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第7章 侍、次元を渡る

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赤獅子国天守閣。
すっかりここは会議場となっている。
机には氏康、オルフェ、センドリック、のきあ、そしてゲストのサイードとそのお目付役で
息子のアーディルが同席している。
サイードに対して文官を探し次元スカウトの旅に向かう相談をしている。
サイードは冷静な口調で話始める。
「知識は=欲だ。そして、人間はこの欲ってやつに際限が無い生き物だ。もし賢くしかも貪欲な奴にこの国を任せたら、国ごと乗っ取っちまうかもしれんぞ」
「大丈夫だ。仮にそれで国が良くなるのであれば申し分ない。ただし私利私欲のための圧政を布いた場合は、力の限りでこれを排除する」
「覚悟はある様だな」
「いいぜ、うってつけの国を一つ教えてやる、通称『図書館』。そこは『学者の国』と呼ばれる国だ」
「なんだその国は?」
「国民全員が学者なんだ、様々な世界に人材を派遣している、実践主義を第一にしているからな。俺も一時期、知的な女性を求めていた時があってな、それでこの国に行ったんだが、そこの女たちは皆『恋愛を科学的に分析する』だのクソつまらない事ばかり言うもんで醒めちまってな、国を後にしたのさ」
「本当にしょうもない。これが父親かと思うと涙が出ます」
「お前、それが親に言う事か?」
「それでは、あなたは親らしい事をしてくれましたか?」
「ぐうぅぅ」
「まさにぐうの音も出ない、だな。キャハハハ」
「笑うなよ、嬢ちゃん」

「では、その『学者の国』を目指そう。実はメンバーはもう決めてある。それでな、のきあ。俺が旅に出ている間、この国の事をお主に任せたい」
「俺はお留守番か」
「すまん、のきあ以上に任せられる適任者がいなくてな。頼む」
「分かりましたよ。残念だったけど、そこまで言われるとしょうがないな。任せておけ氏康」

氏康は次元スカウトの旅のメンバーを発表した。
氏康、ミリア、センドリック(呼んでないのに来るという)、オルフェ、経蔵、巴、そして商人の嘉平。

商人の嘉平は大和国からの赤獅子国に商機を見出し、移り住んで来た。サムライの家に生まれがながら商人の道を進む事を決めた変わった男だ。
だがまっすぐな男で、氏康はこの男が気に入っており、城の御用聞きも任せている。
実はテレパシー使いの執事センドリックが氏康に内緒で心を読み、その裏表の無さに信頼を置いているところでもある。
そんな縁でこの嘉平も次元スカウトの旅に同行させた。

次元を渡る

実は「世界の根幹」を名乗る者たちはこの行為を奨励してはいない。
無意味な戦いのきっかけを作りかねないからである。
「世界の根幹」を名乗る者たちは、「明かな次元間侵略行為」には厳罰な処置を行なう。
攻め入った世界の「削除」がその最たる例だ。文字通り、存在から消してしまうのだ。
先日、赤獅子国が日本幽国の妖怪たちから受けた襲撃は、「明かな次元間侵略行為」にあたる。しかしその次元の切れ間が小さかった事、またその時間が短かった事から「世界の根幹」を名乗る者たちから見過ごされた。
実は次元渡りの堕天使リビアナはこの事を知っていた。何度かの実験でどれほどの大きさの次元の裂け目が限界なのかを既に試しているのだ。


中央世界から、正式な手続きで「図書館」と呼ばれる「学者の国」へと向かった。
次元を渡る船に乗って。
それは「船」と呼ばれてはいるが、ただの動く床である。畳六畳ほどの大きさで思念すれば椅子が現れる。だが、ほとんどの者は椅子は使わない。なぜなら次元渡りは数分の出来事だからだ。

氏康たちは「学者の国」へとたどり着いた。
早速、出迎えの学士が現れた。
挨拶は淡白に、そのまま管理局へと連れられた。学者たちの国と言うだけあって、無駄なくシステマティックに物事が進んでいく。

案内が人材部と呼ばれる建物に入る。
そこには眼鏡をかけた初老の男性が待ち構えていた。
客間の様な部屋に通され、人数分のコーヒーが出された。
「砂糖は5つ。失礼、午後は少し糖分が足りなくなってしまってね」
その男性は微笑んだ。
「私の名前はアデルライツ・フォン・バーゼルナッハ。まあ、アデルとでも呼んでください。そして、学者の派遣の件と伺っておりますが?」
「はい、私は赤獅子国の代表である東城氏康。国は出来てまだ2年ほどで、住民も3000ほどの小さな国です。ただこれからよりよい国を作るため、国の整備に力を借りたくてきました」
「分かりました。では早速ですが、派遣をする資格があるかどうか、試させて頂きます。次の問に答えてください」

