転生したら異世界最強ホストになってました〜お客様の“心”に寄り添う接客、始めます

中岡 始

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“お前は水割りだけ作ってろ”作戦

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 ルミナスの営業が始まると、店内はすぐに華やかな雰囲気に包まれた。

 魔法のランプが柔らかい光を放ち、シャンデリアの輝きがテーブルに映る。

 上品な音楽が流れる中、常連客たちはお気に入りのホストとくつろぎながら、優雅な時間を過ごしていた。

 レオンも、自分の指名客が来ているかを確認しようと歩き出した。

 だが、その前に立ちはだかったのは、ダリオだった。

「新人はおとなしく裏方をやってろ」

 ダリオは涼しげな表情で言い放つ。

「俺は指名客のところへ――」

「その必要はない。お前が前に出る必要はないんだよ」

 ダリオが軽く手を上げると、グレンが後ろから近づいてきた。

「レオン、新人なんだからドリンク作りに専念しろよ」

「先輩が接客している間、しっかりと水割りでも作って勉強しろ」

 グレンはにやりと笑いながら、レオンの肩を軽く叩いた。

 レオンは瞬時に状況を把握した。

(つまり、俺を接客から遠ざけるつもりか)

 新人潰しの一環として、レオンの立場を「単なるドリンク係」に追い込もうとしている。

 しかも、客の前ではあくまで「新人教育」として振る舞っているため、強く反論すれば「指導を受け入れない生意気な新人」という印象を与えかねない。

 店の評判を考えれば、下手に反抗するのは得策ではない。

「新人が前に出るなんて失礼だろ?」

 グレンが肩をすくめながら言う。

 近くの席の客たちも、そのやり取りを聞いていたが、特に違和感を覚えた様子はなかった。

「なるほどな…」

 レオンは小さく息を吐いた。

 露骨な嫌がらせではなく、表向きは教育の一環として成立するように仕組まれている。

 つまり、反論しにくい形で接客の機会を奪う作戦だ。

(だが、こんなことで動揺するほど甘くはない)

 社畜時代、もっと理不尽な仕打ちは何度も受けてきた。

 終わらない残業、無茶なノルマ、理不尽なクレーム対応。

 それに比べれば、たかがホストクラブの人間関係程度で負けるわけにはいかない。

(社畜時代の理不尽に比べれば、こんなのはまだ序の口だ)

「分かりました。では、ドリンク作りを徹底的に学ばせていただきます」

 レオンは表情を変えず、静かに受け入れた。

 ダリオが僅かに眉をひそめる。

「素直で結構だ」

 グレンは笑いながら言う。

「お前の仕事は水割りを作ることだ。適当にやるなよ?」

「もちろんです」

 レオンはバーカウンターへと向かい、氷をグラスに入れた。

 レモンのカットを調整し、グラスの縁を指で拭う。

 ウイスキーと水の比率を完璧に計算し、混ぜ方にも注意を払う。

 ただの水割りとはいえ、客に提供する以上、最高の状態で出すべきだ。

 完璧な仕事をこなすことで、彼らの意図を逆手に取る。

(いいだろう。水割りでも完璧に作ってやるよ)

 テーブルに運ばれた水割りを、客が一口飲む。

「…この水割り、美味しいわね」

 その一言に、ダリオの表情がわずかに曇る。

「本当だ。ちょうどいいバランスで、口当たりがすごくいい」

 別の客も頷きながらグラスを傾ける。

 そのとき、ヘルプとしてついていたホストの一人がふと口を開いた。

「実は、レオンが作ったんですよ」

 客たちは驚いたように目を見開き、レオンのほうを見た。

 彼は静かに微笑みながら、一礼する。

「ご満足いただけて何よりです」

「水割り一つで、こんなに違うものなのね」

 予想外の方向へと展開し、ダリオは内心舌打ちをする。

 本来なら、レオンは裏方に回され、客の印象に残らないはずだった。

 しかし、逆に彼の名前が客たちの間で話題になり始めている。

(まさか、水割り作りでここまで評価を得るとはな)

 ダリオは目を細め、ちらりとレオンを見た。

 グレンも不満そうに腕を組む。

「へえ、たいしたもんだな」

「ありがとうございます」

 レオンはあくまで落ち着いた態度を崩さなかった。

 ダリオが何を考えているのかは分かっている。

 この程度で終わるとは思っていない。

 だが、一つはっきりしていることがあった。

(このまま潰されるつもりはない)

 ホストとして生き残るために、どんな手でも使う覚悟だった。
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