俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始

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元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です

俺、前の人生…社畜で、過労死した

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ベンチに背を預けたまま、悠真は動かなかった。  
手にしていたスマホは、もはや手のひらで熱を失いかけている。  
トーク画面の中、何も書かれていない吹き出しが虚ろに光っていた。

どれくらいそうしていたか分からない。  
風が止み、葉のざわめきも遠ざかったころ、足音がひとつ、静かに近づいてきた。

顔を上げると、そこに颯斗がいた。  
何も言わず、ただ公園の入り口に立っていた。  
遠くから悠真の姿を見つけたのだろう。  
手にはコンビニの袋。軽く口が締められていて、何が入っているのかは分からない。

「……ごめん、連絡もしないで」

言おうとした言葉は、喉に引っかかって音にならなかった。  
代わりに、ほんの少しだけ身体を起こす。  
颯斗は何も言わず、ベンチの横に腰を下ろした。

沈黙が、ふたりの間に降りる。  
でも、それは拒絶ではなく、ただ“待つ”という形の静けさだった。

悠真は目を閉じた。  
呼吸が浅くなるのを自覚しながら、鼻から息を吸って、口で吐く。  
それを何度か繰り返したあと、ほんのわずかに声を絞り出すように言った。

「俺……たぶん、前の人生で、社畜やってて」

颯斗は反応しない。  
まるでその言葉を聞いても驚かないと分かっていたように、目線は夜の街灯に向けられていた。

「朝も夜も分からなくなって、ずっと働いてて……それで、ある日……終わった」

言いながら、思い出す映像があった。  
無機質なビルのなか、無音のオフィス、深夜までついたままの蛍光灯。  
誰もいない廊下、エレベーターの閉まる音、そして無数の未読メール。

誰かに頼られることが誇りだった。  
「助かります」「いつもありがとうございます」  
そう言われることで、自分の存在が確かになる気がしていた。

「死んだときも……たぶん、仕事中だったんだと思う」  
「疲れてて。体が重くて。でもやらなきゃって思ってて……」  
「倒れて、意識がなくなって、気がついたら今の人生だった」

口にするたび、胸の奥に重たく沈んでいたものが少しずつ浮かび上がってきた。  
言葉にすることで、ようやく自分が“それ”を持っていたことに気づける。

「それでも、俺……誰にも迷惑かけなかった。それが、唯一の誇りだった」

膝の上で握りしめた手が、小刻みに震えていた。  
でもそれを隠すような余裕も、見せようとする力も、今の悠真には残っていなかった。

「ありがとうって言われるのが、怖くなかった。むしろ、嬉しかった」  
「“ありがとう”って言われるために、自分が生きてる気がしてた」  
「だから、どれだけ体が壊れてても、止まらなかった」

どこかでそれが異常だと分かっていたはずだった。  
けれど、止まれなかった。止まる理由が見つからなかった。

「今も、ときどき分からなくなるんだ」  
「誰かに頼られると、嬉しくなる。でも、それがまた、“便利な人間”としての延長なんじゃないかって」  
「“俺”というより、“役割”でしか見られてないんじゃないかって」

言葉が、途中で震えた。  
声の奥に、ようやくにじんだのは涙の予兆だった。  
頬を伝うものはまだないけれど、目の奥が熱を帯びて、視界がぼやける。

「……それでも、今の俺が誰かに頼ることができたら、それって、生き直せてるって言えるのかな」

自分に問いかけるように、ぽつりと落ちたその言葉に、  
初めて隣に座っていた颯斗が、ゆっくりと顔を向けた。

「悠真」

名前を呼ばれることが、こんなに静かであたたかいとは思わなかった。  
逃げ場のない自分をまるごと掬うような、その声。

「それでも、今ここにいるんだろ」

そう言って、颯斗はそっと、自分の手のひらを悠真の前に差し出した。  
手を繋ごうとするでもなく、ただ“そこにある”ということを示すように。

「……お前が、言ってくれるまで待とうと思ってた」

悠真はその手を見つめた。  
迷いのあと、そっと自分の手を重ねる。  
指先はまだかすかに震えていたが、それでも、何かが確かに溶けはじめていた。

ようやく、ひとつの言葉が、自分の中から零れ落ちた。

「ありがとう……聞いてくれて」

颯斗はそれに、ただ静かにうなずいた。  
ベンチの上、手と手が触れるその距離だけが、今は何よりあたたかかった。
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