転生したら異世界最強ホストになってました〜お客様の“心”に寄り添う接客、始めます

中岡 始

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リカルドの陽気な海賊トーク

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 エルヴィスが席を立つと、次に動いたのはリカルドだった。  

 豪快な笑みを浮かべ、片手にワインボトルを持った彼は、堂々とクラリスの席へと歩いていく。  

「お嬢さん、お待たせしたな。今宵は宴だ! さあ、クラリス様も一緒に楽しもうぜ!」  

 彼が陽気に声を上げると、周囲のホストや客たちも自然と彼に注目する。  

 リカルドの持ち味は、何よりもその場の空気を一瞬で変えてしまう力だった。  

 先ほどのエルヴィスの優雅なもてなしとは対照的に、彼の接客は明るく、躍動感に満ちている。  

 クラリスはそんな彼を眺めながら、口元に扇を当てて微笑んだ。  

「まあ、あなたの番なのね。どう楽しませてくれるのかしら?」  

「まずは一杯やろうじゃねえか!」  

 リカルドは目の前のワイングラスに、自ら持参したボトルから酒を注ぐ。  

 クラリスのグラスにもなみなみと赤い液体が満たされた。  

「さあ、乾杯といこう!」  

 彼がグラスを掲げると、周囲のホストや客たちもつられるようにグラスを持ち上げた。  

「乾杯!」  

 店内に響き渡る声とともに、グラスがぶつかり合う音が鳴る。  

 クラリスもその勢いに乗せられるように、グラスを傾けた。  

 赤い液体が喉を滑り落ちると、リカルドが満足げに笑う。  

「よし、これでようやく本番だな!」  

 彼はクラリスの隣の席にどっかりと腰を下ろした。  

 普通なら、ホストとしての品位を疑われるような態度だ。  

 だが、彼の堂々とした振る舞いには不思議な説得力があった。  

「エルヴィスのやつは相変わらずキザなセリフばかり並べやがるが、俺は違うぜ。今夜はクラリス様が本当に楽しめる時間を作る。それが俺の流儀だ」  

 そう言うと、リカルドはワインを一口飲み、いたずらっぽく微笑む。  

「なあ、クラリス様。もし今すぐ退屈な貴族の社交界から逃げられるとしたら、どこに行きたい?」  

 その言葉に、クラリスは少し驚いたように目を瞬かせる。  

「逃げる、ですって?」  

「ああ。貴族のパーティーなんて、堅苦しくて退屈だろ?」  

「ふふ、確かにそうね」  

 クラリスは少し考え込むようにしてから、扇を閉じた。  

「そうね…もし今すぐどこへでも行けるなら、広い海を見てみたいかしら」  

 リカルドはその言葉を聞くと、大きく頷いた。  

「いいね! なら、俺が船を用意してやる。今夜のルミナスは、俺の船ってことでどうだ?」  

 そう言うと、リカルドは立ち上がり、周囲を見渡した。  

「よし、みんな! これから俺たちは大海原へ繰り出すぞ!」  

 突然の宣言に、周囲のホストたちは驚いた表情を浮かべる。  

 だが、リカルドの勢いに押されるように、次第に店内の空気が変わっていった。  

「よっしゃ、俺も乗った!」  

「キャプテン・リカルドの船に乗せてもらおうか!」  

 客やホストたちの間に笑いが広がる。  

 リカルドはさらに調子に乗り、即興で「船旅のシナリオ」を作り始めた。  

「さて、俺たちは南の楽園を目指す航海の途中だが…どうやら前方に嵐が迫っているらしい」  

「まあ、大変!」  

「落ち着いてくれ、お嬢さん。俺がいる限り、この船は沈まねえ」  

 リカルドは胸を叩いてみせる。  

「でも、そんな俺にも一つ問題がある。クラリス様、どうやら俺の羅針盤が壊れちまったらしい」  

「まあ、それは困ったわね」  

「そこでだ。クラリス様、俺に道を示してくれ。俺は貴女の行きたい場所へ、この船を導いてみせる」  

 リカルドは真剣な眼差しでクラリスを見つめた。  

 先ほどまでの冗談交じりの態度とは異なり、ほんのわずかだが、彼の言葉には誠実さが滲んでいた。  

 クラリスはしばし黙って彼の言葉を噛みしめ、それから小さく笑った。  

「あなたといると、本当に退屈しないわね」  

「だろ?」  

 リカルドは豪快に笑うと、再びグラスを持ち上げた。  

 場の雰囲気はすっかり彼のものになっていた。  

 店内は彼の話に引き込まれ、まるで本当に船旅の途中にいるかのような錯覚を覚えるほどだった。  

 しかし、クラリスはそこでふっと表情を引き締めた。  

「でもね、リカルド」  

「なんだ?」  

「あなたの話はとても楽しいし、私は今すごく気分がいいわ。でも…もう少し落ち着いた雰囲気も欲しいの」  

 リカルドは一瞬、意外そうな表情を浮かべた。  

「落ち着いた雰囲気?」  

「ええ。あなたといると、まるで嵐の中の船に乗っているみたい。楽しいけれど、時々穏やかな波の上を漂いたくもなるのよ」  

 クラリスの言葉に、リカルドはグラスをくるりと回した。  

「なるほどな…」  

 彼はしばらく考え込むような素振りを見せたが、やがて肩をすくめると、爽やかに笑った。  

「まあ、そういう日もあるか」  

 そう言って、彼は軽くグラスをクラリスに向けた。  

「でも、今夜は俺の流儀で楽しんでもらったぜ」  

「ええ、確かに。楽しかったわ」  

 クラリスは優雅に微笑みながら、彼のグラスに自分のグラスをそっと重ねた。  

 リカルドの接客は、クラリスの心を十分に惹きつけた。  

 だが、それだけでは指名を勝ち取るには至らなかった。  

 そして、次にクラリスが視線を向けたのは――ヴォルフガングだった。  

 貴族令嬢を巡る指名争奪戦は、まだ終わらない。  
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