海神アオハル

華子

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すれ違うふたり

すれ違うふたり06

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「ま、まばゆすぅ!」

 思わず手をかざすほどの、ご来光らいこう。手元のコーヒーは、呆気なく地で広がった。
 ピカピカテカテカしながら、彼はこちらへ近付いてくる。

「なぁんでてめえが、こんなとこいんだよ。お前、あの近辺でしか遊ばねえ言ってたじゃねえか」

 自販機がたいは健在で、今日のスーツは紫色。腕時計も金歯もしっかり光る。

「あーもう!電球ヘッドのせいでコーヒー溢した!」
「んだからその呼び名やめろ!しかもちょっと変えてんじゃねえ!」
「そっちだって俺のことあやとり坊主って言ったじぇねえか!なんで坊主に坊主って言われなきゃいけねえんだよ!このハゲスキン!」
「んあぁぁぁああああ!?」

 バツン!
 そんな音が急にしたのは、男の右拳を、男の左手の平がくるむように受け止めたから。

「てっめえ……わりいけどもう堪忍できねえわ……今日は助っ人呼ばせねえぞ?その前にやっちまうぞ?」

 鉄壁にも近い男の身体が、ずんずん距離を詰めてくる。恥ずかしいけれど、俺は少し後退った。

「おいおい逃げてんじゃねえよコラ。結局チビひとりじゃなんもできねえのか?やられんのが怖えのか?」

 バツンバツンと何度も拳を打ち付けて、威嚇に精を出している。ビビっていないなんて見栄は張らないけれど、それよりも心を支配するのはこの感情。

「俺は、ひとりでなんでもできるもん……」
「んあ?」

 海などいなくたって、コンビを解消したって。

「たったひとりで、俺はなんでもかんでもできるもん!!」

 喉が裂けるほどの奇声を上げながら、きびすも上げたその瞬間。

「………!!」

 鋭い刃物が、俺の頬を掠めていった。
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