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元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です
前は、ただ流されてただけだった
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日が落ちかけたキャンパスは、夕焼けに照らされてどこか静けさを帯びていた。
三号館の講義棟から流れてくるざわめきも、さっきまでとは違い、ほんの少しだけ熱が抜けていた。
就活セミナーのあとの帰り道。
ああいう場にしては珍しく、実際に企業で働く卒業生の話が中心だったこともあり、会場の空気はリアルだった。
「業界研究」「志望動機」「配属希望」
スライドの一枚一枚が、これからの生活と直結していると、悠真ははじめて肌で感じた。
ネクタイを緩める仕草をして、深く息を吐いた。
身体というより、思考が少しだけ重たくなっている。
横を歩く颯斗は、まだ話を切り出してこない。
けれどその無言が、悠真にはありがたかった。
キャンパスの裏門を抜けて、駅へ向かう坂道を歩く。
まだ通学路には学生がぱらぱらと残っていたが、遠くで話す声や笑い声が、どれも他人事のように聞こえた。
「なあ、颯斗」
坂を半分ほど下ったところで、悠真は立ち止まった。
颯斗もすぐに足を止める。
「俺さ、ようやく“選ぶ”ってことが、分かってきた気がする」
言いながら、悠真は曖昧な笑みを浮かべた。
頬にかかった前髪を指先で払いながら、どこか照れくさそうに笑う。
「今までって……誰かに合わせてるだけだった。
“言われた通りにしてれば怒られない”とか、“正解があるならそれでいい”とか、そんなふうに考えてた」
颯斗は少しだけ目を細めて、相槌も打たずに黙っていた。
悠真はそれを気にすることなく、言葉を続けた。
「でも、さっきの先輩の話、ちょっと響いたんだよね」
「“どんな働き方でも、正解は後からついてくる”ってやつ」
小さく笑って、自分でも驚いているように肩をすくめる。
「俺、自分の人生を“やることリスト”みたいに考えてたのかもな。
就職して、評価されて、給料もらって……死ななきゃ成功、みたいな」
それがどれだけ、前の人生に引きずられていた発想か、今なら分かる。
生きていくことがゴールじゃなくて、“どう生きたいか”を選べるのが今の人生のはずだったのに。
「流されるのに、慣れすぎてたんだよな」
ぽつりと呟いた言葉に、風が重なる。
夕暮れの風が少し冷たくなってきていて、コートの襟を立てる。
「自分で選ぶって、ちょっと怖いけどさ……でも、なんか嬉しい」
言ってから、自分でも驚いたような顔をする。
今までの悠真なら、そんなふうに感じることはなかった。
“選ぶ”ことはリスクで、“間違う”可能性があるというだけで、いつも避けてきたのに。
隣で黙って聞いていた颯斗が、ようやく口を開いた。
「……今、ようやくか」
口調は変わらないが、そこには少しだけ安堵の色があった。
悠真は、くすっと笑った。
「遅いよな。三年の春だぜ? 普通ならもっと早く考えてるよ」
「いいじゃん。考えたってことは、これからちゃんと決められるってことだろ」
その一言に、肩の力が抜ける。
どんな言葉よりも、今の悠真に必要なひとことだった。
「……じゃあ、さ」
言いながら、視線を遠くの住宅街の光へ向ける。
いくつかの部屋の窓に灯りがともっていて、晩ごはんのにおいやテレビの音まで聞こえてきそうだった。
「俺が選ぶ未来に、お前もいてくれたら、もっと怖くなくなると思う」
言葉にしてしまってから、ちょっと恥ずかしくなった。
けれど、顔を背けたりはしなかった。
ようやくこうやって“口にしてもいい”と思えるようになったのだ。
それが、自分の変化だった。
颯斗は何も言わず、ただ隣で歩き出す。
足並みは、自然と悠真に合わせられていた。
それだけで、答えは十分だった。
「明日もまた、なんかセミナーあったよな」
「うん。行ってみようかな。もうちょっと、自分の言葉で考えてみたいし」
いつものような会話の中に、少しだけ未来が混じる。