-非常にはかなくて、名前を言っただけで壊れ、無くなってしまうモノはなんですか?-

オルフェが得意げにこたえる
「フフン、私なら大概のものは壊せるぞ」
「そうゆう事ではなくて」
「もっとヒントは無いのですか?」

-それは黄金にも等しいと言われている-

同行していた商人の嘉平が皆に言った。人差し指を口の前において。
「皆さん今からしばらく、何もしゃべらないでください」
「なんだ嘉平?」
「オルフェさん、シー」
「分かったよ」
オルフェは腕組みをしてフンとそっぽを向いた。
皆も黙った。
しばらくして嘉平が声を上げた。
「これが答えですね!」
「うむ、見事じゃ」
「なんだ嘉平。どういうことだ?」

「『沈黙は金』これは商人の修行をしている時に、ある大商人に教えてもらった言葉です」

「なるほど、資格はありですね。では質問です、先ほどあなたが言った『目指すべき、良き国』とはいかなるものですかな?」
「皆が飢えることなく、平穏に暮らせる国。そして多種多様な人々、いや人以外の者たちも力を合わせ、よりよい国を目指す国です」
「理想郷の様に聞こえますな。我々の学者たちは、その全てが何かしらの専門分野を持っている。そしてそれを生涯をかけて研究し向上させようと努めている。課題にあった人材の派遣をしている我々だが、課題が多すぎても人材が足りなくなってしまう」
「つまり、私たちの国は問題が多すぎて、派遣する人間が足りないってことか?」
オルフェが無邪気に質問をする。
「人間、どんなに賢くても全知全能などはありはしない。我々も人材が無限にあるわけではないのでね。さてどうしたものか」
アデルが考え込んでいると、突然部屋に何人かの子供たちが入って来た。
「バーゼルナッハ様! 我々『グレイズ・チルドレン』がこの者たちの国へと参ります!」
人数は7人、皆肌の色や髪、瞳の色が違う子供たちだった。
「こら、勝手に入ってくるでない!」
「バーゼルナッハ様! 我々にもチャンスを」
「アデル殿、この子たちは?」
「ああ、『オルファンズ』という孤児の学士見習い達です」
「子供でもやはり皆優秀なのですか?」
「東城といったな。ついてたな、俺たち『智慧の七柱』がお前の国の文官を努めてやる!」
「これ! すいませんな、この子らは孤児なので学会への伝手が無く、チャンスに飢えている状態で」
「『グレイズ・チルドレン』や『智慧の七柱』など呼び方が色々あるのですか?」
「それは自分たちで名乗っているだけで、我々は『オルファンズ』呼んでいます」
「この子たちを我らの国に派遣してくれませんか?」
「おお、東城! お前見る目あるぞ!」
「やった! 私たちいよいよ実践の場所へ向かえるの?」
「待て待て、東城さん。この子たちはまだ学徒の身、国を任せるにはまだ早いです」
「バーゼルナッハ様! 大丈夫です。我々はもう十分に学びました!」
「スコアでもエリートの連中に引けをとってはいません!」
アデルは黙ってオルファンズを見渡す。皆覚悟を決めた目をしている。
「東城さん、本当にいいのですか?」
「ああ、俺も16歳で国主を務めるくらいだ。実践は早いに越した事は無い」
「話が分かる! 東城、後悔はさせないぜ!」

「フー。分かりました。子供たちらを派遣しよう」

手続きは早急に終え、7人の学士見習いが文官として参画する事となった。

「で、君たちの事はなんと呼べばいい?」
「グレイズ・チルドレンだ」
「智慧の七柱」
「プレアデス!」
「七知神」
「マグヌム・オプス」
「七英雄!」
「マスターピース」
7人が皆好き勝手言っている。
「何だ統一した呼び名はないのか。追々決めていくかの。で、早速だがまず何から始める」
呼び名であれほど息の合わない7人が息を合わせてそれに答えた。
「決まっている! フィールドワーク、調査だ!」

