俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件～転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

こいつのいない昼休みが、こんなに落ち着かないとは

翌朝、悠真は登校しながら大きく伸びをした。

昨日の出来事が頭の隅にこびりついている。

颯斗に抱きしめられ、真剣な目で「逃げるな」と言われたこと。

あの感触も、声の響きも、今になっても思い出すだけで妙に落ち着かない。

（……いや、考えすぎだろ）

一晩経てば、冷静になれると思っていた。

だが、どうにも意識しすぎている自分がいる。

だから、決めた。

今日は颯斗を避ける。

今までどおり普通に接していたら、ますます意識してしまいそうだから。

考える時間がほしい。

自分の気持ちを整理するためにも、少し距離を置くべきだ。

しかし、その決断は開始数時間で早くも揺らぐことになる。

昼休み。

普段なら、颯斗と並んで弁当を広げている時間だ。

だが、今日はわざと席を外し、別のクラスメイトと食べることにした。

「悠真、今日はこっち？」

「ああ、たまにはな」

適当に話を合わせながら、悠真は弁当のフタを開ける。

しかし、落ち着かない。

颯斗が隣にいないだけで、食事のペースが妙に乱れる。

そして、案の定――

「悠真くん、一緒に食べてもいい？」

気づけば、女子たちが集まり始めていた。

「最近、藤崎くんとばっかりだったよね？」

「たまには私たちとも話そうよ」

「あ、これよかったら食べて！」

悠真の机に、差し入れのおかずが次々と並ぶ。

（やっぱりこうなるのか…）

颯斗が隣にいれば、ここまで積極的に話しかけられることはない。

今までどれだけ颯斗に守られていたのか、改めて実感した。

しかし、だからといって今すぐ戻るのも違う気がする。

（まあ、食べ終わったらすぐ教室を出よう）

そう考えながら弁当をつついていると、ふと視線の端に颯斗の姿が映った。

颯斗は、別の男子と普通に話している。

しかも、なんとなく楽しそうに。

その光景を見た瞬間、悠真の箸が止まった。

（……あれ？）

不思議な感覚だった。

悠真が避けているのだから、颯斗が他のやつと話していても当然だ。

それは分かっている。

それなのに――

（なんだ、このモヤモヤは）

誰とでも適当に話せるタイプじゃない颯斗が、ああやって自然に会話しているのが気に入らないのか？

それとも、自分から距離を置いたくせに、颯斗が普通にしていることが気に食わないのか？

（いや、そんなのおかしいだろ）

動揺を隠すように、悠真は箸を口に運ぶ。

しかし、いつもの弁当の味がやけに薄く感じた。

 放課後。

「じゃあな、悠真！」

クラスメイトが帰っていく中、悠真も鞄を肩にかけた。

颯斗はまだ何人かと話している。

このタイミングなら、一人で帰れそうだ。

（よし、さっさと帰るか）

そう思い、校門へ向かう。

だが、歩きながら気づいた。

隣に、颯斗がいない。

今までは、どんなときでも颯斗が隣を歩いていた。

それが、当たり前のようになっていた。

なのに、今は違う。

（……いや、こいつの足音が聞こえないだけで、なんでこんなに落ち着かないんだ？）

自分で距離を取ろうとしているのに、いざ離れてみると妙に落ち着かない。

それどころか、寂しいとすら思ってしまう。

（バカか、俺は）

こんなの、ただの依存だ。

今まで颯斗に頼りすぎていたから、少し離れただけで違和感を覚えているだけだ。

そう自分に言い聞かせながら、悠真は夜の街を一人歩いて帰った。

しかし、その胸のざわつきは、家に帰っても消えることはなかった。