その小さな変化が、今の悠真にはとても嬉しかった。
春が来ていることを、風が教えてくれた。
自分の意志で歩き出す季節に、ようやく立てた気がしていた。
三号館の講義棟から流れてくるざわめきも、さっきまでとは違い、ほんの少しだけ熱が抜けていた。
就活セミナーのあとの帰り道。
ああいう場にしては珍しく、実際に企業で働く卒業生の話が中心だったこともあり、会場の空気はリアルだった。
「業界研究」「志望動機」「配属希望」
スライドの一枚一枚が、これからの生活と直結していると、悠真ははじめて肌で感じた。
ネクタイを緩める仕草をして、深く息を吐いた。
身体というより、思考が少しだけ重たくなっている。
横を歩く颯斗は、まだ話を切り出してこない。
けれどその無言が、悠真にはありがたかった。
キャンパスの裏門を抜けて、駅へ向かう坂道を歩く。
まだ通学路には学生がぱらぱらと残っていたが、遠くで話す声や笑い声が、どれも他人事のように聞こえた。
「なあ、颯斗」
坂を半分ほど下ったところで、悠真は立ち止まった。
颯斗もすぐに足を止める。
「俺さ、ようやく“選ぶ”ってことが、分かってきた気がする」
言いながら、悠真は曖昧な笑みを浮かべた。
頬にかかった前髪を指先で払いながら、どこか照れくさそうに笑う。
「今までって……誰かに合わせてるだけだった。
“言われた通りにしてれば怒られない”とか、“正解があるならそれでいい”とか、そんなふうに考えてた」
颯斗は少しだけ目を細めて、相槌も打たずに黙っていた。
悠真はそれを気にすることなく、言葉を続けた。
「でも、さっきの先輩の話、ちょっと響いたんだよね」
「“どんな働き方でも、正解は後からついてくる”ってやつ」
小さく笑って、自分でも驚いているように肩をすくめる。
「俺、自分の人生を“やることリスト”みたいに考えてたのかもな。
就職して、評価されて、給料もらって……死ななきゃ成功、みたいな」
それがどれだけ、前の人生に引きずられていた発想か、今なら分かる。
生きていくことがゴールじゃなくて、“どう生きたいか”を選べるのが今の人生のはずだったのに。
「流されるのに、慣れすぎてたんだよな」
ぽつりと呟いた言葉に、風が重なる。
夕暮れの風が少し冷たくなってきていて、コートの襟を立てる。
「自分で選ぶって、ちょっと怖いけどさ……でも、なんか嬉しい」
言ってから、自分でも驚いたような顔をする。
今までの悠真なら、そんなふうに感じることはなかった。
“選ぶ”ことはリスクで、“間違う”可能性があるというだけで、いつも避けてきたのに。
隣で黙って聞いていた颯斗が、ようやく口を開いた。
「……今、ようやくか」
口調は変わらないが、そこには少しだけ安堵の色があった。
悠真は、くすっと笑った。
「遅いよな。三年の春だぜ? 普通ならもっと早く考えてるよ」
「いいじゃん。考えたってことは、これからちゃんと決められるってことだろ」
その一言に、肩の力が抜ける。
どんな言葉よりも、今の悠真に必要なひとことだった。
「……じゃあ、さ」
言いながら、視線を遠くの住宅街の光へ向ける。
いくつかの部屋の窓に灯りがともっていて、晩ごはんのにおいやテレビの音まで聞こえてきそうだった。
「俺が選ぶ未来に、お前もいてくれたら、もっと怖くなくなると思う」
言葉にしてしまってから、ちょっと恥ずかしくなった。
けれど、顔を背けたりはしなかった。
ようやくこうやって“口にしてもいい”と思えるようになったのだ。
それが、自分の変化だった。
颯斗は何も言わず、ただ隣で歩き出す。
足並みは、自然と悠真に合わせられていた。
それだけで、答えは十分だった。
「明日もまた、なんかセミナーあったよな」
「うん。行ってみようかな。もうちょっと、自分の言葉で考えてみたいし」
いつものような会話の中に、少しだけ未来が混じる。
その小さな変化が、今の悠真にはとても嬉しかった。
春が来ていることを、風が教えてくれた。
自分の意志で歩き出す季節に、ようやく立てた気がしていた。
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