海神アオハル

華子

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すれ違うふたり

すれ違うふたり09

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 自分で言うのもなんだが、疾風はやてとは俺のことだ。己で己の足を動かしているのにも関わらず、ジェットコースターに搭乗している気分になった。

 あとカンマ五秒で目的地。思い描くは体育での跳び箱の授業。
 目標手前に踏み切り板を置き、両足をそこへ着けたらバネを使って大ジャンプ。腕は伸ばし、腰は高く、手でしっかりと身体を支える。

 ベッチン!
 この前はベチベチ叩いたけれど、今日は一度触ったら離さないしのがさない。何故ならばここが、俺の定めたゴールだから。
 男の肩へと着地をすれば、図らずともカエルのようなポージングになってしまい、少し笑えた。
 真下から、慌てた声が聞こえてくる。

「な!て、てめえどこ乗ってんだコラ!退け!」

 俺の足首をぐわしと掴み、男はどうしたものかと試行錯誤。俺はそんな彼に吠える。

「おいハゲ!動くんじゃねえよ!今俺が大事に抱えてんのなにか知ってんだろ!?」
「はあ!?」
「この電球頭、有り得ない方向に全力で曲げることだって可能なんだぜ!」

 その言葉で、男は俺の足から手を離した。

「ちょ、ちょっと待てよおい……んなもん死ぬじゃねえか……」
「だから言ったじゃねえかプレート用意しとけって!皿どこにあんだよ、お前の頭が今日の晩飯なんだよ!」
「おいおいおいおい、鬼畜か坊主……えげつねえこと言ってねえでさっさと降りろよ……」
「嫌だ。交換条件ねえと降りない、首でお前をぽっくりさせちゃうっ」

 ん、と俺は、彼の面前で手を見せる。

「てめえの携帯よこせっ。お前の悪事あくじが色々入ってるその携帯っ。それが交換条件だ」
「いや、こんなもん渡したら俺、組長に……」
「うるせえ!今死ぬかあとで死ぬかものどっちかだろ!だったら死なねえかもしれない未来に賭けろよ!」
「いや、でも……」
「さっさとしろよ!まじで首ひねんぞ!」

 両手で頭のサイドを持ち、勢いよく左を向かせる。ゴキッと少しの手応えがあり、気持ちが悪かった。

「ほら、一瞬で景色変わったろ?あと三秒後には、真後ろの景色も見せてやんよ」
「や、やめろ……」

 いや、俺だってやりたくない。早いところ降参してくださいお願いします。

さん
「た、頼むっ」

 こっちも頼みます。

にぃ
「おい!殺すな!」

 殺したくなかとです。

いち……」
「………!!!」

 え、え、どうしよう。俺、人殺しとかなりたくねえよ、やだよやだよどうしよう!

 窮地に立たされたのは互いに同じ。けれど死を意識した方が、僅かに決断が早かった。

「わ、わかった!お前に全部やる、全部やるから!俺のポケットのもん全て持ってけ!!」
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