転生したら異世界最強ホストになってました〜お客様の“心”に寄り添う接客、始めます

中岡 始

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俺は顔だけのホストじゃない! No.1を目指す!

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 レオンは部屋に戻ると、ベッドの端に腰を下ろし、ゆっくりと息を吐いた。  

 カトリーナに指名を切られたあの瞬間が、何度も脳裏に蘇る。  

「レオン様ってカッコいいけど、話はつまらないわね」  

「やっぱりリカルド様のほうが楽しいわね」  

 指名を受けたという喜びは、一瞬で打ち砕かれた。  

 ルミナスに入って初めて、自分の未熟さを痛感した夜だった。  

(このままじゃダメだ)  

 顔がいいだけのホストにはなりたくない。  

 自分を指名してくれた客を、本当に楽しませられるホストになりたい。  

 そのためにはどうすればいいのか。  

 リカルドとヴォルフガングの言葉を思い出す。  

「客のツッコミどころを作るのがコツだ」  

「相手の言葉をただ受けるだけではなく、一歩踏み込んだ返しをする」  

 二人のスタイルは対照的だったが、どちらもホストとしての極意を持っている。  

 レオンは拳を握った。  

(学ぶしかない)  

 このまま何もしなければ、また同じ失敗を繰り返すだけだ。  

 自分の殻を破るために、リカルドの“場を盛り上げる技術”と、ヴォルフガングの“言葉と仕草の魅せ方”を学ぼう。  

 レオンは静かに決意を固めた。  

 翌日、彼はさっそく店の営業前にリカルドを訪ねた。  

「お、レオン。今日はどうした?」  

「お前の接客を見て学びたい」  

 リカルドは一瞬驚いたように目を丸くし、それから豪快に笑った。  

「へえ、やる気になったじゃねえか。いいぜ、俺の技を盗んでみな」  

 その夜、レオンはリカルドのテーブルを遠巻きに観察した。  

 リカルドは客と向き合いながら、時折軽く肩をすくめたり、大げさに表情を変えたりしている。  

「この酒、最高にうまいな! でもな…君と飲むと、もっと美味く感じるんだよ」  

 甘いセリフをさらりと口にするが、それだけではない。  

 わざと少し大げさな仕草を交えたり、客がツッコミを入れやすい隙を作っている。  

 客が「またまた、お世辞が上手ね」と笑いながら返すと、リカルドは「いや、本気だって!」とさらにノリよく返す。  

 場が自然と盛り上がる流れを作っていた。  

「なるほど…」  

 レオンはじっとそのやりとりを観察しながら、リカルドのスタイルを分析する。  

 無理に自分が話し続けるのではなく、客に話させる空気を作る。  

 そのために、あえて“突っ込みたくなる隙”を作るのがリカルドのやり方なのだ。  

 接客とは、ただ会話をするだけではない。  

 客が楽しめる空間を作ることが、ホストの役割なのだと実感した。  

 その後、レオンはヴォルフガングにも相談を持ちかけた。  

「お前の接客も学びたい」  

 ヴォルフガングは少し考え込むようにしてから、静かに頷いた。  

「いいだろう。だが、リカルドとは違うぞ」  

「それは分かってる」  

「では、まずこれをやってみろ」  

 そう言って、ヴォルフガングはある練習を提案した。  

「相手の言葉をただ受けるだけではなく、一歩踏み込んだ返しをすることだ」  

「踏み込んだ返し?」  

「例えば、客が“今日は疲れた”と言ったら、お前はどう答える?」  

「…“お疲れさまでした”とか?」  

「それだけでは不十分だ。お前の言葉には“深み”がない」  

 ヴォルフガングは淡々と言いながら、例を示した。  

「“そうか、大変だったな。だが、こうして俺の前に来てくれたんだろう? その疲れ、俺が癒してやる”」  

 その言葉を聞いた瞬間、レオンはハッとした。  

 ただ労うのではなく、相手の気持ちに踏み込み、自分の存在を印象づける。  

 それが、ヴォルフガングの言う“言葉の重み”なのだ。  

「客はな、自分の話をただ聞いてほしいわけじゃない。本当に心を動かせるホストは、客に“私のことを理解してくれている”と思わせるものだ」  

 ヴォルフガングは静かに言葉を紡ぐ。  

 リカルドの“場を盛り上げる技術”。  

 ヴォルフガングの“言葉の重み”。  

 二人のスタイルは異なるが、どちらもホストとして重要な要素だった。  

 レオンは改めて、自分が今まで何も知らなかったことを痛感する。  

 そして、それを学び、身につけなければならないと思った。  

「俺は俺のスタイルで、No.1を目指す!」  

 決意を新たにし、レオンはスーツの袖を整える。  

 その夜、再び接客の場に立つ。  

 今度こそ、客を“楽しませる”ホストになるために――。  
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