転生したら異世界最強ホストになってました〜お客様の“心”に寄り添う接客、始めます

中岡 始

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エルヴィスの優雅な接客術

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 クラリスの言葉を受け、店内の視線が彼女の前に立つ一人のホストへと集まった。  

 エルヴィス。  

 ルミナスのナンバー1ホストにして、エルフの血を引く彼は、静かに微笑んでクラリスの席へと歩を進めた。  

 その動きは、優雅そのものだった。  

 長く美しい銀髪が揺れ、白い手袋をはめた指がグラスを滑らかに持ち上げる。  

「今宵も、クラリス様は一際お美しい」  

 低く落ち着いた声が、夜の静けさを思わせるように響いた。  

 クラリスは扇を軽く揺らしながら、唇をかすかに吊り上げる。  

「あなたにそう言われると、悪い気はしないわね」  

「当然です。クラリス様の存在そのものが、月光の下に咲く高貴な薔薇。誰もがその美しさに魅了されるでしょう」  

 さらりと紡がれた言葉は、まるで詩のようだった。  

 店内のホストたちが息を呑む中、エルヴィスは静かに微笑みながら、ワイングラスを傾ける。  

 クラリスもまた、グラスを持ち上げた。  

 深紅のワインがグラスの内側でゆっくりと波を描く。  

「さすがね。私を褒める技術は、ますます磨かれているわ」  

「お世辞ではありませんよ」  

 エルヴィスは微笑を崩さず、クラリスの瞳を真っ直ぐに見つめる。  

「事実をありのままに伝えたまでです」  

 その言葉の響きには、一切の迷いがなかった。  

 まるで、貴族の舞踏会で求愛の言葉を交わすかのように、エルヴィスのトークは完璧だった。  

 だが、それだけでは終わらない。  

 彼はワインを軽く口に含んだ後、グラスを置きながら静かに続けた。  

「クラリス様、本日はどのような一日をお過ごしでしたか?」  

「まあ…退屈な会議と、つまらない書類に囲まれた日だったわ」  

 クラリスが肩をすくめる。  

 彼女は貴族の令嬢として、多くの社交の場に顔を出す立場にある。  

 その華やかさの裏には、政治的なやり取りや家同士の駆け引きといった、煩雑な仕事が付きまとう。  

 エルヴィスは、それを理解していた。  

「なるほど…それはさぞ、お疲れになったことでしょう」  

 彼の言葉には、単なる共感を超えた、深い理解が滲んでいた。  

「私も、かつて貴族社会の礼儀作法を学んでいたことがありますが、あの世界はなかなかに窮屈です」  

 クラリスが興味を持ったように扇を閉じる。  

「あなたも貴族社会に関わっていたの?」  

「ええ、エルフの宮廷は人間の貴族社会とはまた異なりますが、格式や儀礼に厳しいのは共通しています」  

 エルヴィスは穏やかに語る。  

 彼の言葉には、知識と品格があった。  

 貴族文化に精通し、クラリスが興味を持つ話題を的確に提供する。  

 まるで、彼女の思考を先読みしているかのように、話題の切り出し方が絶妙だった。  

「では、エルフの宮廷ではどのような儀礼があるの?」  

「例えば、人間の舞踏会では女性が男性の誘いを受けるのが一般的ですが、エルフの宮廷では女性のほうが先に相手を指名するのが伝統です」  

「まあ、それは興味深いわね」  

「女性のほうが相手を選ぶ権利を持つ。クラリス様にぴったりの習慣ではありませんか?」  

 クラリスは微笑み、扇を口元に当てる。  

「確かに、気に入った相手を私のほうから選ぶというのは悪くないわね」  

「ええ。そして、私はその選ばれる側であることを、心より光栄に思います」  

 さりげない一言。  

 だが、それは確実にクラリスの心を引き寄せた。  

 彼の話し方には、決して過剰な媚びがない。  

 知的で、優雅で、心地よい距離感を保った会話。  

 クラリスはグラスを置き、彼をじっと見つめた。  

「あなたらしいわね」  

 その一言は、エルヴィスの実力を認めた証だった。  

 店内のホストたちも、エルヴィスの完璧なトークに感心しているようだった。  

 しかし、クラリスはそこでふっと笑みを浮かべた。  

「でも…今夜はもっと刺激が欲しいわ」  

 その言葉に、エルヴィスはわずかに微笑む。  

「なるほど、クラリス様は今夜、少し違うものを求めていらっしゃるのですね」  

「ええ。あなたのもてなしは最高だわ。でも、それはいつもと変わらない」  

 クラリスはグラスを手に取り、ゆっくりと赤い液体を揺らした。  

「今夜の私は、驚きたいの。いつもと違う、少し変わった楽しみ方をね」  

 エルヴィスは静かにクラリスの目を見つめたまま、グラスの縁を指でなぞった。  

「興味深い」  

 それは、挑戦を受けた者の微笑だった。  

 だが、彼はあえてそれ以上踏み込まなかった。  

 クラリスが次に求める相手を見つけることも、また彼女の楽しみなのだろう。  

 彼は軽く会釈しながら言った。  

「では、今夜は私も観客として楽しませていただきます」  

 クラリスは満足げに頷き、扇をゆるりと広げた。  

「次は…誰が私を楽しませてくれるのかしら?」  

 店内の視線が、一斉に次の挑戦者へと向けられる。  

 エルヴィスの洗練された接客は、クラリスの心を確実に掴んだ。  

 しかし、彼女が求めるものは、それだけではなかった。  

 今夜の指名争奪戦は、まだ始まったばかりだった。  
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