19 / 37
旧友の助言
「久しぶりだな、奏」
山崎健司は、落ち着いた声でそう言った。奏が法律事務所を訪れるのは初めてではなかった。会社の創業当時から信頼する弁護士であり、彼は尚紀とともに奏を支えてきた一人でもある。
「お久しぶりです、山崎さん」
奏は柔らかく微笑みながら、椅子に腰を下ろした。だが、その笑顔には、かつてのような安堵感だけではなく、明確な目的意識が宿っている。
「どうやら、今日は簡単な相談というわけではなさそうだな」
山崎がそう切り出すと、奏は頷きながらテーブルに資料の束を置いた。
「ええ。これは、今の会社の状況に関する資料です。藤崎さん――藤崎優美のプロジェクトに関するものです」
奏の手元から渡された資料に目を落とし、山崎は丁寧に目を通し始めた。奏は少し緊張した面持ちで、その様子を見守る。
***
「これは……予算の乱用が疑われる内容だな」
山崎は資料をテーブルに並べながら、慎重に言葉を選んで言った。
「ええ。藤崎さんがリーダーとして進めているプロジェクトの予算が、通常の範囲を大きく超えています。現場からも不満の声が上がっています」
「現場の声か。それもあるのか?」
奏はもう一つのファイルを差し出した。それは技術部門や営業部から寄せられた匿名のアンケート結果だった。
「これが社員たちの意見です。『リーダーが現場を見ていない』『非現実的な指示が多い』といった内容が多く含まれています」
山崎は再び資料に目を通し、頷きながら言った。
「なるほど。藤崎氏のリーダーシップには確かに問題がありそうだ。しかも、これだけではなく、尚紀さん……社長がこれを黙認していると?」
「はい。それどころか、藤崎さんを庇っているように見える場面もあります」
奏の声には冷静さが漂っているが、その奥に隠された怒りを、山崎は見逃さなかった。
「奏、君はこれをどうしたい?」
山崎が真剣な眼差しを向けると、奏は少し姿勢を正して答えた。
「優美さんの不正を明確にし、尚紀の経営責任を問いたいと思っています。そして……」
言葉を一瞬切り、彼女は静かに続けた。
「この会社を立て直したい」
その言葉に、山崎は満足げに微笑んだ。
「そのための方法だが……一つ、重要なことを伝えたい」
「重要なこと?」
奏が首を傾げると、山崎は手元のメモに何かを書き込みながら言った。
「君が25%の株式を保有していること。それが君の最大の武器になる」
***
「株式……?」
奏は驚いたように問い返した。山崎は微笑みながら頷く。
「奏、君は創業者として25%の株式を持っている。この割合は、取締役会で動議を提出するために十分な力を持つんだ」
「取締役会……?」
「そうだ。取締役会では、優美氏の不正や尚紀さんの経営責任を議題に上げることができる。必要があれば、彼らの経営適性そのものを問うことも可能だ」
奏は目を見開きながら、山崎の言葉を飲み込んだ。
「私は、その権利を持っている……」
「そうだ。だが、単に権利を行使するだけでは足りない。君が持つ株式には、創業者としての正当性という大きな価値がある。君がこの会社を立ち上げ、ここまで支えてきたという事実。それを改めて周囲に示す必要がある」
山崎の言葉が、奏の中に一筋の光を灯した。復讐の計画が、単なる私的な感情ではなく、正当な行動として形を成していくのを感じた。
***
「取締役会を開くためには、どのような準備が必要ですか?」
奏が問いかけると、山崎は再び資料に目を落とした。
「まずは、優美氏の不正と尚紀氏の問題を裏付ける証拠を揃えることだ。そして、もう一つ重要なのは、他の株主の支持を得ること。特に、桐生志信氏のような影響力のある株主を味方につけるのが最善策だ」
「桐生さん……」
「彼は経営の健全性を重視する人物だ。業績の低下や不正が明らかになれば、間違いなく関心を持つだろう」
奏は頷きながら、その名前を心に刻んだ。これまでの計画が少しずつ形を持ち、進むべき方向が見えてくる。
「まずは証拠を揃え、次に桐生さんに接触する……」
「その通りだ。ただし、慎重に動くことが大前提だ。尚紀さんに気づかれれば計画は破綻する」
山崎の言葉に、奏は力強く頷いた。
***
事務所を出た後、奏は曇り空を見上げた。冷たい風が頬を撫でるが、その感触は心地よかった。
(これで計画の全体像が見えた。次に動くべきは……)
彼女の目には迷いはない。冷静な計算と揺るぎない決意だけが、復讐の道筋を照らしていた。
山崎健司は、落ち着いた声でそう言った。奏が法律事務所を訪れるのは初めてではなかった。会社の創業当時から信頼する弁護士であり、彼は尚紀とともに奏を支えてきた一人でもある。
「お久しぶりです、山崎さん」
奏は柔らかく微笑みながら、椅子に腰を下ろした。だが、その笑顔には、かつてのような安堵感だけではなく、明確な目的意識が宿っている。
「どうやら、今日は簡単な相談というわけではなさそうだな」
山崎がそう切り出すと、奏は頷きながらテーブルに資料の束を置いた。
「ええ。これは、今の会社の状況に関する資料です。藤崎さん――藤崎優美のプロジェクトに関するものです」
奏の手元から渡された資料に目を落とし、山崎は丁寧に目を通し始めた。奏は少し緊張した面持ちで、その様子を見守る。
***
「これは……予算の乱用が疑われる内容だな」
山崎は資料をテーブルに並べながら、慎重に言葉を選んで言った。
「ええ。藤崎さんがリーダーとして進めているプロジェクトの予算が、通常の範囲を大きく超えています。現場からも不満の声が上がっています」
「現場の声か。それもあるのか?」
奏はもう一つのファイルを差し出した。それは技術部門や営業部から寄せられた匿名のアンケート結果だった。
「これが社員たちの意見です。『リーダーが現場を見ていない』『非現実的な指示が多い』といった内容が多く含まれています」
山崎は再び資料に目を通し、頷きながら言った。