この7人は赤獅子国の全てを調べ始めた。
土地、人口、鉱物、作物、生き物、インフラ状態、政治体系、経済、法律 等々。
「まずは早急に法律と政治体系を整えないとだな」
「それよりも治水だ。この国は川が多い、災害対策は急務だ」
「何をするにもまずは税法だ」
「しかし税には限界がある。この国ならではの金策を考えねば。重税で国が乱れた例は嫌というほど歴史にあるだろう」
7人の議論は白熱したが、氏康がふと思い出し質問した。
「ところで、お主たち、個別の名前は何というんだ」
「……我々には名前がない。与えられているのは数字だけだ」
「数字?」
リーダー格の男の子が説明をする。
「私はbd838861、後は連番だ。我々はオルファンズとしか呼ばれなかったからな」
「それでは不便だな。何か希望はないのか? こう呼ばれたいというのは?」
「ないです。必要ないです、名前なんて……」
7人は別に名前なんて欲しくないという様な顔でうつむいた。
「それではダメだ。だけれども俺では気のきいた名前がつけられんから、アーディルに相談してみるか」
氏康は通信機でアーディルを呼んだ。
数分後にアーディルがやって来た。
「何ですか、大事な用って」
「実はな、この7人全員名前が無いみたいでな、何か気のきいた名前をつけてもらいたいのだ」
「名前ですか。そうですね、丁度7人ですし、古代の7賢人の名前はどうですか?」
アーディルはサポートAIロボのマーリドから7人の名前の記入された紙をプリントアウトして氏康に渡した。
そこには「ソロン、タレス、キロン、ビアス、クレオブロス、ピッタコス、ミュソン」と記されていた。

「良いな、この7人にピッタリな気がする。お主たちの元持っていた番号の順番に、えーと、ソロン、タレス、キロン、ビアス、クレオブロス、ピッタコス、ミュソンだ」
「俺たちに名前」
「私はキロン……」
「ミュソン」
各々新たに与えられた名前をかみしみている様だった。
「アーディル、そのマリードで、名札の様な物は作れんか。服に付けられるような」
「ちょっとお待ちを」
アーディルは直ぐに7人分の名札を用意し、氏康が7人に渡した。
「明後日は日曜だから、集会の場で国民に7人を紹介しようと思っている。もちろん、その名前でな」
少し前から日曜日に集会をして、国での決めごと等を共有していた。
ソロンと名付けられたリーダー格の男の子が質問をする。
「7人をまとめては何と呼ぶ。やはりオルファンズ、なのか……」
「それは俺が考えてある。お披露目の日に発表だ」

その夜、遅くまで色々な事務仕事をしている7人の元に再び氏康がやって来た。
そしてソロンに質問をした。
「ソロン」
「ああ、俺の名前か。未だ名前で呼ばれた事が無くてなれないんです」
「徐々に慣れればいいさ」
「だが、不思議だ。今まで名前なんて必要ないと思っていたが、名前をもらった時、初めて一人の人間として認識してもらったような気になった」
「俺は氏康、そしてお主はソロン。名前は大事だ。しかもお主の名前は、古代の賢者の立派な名前だそうだしな」
「ソロン。文献で調べた。ある次元の古代7賢者の一人、立法者だったそうだ。俺も最高の法をまとめてやるよ」
「ふふ、期待している。しかし、もう夜は遅い、はじめから頑張ると長くはもたんぞ」
「俺たちには時間が無いんだ」
「時間が無い?」
「孤児の学士見習いは一定以上の成績を納めないと、末端の職にしか着く事が出来ない。
 正直これは奴隷に等しい、人としての尊厳が無い生き方となる」
「ほう、厳しいところだな」
「ただ、知性が足りないと、しかも勝手に決められた基準で図られてな。
 我々7人はただ運が良かっただけなんだ」
「そうか」
「ああ、だから我々は早急に実績と力を付け彼らを救わなければならない」
「うん、俺はお前たちが好きになったよ。これから共に良い国を作っていこう」
「言われなくても最高の国にしてやるよ」


日曜日。
集会場に国民のほぼ全員が集まった。
壇上には氏康と7人が並んでいる。
「今日は皆に紹介したい者たちがいる。学者の国からやって来てくれた、この国の新たなる文官である7人、皆の右手からソロン、タレス、キロン、ビアス、クレオブロス、ピッタコス、ミュソン。そしてこの7人を総称して『七賢子』と呼ぶことにする」
国民皆は拍手と喝采に沸いた。
その様子に七賢子は少し照れているようだった。
ソロンがつぶやく。
「『七賢子』つまりセブン・ワイズ・チルドレンか。悪くない。我らが成長し子供でなくなる前に、この国を完全に整備してみせるさ」

