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……昼、一緒にどうですか
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カフェのドアが開き、朝の街の空気がふたりを包み込んだ。
つい先ほどまで小雨が降っていたらしく、アスファルトの表面がまだ薄く湿っている。
けれど空はもう明るく、どこかやわらかな光がビルの合間から差し込み始めていた。
通勤時間帯のにぎわいの中を、凛と光は並んで歩いていた。
前後にサラリーマンたちの集団が足早に歩き、路地裏の自転車がベルを鳴らす。
ふたりの歩調は自然とそろっていたが、言葉は交わしていなかった。
ついさっきまでの会話が、互いの胸にまだ余韻として残っていたからだ。
会社までの道は、あと数分。
そのとき、凛がふと歩みを止めた。
光もすぐに立ち止まり、首を傾げて凛を振り返る。
凛は何かを言おうとして、けれど言葉を探すように視線を逸らした。
ビルの壁に映る朝の反射光を見つめたまま、わずかに口を開く。
「……昼、一緒にどうですか。仕事の合間でも、少しなら」
その言い方は、どこかぎこちなかった。
間の取り方も不自然で、語尾が少しだけ硬い。
それでも、確かにそれは“誘い”だった。
光は一瞬、何を言われたのかを確認するように目を瞬かせた。
それから、止めようのない笑みが顔中に広がっていく。
「それ、今すっごく嬉しいんですけど……顔に出てます?」
凛はその様子を横目で見て、小さくため息をついた。
ただ、その表情に厳しさはない。
むしろ、少しだけ照れているようにさえ見える。
「……出過ぎです。落ち着いてください」
「無理です。ていうか、これで落ち着けってほうが無理です」
光はそう言いながら、顔を手で覆ってみせた。
それでも頬が緩みっぱなしで、隠しきれない笑みが指の隙間からこぼれていた。
通りがかりのサラリーマンが一瞬だけその様子を見て、苦笑まじりに視線を逸らす。
ふたりのやりとりが、そこだけ“朝のドラマ”のように切り取られていた。
凛はそんな周囲の視線に気づきつつも、何も言わず再び歩き出した。
光もすぐに追いつく。
「じゃあ、お昼は会社の近くの、あのカフェにしましょうか。
凛さん、トマト系パスタ、前に好きだって言ってましたよね」
「そんな話、しましたか?」
「しましたよ。ちゃんとメモってあります。
“阿波座凛、トマト系→可”って」
「可、って……」
呆れたように、けれど笑いを含んだ声で凛が応じた。
その反応に、光の足取りがさらに軽くなる。
ふたりの背後では、朝の街が忙しく動いていた。
通勤の波も、ビルの間の風も、急ぐ車も。
けれど凛と光の間には、ゆっくりとした時間が流れていた。
まるで、今日という日が少しだけ特別に始まったことを、
朝の光がそっと祝福してくれているかのようだった。
つい先ほどまで小雨が降っていたらしく、アスファルトの表面がまだ薄く湿っている。
けれど空はもう明るく、どこかやわらかな光がビルの合間から差し込み始めていた。
通勤時間帯のにぎわいの中を、凛と光は並んで歩いていた。
前後にサラリーマンたちの集団が足早に歩き、路地裏の自転車がベルを鳴らす。
ふたりの歩調は自然とそろっていたが、言葉は交わしていなかった。
ついさっきまでの会話が、互いの胸にまだ余韻として残っていたからだ。
会社までの道は、あと数分。
そのとき、凛がふと歩みを止めた。
光もすぐに立ち止まり、首を傾げて凛を振り返る。
凛は何かを言おうとして、けれど言葉を探すように視線を逸らした。
ビルの壁に映る朝の反射光を見つめたまま、わずかに口を開く。
「……昼、一緒にどうですか。仕事の合間でも、少しなら」
その言い方は、どこかぎこちなかった。
間の取り方も不自然で、語尾が少しだけ硬い。
それでも、確かにそれは“誘い”だった。
光は一瞬、何を言われたのかを確認するように目を瞬かせた。
それから、止めようのない笑みが顔中に広がっていく。
「それ、今すっごく嬉しいんですけど……顔に出てます?」
凛はその様子を横目で見て、小さくため息をついた。
ただ、その表情に厳しさはない。
むしろ、少しだけ照れているようにさえ見える。
「……出過ぎです。落ち着いてください」
「無理です。ていうか、これで落ち着けってほうが無理です」
光はそう言いながら、顔を手で覆ってみせた。
それでも頬が緩みっぱなしで、隠しきれない笑みが指の隙間からこぼれていた。
通りがかりのサラリーマンが一瞬だけその様子を見て、苦笑まじりに視線を逸らす。
ふたりのやりとりが、そこだけ“朝のドラマ”のように切り取られていた。
凛はそんな周囲の視線に気づきつつも、何も言わず再び歩き出した。
光もすぐに追いつく。
「じゃあ、お昼は会社の近くの、あのカフェにしましょうか。
凛さん、トマト系パスタ、前に好きだって言ってましたよね」
「そんな話、しましたか?」
「しましたよ。ちゃんとメモってあります。
“阿波座凛、トマト系→可”って」
「可、って……」
呆れたように、けれど笑いを含んだ声で凛が応じた。
その反応に、光の足取りがさらに軽くなる。
ふたりの背後では、朝の街が忙しく動いていた。
通勤の波も、ビルの間の風も、急ぐ車も。
けれど凛と光の間には、ゆっくりとした時間が流れていた。
まるで、今日という日が少しだけ特別に始まったことを、
朝の光がそっと祝福してくれているかのようだった。
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