「なるほど。藤崎氏のリーダーシップには確かに問題がありそうだ。しかも、これだけではなく、尚紀さん……社長がこれを黙認していると?」
「はい。それどころか、藤崎さんを庇っているように見える場面もあります」
奏の声には冷静さが漂っているが、その奥に隠された怒りを、山崎は見逃さなかった。
「奏、君はこれをどうしたい?」
山崎が真剣な眼差しを向けると、奏は少し姿勢を正して答えた。
「優美さんの不正を明確にし、尚紀の経営責任を問いたいと思っています。そして……」
言葉を一瞬切り、彼女は静かに続けた。
「この会社を立て直したい」
その言葉に、山崎は満足げに微笑んだ。
「そのための方法だが……一つ、重要なことを伝えたい」
「重要なこと?」
奏が首を傾げると、山崎は手元のメモに何かを書き込みながら言った。
「君が25%の株式を保有していること。それが君の最大の武器になる」
***
「株式……?」
奏は驚いたように問い返した。山崎は微笑みながら頷く。
「奏、君は創業者として25%の株式を持っている。この割合は、取締役会で動議を提出するために十分な力を持つんだ」
「取締役会……?」
「そうだ。取締役会では、優美氏の不正や尚紀さんの経営責任を議題に上げることができる。必要があれば、彼らの経営適性そのものを問うことも可能だ」
奏は目を見開きながら、山崎の言葉を飲み込んだ。
「私は、その権利を持っている……」
「そうだ。だが、単に権利を行使するだけでは足りない。君が持つ株式には、創業者としての正当性という大きな価値がある。君がこの会社を立ち上げ、ここまで支えてきたという事実。それを改めて周囲に示す必要がある」
山崎の言葉が、奏の中に一筋の光を灯した。復讐の計画が、単なる私的な感情ではなく、正当な行動として形を成していくのを感じた。
***
「取締役会を開くためには、どのような準備が必要ですか?」
奏が問いかけると、山崎は再び資料に目を落とした。
「まずは、優美氏の不正と尚紀氏の問題を裏付ける証拠を揃えることだ。そして、もう一つ重要なのは、他の株主の支持を得ること。特に、桐生志信氏のような影響力のある株主を味方につけるのが最善策だ」
「桐生さん……」
「彼は経営の健全性を重視する人物だ。業績の低下や不正が明らかになれば、間違いなく関心を持つだろう」
奏は頷きながら、その名前を心に刻んだ。これまでの計画が少しずつ形を持ち、進むべき方向が見えてくる。
「まずは証拠を揃え、次に桐生さんに接触する……」
「その通りだ。ただし、慎重に動くことが大前提だ。尚紀さんに気づかれれば計画は破綻する」
山崎の言葉に、奏は力強く頷いた。
***
事務所を出た後、奏は曇り空を見上げた。冷たい風が頬を撫でるが、その感触は心地よかった。
(これで計画の全体像が見えた。次に動くべきは……)
彼女の目には迷いはない。冷静な計算と揺るぎない決意だけが、復讐の道筋を照らしていた。
あなたにおすすめの小説
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!
秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。
民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。
「おまえたちは許さない」
二度目の人生。
エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。
彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。
1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。
「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」
憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。
二人の偽りの婚約の行く末は……
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇
☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!
みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。
幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、
いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。
そして――年末の舞踏会の夜。
「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」
エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、
王国の均衡は揺らぎ始める。
誇りを捨てず、誠実を貫く娘。
政の闇に挑む父。
陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。
そして――再び立ち上がる若き王女。
――沈黙は逃げではなく、力の証。
公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。
――荘厳で静謐な政略ロマンス。
(本作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載中です)
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。