれを切らし攻撃に移ろうとする累。
「待ってました!」
その一瞬の隙を琴がつき、顎に木刀の突き上げを決める。
「決まった!」
そのまま仰向けに倒れそうになる累。
だが右足を大きく後ろにつきだし、倒れる力をそのまま回転に繋げ大木刀を横に振る。
勝ったと思って油断している琴は一瞬防御が遅れ、身体の前に木刀を入れるのが精一杯。
その攻撃をまともに食らってしまう。
持っている木刀は真っ二つに折れ、闘技場の場外に吹っ飛ばされた琴。
場外負けで敗北した。
「何なのよ累姉の馬鹿力!」
「はん、一撃入れたくらいで浮かれてるからだよ。大体ひ弱な琴の一撃食らったくらいじゃダメージなんて無いんだよ」
累は涙をこらえて強がった。流石に少しは効いていた様だった。
決勝は三姉妹の長女と次女の戦いとなった。
決勝
巴 対 累
「巴姉えとは一度本気でやってみたかったんだよね」
「ふー、私はやりたくありませんでしたよ」
開始の合図と共に累が駆ける。
「あの舞は使わせないよ」
累は駆けながら大横切りで剣を振るう。横に払うつもりだ。
巴は刀を下向け、刀先を少し引いた形で構えた。
巴は上に避けるだろうと予測し、そこに追撃と思っていた累は、攻撃を受ける姿勢を見せる巴に面を食らう。
累の大振りの攻撃に巴は刃を滑らし、その力を利用して宙に舞う。
「舞にも色々あるのよ累」
宙で身体を反転させ累の後ろ首に一太刀を入れる。
差ながら鶴が宙に舞い羽ばたく様に綺麗な動きだった。
累はあまりに無防備な中で攻撃を受けてしまい、そのままうつ伏せに倒れ気を失った。
決勝はこうして一瞬で決着がついた。
実力者同士の戦いは得てしてそうなるモノである。
授与式が行なわれる。
氏康から「第1席隊印」を受ける巴。
「これからも頼むぞ、巴」
「ありがたきお言葉です。氏康様」
受け取った隊印をそのまま胸に付けた。
「この第1席に恥じぬ様精進してまいります」
「ああ」
こうして赤翼隊の赤翼武道大会は決着となった。
この大会を見て、多くの者が隊へ入隊志願者をした。
元からの住民である狼人族、日本幽国から来た者たちの中からだ。
陽炎は隊を32人にまで増やしたいと氏康に提案
氏康は問題無いとそれを許可した。
今から第2回目の赤翼武道大会を楽しみに待つ声が街で囁き始められた。
オルフェなども自分も参加したいと募らし始めた。
センドリックがこれは赤翼隊のためのモノだと説明するが、「ならば我々が参加できる大会も作ってくれ、氏康も出るぞ、な」と聞き分けが無い。
だが氏康は、皆の戦闘力が高すぎるから、デュエルの様なグローブの様な仕組みや、医療体制がシッカリしないうちは開催しないと名言した。
「オルフェ、お主のパンチをまともに食らって無事な奴がこの国に何人いるというんだ」
「でも出たい! 出たい! 出たい!」
「分かったから、そのうち体制が整ったら開催するから」
「絶対だぞ氏康!」
数日後、赤翼隊の入隊テストが行なわれて計25人のメンバーが加わり、計32名の隊となった。
中には獣人や妖怪なども加わり、隊の戦力は順調に力をつけていった。
鍛冶職人の虎徹のみが一気に25本もの刀の注文が入り泡をくっていた。
ちなみに虎徹の工房にも何人か弟子が入り、その腕を継ごうと日々精進している。
赤翼隊創設時は一人一人にあったものを作ったが、今回は25人分となり時間がかかるとなり、全て同じ型で作る事になった。
主に弟子たちが作り、虎徹が最終仕上げとする工程を担当。
刀の名は朱鷺剣(ときつるぎ)とされた。
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編端みどり
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隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
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