拍手が鳴り響いている際に、突如氏康の目の前にスクリーンが現れた。
ソロンが聞く。
「何だそれは」
「ああ、デュエルのお誘いだ」
「話しに聞いたあのデュエルか」
氏康は7人に相談する。
「国のためには報酬は何がいい。やはり新しい土地か?」
「しばらくは土地はいらない。3000人ほどには現状広すぎる国土だ。金、そして住民増加が目下のところのこの国に必要なモノだ」
「金か住民か、分かった」
オルフェがやって来た。
「デュエルか、氏康。いつだ?」
「せっかくだから今すぐのヤツにするよ」
氏康はデュエルの勝利すうが進んだため、複数の対戦候補から選択できる様になっていた。
オルフェが拳を突き出し、氏康の胸を叩く。
「さっさと勝ってくるのだぞ」
「任せておけ、折角来てくれた七賢子に無様な闘いは見せられんな」


★侍 対 火の使役者★

◆〈侍〉東城氏康
赤獅子国の当主。
デュエルの闘士であった戦士たちを住民として迎え入れ戦力を増し続ける、現在各世界が注目し始めたデュエル界の大型ルーキー。
燃える剣である「緋閃村正」と魔を絶つ銀刀「輝夜」を装備。
配下には狼人族の女王、聖獣、超能力者などを持つ。


◆〈火の使役者〉桜花耀
またの名を「鳳凰の戦姫」。
火の「使役者」にして「光炎の解放軍」のリーダー。
ヤンキーしゃべりが抜けないが根はやさしい戦士。
現在は「日本光国」の功労者にしてにして一部の者たちからは忌まわしく思われている。
全てを焼き尽くす火の鳥キンタロウを操る。


女子高生の制服を着ている耀は氏康に問いかける。
「何だそのお侍さんみたいな恰好は?」
「様なではない、俺は侍だ」
「なら、ちょんまげか?」
「何だちょんまげとは?」
「お侍さんならちょんまげだに決まってろーが! ちょっと兜とってみろ!」
氏康は意味が分からないが、とりあえず兜をとる。だが頭は剃りあげられてはいなかった。大和の国にはちょんまげの文化は無いのだ。
「ちょんまげじゃねーじゃねーか! このシャバ僧が!」
「シャバゾウとは何だ?」
「がたがたうるせーな!」
「聞いてきたのはお主だろう」
「あーいえばーこーいう! アタイはそーゆーやつは大嫌いなんだよ!」
「そうゆうやつってのは、どんな奴の事だ。お主の言ってる事はいちいち分からん」
「うるせーっていってんだよ!」
耀は両手を天にかざす。
みるみる大きな火の塊になる。
「焼け死ね! エセお侍さんが!」
「だから、私は侍だと!」
巨大な火の塊が氏康に迫る。
だが氏康は抜刀の構えをとりその場を動かない。
「なんだい、怖くて足がすくんじまったかい!」
「火の塊なら何という事はない。緋閃!」
氏康は刀でその巨大な火の塊を両断した。
「ただの火ならば、この刀で斬れるでな」
「はん、やるじゃねーか。なら今度は生きた炎だ。キンタロウ!」
耀が名を叫ぶと、鳥の鳴き声と共に巨大な火の鳥が現れた。
「焼き尽くせ!」
「何度やっても同じだろうに」
氏康は迫りくるその巨大な火の鳥を再び両断、したかに見えたが。鳥はその刀を素通りし、氏康の身体を炎で包んだ。
「うぐあぁあ!」
あまりの熱に氏康が声をあげる。
「キンタロウは炎で焼かれたトキの化身だ、刀なんかじゃ切れねーんだよ」
耀は腕にその火の鳥を止めた。鷹匠が腕に止める様に。
「参ったな、緋閃村正で斬れぬ炎があるとは。ならば、その攻撃を受ける前に!」
氏康は一気に間合いをつめて斬りかかる。
しかし耀はキンタロウにつかまり空へと飛んだ。
「なんと、空も飛べるというのか」
「はん! 刀じゃ、空の相手にゃ何もできねーだろ!」
「それはどうかな」
氏康は刀を鞘に納め、構えをとる。そして抜刀と共に炎の刃を耀に向けて発した。
「火閃刃!」
「まったくそんなもんがキンタロウにきくかってーの!」
火の鳥は火の刃を翼で取り込む。
そして再び火の鳥は氏康を包み火柱をあげた。

