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裏の牙:影の評議会、再び
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開店を目前に控えたグラン・ルミナスは、外装も内装もほぼ仕上がり、あとは許可証を受け取り、営業開始の鐘を鳴らすだけという段階に入っていた。
だが、その日を目前にして、ひとつ、またひとつと“異常”が発生し始めた。
まず、開店申請の承認が遅れていた。通常なら三日もあれば下りるはずの行政手続きが、十日を過ぎても音沙汰がない。手続きを依頼していた公証人もどこかよそよそしく、問い合わせをすればするほど、役所側の態度が曖昧になる。
「妙すぎるな」レオンは書類を前にして眉をひそめた。「この様子…外部から圧力がかかってる可能性がある」
ヴォルフガングがすぐに調査に動いた。彼にはかつて王都警備隊にいた頃のつながりがあり、行政と裏組織双方の動きに精通している。数日で情報が届いた。
「やはり“影の評議会”が背後にいる。行政にも息のかかった役人が数人いるようだ」
レオンの胸が冷たくなった。かつてノクターンの背後で糸を引いていた存在。グランド・ホスト・カーニバルでの敗北後も、力を完全には失っていなかったのだ。
さらなる問題は続いた。
開業に必要な備品を納入予定だった取引業者から、突然の契約解除が通知された。しかも複数同時に。
「同じタイミングで三社全部だと?」リカルドが書類を机に叩きつけた。「これは偶然じゃねえ。向こうが動いてる」
その裏には、ノクターンの名があった。業者が恐れていたのは、ただの競合ではない。圧力、買収、情報流出――あらゆる手段で、開業そのものを阻もうとしていた。
厨房設備の手配も困難を極めた。新しく導入しようとしていた魔導加熱炉の供給元が契約解除し、ティノは別のルートを探し奔走した。
「このままだと、まともに料理が出せない」ティノは汗だくで帳簿を見つめていた。
「心配するな。昔のツテがまだ生きてる」リカルドがティノの肩を叩いた。「一度海賊やってりゃ、怪しい業者の一人や二人、どうとでもなるさ」
そして決定的な事件が起きた。開店予定日の数日前、店舗宛てに匿名の手紙が届いた。
『開業当日、爆破する』
一行だけの文面。それだけで、現場の空気は凍りついた。
レオンは一瞬言葉を失ったが、すぐに顔を引き締めた。「対応を急ごう。ヴォルフガング、警備体制の強化を」
「既に張ってる。問題は“中”にいる可能性があることだ」ヴォルフガングの声は低く、鋭かった。
店内の魔導結界を再調整し、出入りする業者とスタッフすべてに確認が入る。その中で、シオンとアリアスが独自に不審な点を察知した。
「この作業員、名簿に載っていませんでした」シオンが控えめに報告した。
「話し方も妙でした。王都出身と言っていたのに、口調が北方訛りだった」アリアスが補足する。
二人の報告を受けて、ヴォルフガングが即座に動き、厨房裏の倉庫で“爆破用の魔導罠”を設置しようとしていた人物を拘束した。
それは、ノクターンに雇われた元警備隊員だった。
「ここまで露骨に来たか…」レオンは天井を見上げた。
「もう後戻りはできねぇな」リカルドが背後から言った。「でもさ、だから面白ぇんだろ?」
店の中央に立つレオンの背中は、少しだけ重く、それでも確かな意思をまとっていた。
「……誰にも、この場所は渡さない」
光を灯すということは、それだけ多くの“闇”を引き寄せる。
だがその闇を恐れず進む者だけが、誰かの夜を照らすことができるのだ。
彼らはその覚悟をもって、開業の時を待った。
一歩も引かずに。
だが、その日を目前にして、ひとつ、またひとつと“異常”が発生し始めた。
まず、開店申請の承認が遅れていた。通常なら三日もあれば下りるはずの行政手続きが、十日を過ぎても音沙汰がない。手続きを依頼していた公証人もどこかよそよそしく、問い合わせをすればするほど、役所側の態度が曖昧になる。
「妙すぎるな」レオンは書類を前にして眉をひそめた。「この様子…外部から圧力がかかってる可能性がある」
ヴォルフガングがすぐに調査に動いた。彼にはかつて王都警備隊にいた頃のつながりがあり、行政と裏組織双方の動きに精通している。数日で情報が届いた。
「やはり“影の評議会”が背後にいる。行政にも息のかかった役人が数人いるようだ」
レオンの胸が冷たくなった。かつてノクターンの背後で糸を引いていた存在。グランド・ホスト・カーニバルでの敗北後も、力を完全には失っていなかったのだ。
さらなる問題は続いた。
開業に必要な備品を納入予定だった取引業者から、突然の契約解除が通知された。しかも複数同時に。
「同じタイミングで三社全部だと?」リカルドが書類を机に叩きつけた。「これは偶然じゃねえ。向こうが動いてる」
その裏には、ノクターンの名があった。業者が恐れていたのは、ただの競合ではない。圧力、買収、情報流出――あらゆる手段で、開業そのものを阻もうとしていた。
厨房設備の手配も困難を極めた。新しく導入しようとしていた魔導加熱炉の供給元が契約解除し、ティノは別のルートを探し奔走した。
「このままだと、まともに料理が出せない」ティノは汗だくで帳簿を見つめていた。
「心配するな。昔のツテがまだ生きてる」リカルドがティノの肩を叩いた。「一度海賊やってりゃ、怪しい業者の一人や二人、どうとでもなるさ」
そして決定的な事件が起きた。開店予定日の数日前、店舗宛てに匿名の手紙が届いた。
『開業当日、爆破する』
一行だけの文面。それだけで、現場の空気は凍りついた。
レオンは一瞬言葉を失ったが、すぐに顔を引き締めた。「対応を急ごう。ヴォルフガング、警備体制の強化を」
「既に張ってる。問題は“中”にいる可能性があることだ」ヴォルフガングの声は低く、鋭かった。
店内の魔導結界を再調整し、出入りする業者とスタッフすべてに確認が入る。その中で、シオンとアリアスが独自に不審な点を察知した。
「この作業員、名簿に載っていませんでした」シオンが控えめに報告した。
「話し方も妙でした。王都出身と言っていたのに、口調が北方訛りだった」アリアスが補足する。
二人の報告を受けて、ヴォルフガングが即座に動き、厨房裏の倉庫で“爆破用の魔導罠”を設置しようとしていた人物を拘束した。
それは、ノクターンに雇われた元警備隊員だった。
「ここまで露骨に来たか…」レオンは天井を見上げた。
「もう後戻りはできねぇな」リカルドが背後から言った。「でもさ、だから面白ぇんだろ?」
店の中央に立つレオンの背中は、少しだけ重く、それでも確かな意思をまとっていた。
「……誰にも、この場所は渡さない」
光を灯すということは、それだけ多くの“闇”を引き寄せる。
だがその闇を恐れず進む者だけが、誰かの夜を照らすことができるのだ。
彼らはその覚悟をもって、開業の時を待った。
一歩も引かずに。
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