海神アオハル

華子

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すれ違うふたり

すれ違うふたり07

 俺は常に身だしなみを気にかけるようなお洒落な人間ではないから、手鏡は持っていない。だから今、己の顔に負ったであろう傷を確認することはできない。
 だがしかし、どのくらい切られたのかは感じてとれた。おそらく左目すぐ真下から、頬骨の一番てっぺんにかけてだろう。何故ならばこの範囲だけ、真冬なのに生温いから。
 手の甲でその部分を拭ってみると、絵の具のハケで塗ったような一筋ひとすじの朱色が伸びた。ドクドクと、痛みが後からやって来る。

 カチャンと軽い音がしたのはついさっき。後ろを振り返り見れば、そこにはペティナイフが落ちていた。ゆっくりと、顔を戻す。

「お前、武器まで使うのかよ……」

 奥歯に圧をかけ過ぎたせいで、にぶい音が耳底でした。

「お前そんなでけえ身体してるくせに、ナイフまで投げてくんの……?」

 ピエロのような薄気味悪い笑顔を浮かべた男は、唾を数滴吐いていた。

「んなこたどーでもいいだろっ。暴力の世界なんて、勝ちゃあいいんだよっ」
「今のが俺の目ぇ刺さってたら、どうしてたんだよ……」
「それはてめえが失明するだけだ。あやとり坊主からあやとり失明坊主に名前が変わるだけ。大したことじゃねえ」
「あっそ……」

 頭に血が昇っていくさまがわかった。だけどそれは、憤慨とはかけ離れた、静かな憤りだった。

 ナイフを蹴って、遠くへやる。そのまま男に背を向け歩き、ベストな位置で立ち止まった。やおらに反転、腰を落とす。

「おいハゲ、今のうちに銀のプレートでも用意しておけ。そこに乗ったてめえの生首が、俺の今日の晩餐ばんさんだ」
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