煙がひき、倒れていた氏康は刀を地面にさし、それを支えに何とか立ち上がる。
「まいったの、火の力でこれまで勝ってきた俺が、火の力にここまで圧倒されるとは」
「おめーのそれは単なる火遊びなんだよ、炎で地獄を見たアタイにはヌルるいんだよ!」
「ふふ、火遊びか。これでも我が国のためには命をかけて戦ってきたつもりだがな」
「そんな刀じゃ、アタイのキンタロウは斬れはしないんだよ。キンタロウはまさに地獄の焔の化身だからな」
「地獄の焔か、まさにエネルギー体その物という訳か……、!」
氏康は何かに気づき刀を鞘に納めた。
「なんだい、また火の刃でも飛ばそうってのかい。さっきやって無駄だった事を忘れたかい?」
「まあ、試したい事があるのでな」
「無駄なあがきだってのが分かんねーみたいだな!」
耀が手を前に振ると火の鳥は氏康にまっすぐ向かっていった。
再び火柱が上がるかと思われたその瞬間、火の鳥は二つに両断された。
「なっ!」
耀が驚いているその刹那、氏康が間合いをつめて耀の腹に刀を入れた。

倒れた耀のそばには二刀を携えた氏康が立っていた。
緋閃村正と小太刀の輝夜。

「なんでキンタロウが?」
「我が愛刀輝夜はエネルギー体を斬る事が出来る。ある妖気を切り裂き得た力だ」
「まいったね、まさかキンタロウを斬られるとは思ってなかった」
「まだやるか?」
耀はあおむけに身体を起こし大の字になった。
「いや、アタイの負けだ。キンタロウの力が通じないんじゃ、どうあがいても勝ち目がねー。さー、さっさと焼くなり煮るなり好きにしやがれ」

ジャッジが氏康の勝ちを宣言した。

氏康は剣を納め耀に話しかけた。
「デュエルの決着は、勝敗が着いた時点で終了だ。それ以上はない。お主の攻撃も中々すごかったぞ」
「ほめてもらったところで、何にもなりゃしねーんだよ」
「どういう意味だ?」
「これでアタイは国に追われるだろうからな。英雄だ何だ持ち上げられても、一度負けちまったらそれまでさ。あーあ、アタイはただトキを守りたかっただけだったんだけどなー」
「ならば、我が国に来るか?」
「負かした相手に何言ってんだ?」
「実は我が国は密漁者たちに困っていてな、大量のトキたちを守るためにも力のある者を求めている」
「大量の……トキ? 何言ってんだアンタ。トキってのは絶滅危惧種で、アタイの国でも全滅しちまったんだぞ」
「我が赤獅子国にはトキを始め、貴重な動物が多いらしい。だが、それらを護る組織がまだなくてな、お主がよければ是非力を貸してほしい」
「なんか、にわかに信じられねー話しだな」
「なら、一度来てみてほしい。自然豊かな良い国だ」
「いいだろう。見て確かめてやろうじゃねーか」

桜花耀は赤獅子国に来て愕然とした。
トキの大群が生活をしており、その他かつて自分のいた国では希少種や絶滅種と呼ばれた動物たちが自然の中で暮らしていたのだ。
「マジかよ。何だこりゃあー!」
「素晴らしいだろう。ただな、先にも言った通り、宇宙や次元を渡って密猟者たちが常に狙っている。どうだろう、手を助けてもらえないだろうか」
「ああ、任せておけ、そんな奴らはアタイがフルボッコにしてやんぜ」
「ありがたい」
「あとよ、ダチも数人呼んでもいいか?」
「ああ、お主の知り合いなら大歓迎だ」
桜花耀は日本光国に戻り、気のしれれた仲間数人を連れて赤獅子国に戻った。
戻る前に、耀を疎ましく、追いやろうとしていた連中に向かって一言だけ残した。
「次、国外から襲われたら、自力で戦いな」
その者たちは黙ってそれを聞き、見送るしか術は無かった。

こうして桜花耀を始めとする数人の「使役者」という新たな戦力が赤獅子国に加わった。
それに伴い、対密漁者隊である「光炎隊」が組織され耀をリーダーとした。
オルフェや陽炎たち国防軍や赤翼隊とは別で、国内の動植物を保護する事が主目的となった。


今日も、調査と保護に光炎隊は努めていた。
早速、小規模な密漁団を撃退した。

耀は捕らえた密漁団の処置を仲間たちに任せて一服しようとタバコを取り出し、空を見た。
そこには大空を飛ぶトキの群れがいた。
キレイなその姿に一瞬動きを止めた。
耀はタバコを箱に戻し、ギュットにぎり潰しポケットに押し込んだ。
そして優しく微笑んだ。


赤獅子国ー文官、動物保護隊獲得
住民
人間:2325人(Increase)
狼人:36人
妖怪:56人
ミスル人:22人(New)
龍:1頭

人間内訳(一部):侍、超能力者、忍者、使役者(New)
文官・七賢子:7人
防衛隊・赤翼隊:32人
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