龍の無垢、狼の執心~跡取り美少年は侠客の愛を知らない〜

中岡 始

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悠真の思考は計算されている?

広間には未だに重い沈黙が満ちていた。幹部たちは悠真の言葉の意味を測りかね、互いに視線を交わしている。

「争うより儲かる方がええんちゃう?」

さっきまでのほんわかした空気とは違い、その言葉には奇妙な重みがあった。

陣は悠真の横顔をじっと見つめる。

この男は、本気でそう考えているのか。それとも、ただの甘い理想を語っているだけなのか。

悠真は幹部たちの視線を一身に受けながらも、どこ吹く風といった様子で、ゆるく微笑んでいる。その姿は一見すると、ただの世間知らずの坊ちゃんにしか見えなかった。

だが、陣には違うものが見えていた。

「悠真様…今のご発言、本心でございますか?」

思わず口をついた問いに、悠真はちらりと陣を見上げた。

「んー?」

悠真は少し考え込むように目を細め、そして楽しげに笑った。

「まぁ、僕が阿呆やと思われとるんは、悪いことちゃうしな」

幹部たちはその言葉の意味を測りかねたまま、再び沈黙する。

陣の背筋に、冷たいものが走った。

悠真は、分かってやっている。

単なるお坊ちゃんの無邪気な発言ではない。この場にいる誰よりも、状況を理解した上で、あえて天然のように振る舞っている。

(やはり、この方は只者ではない)

陣の中で、確信が生まれた。

「せやけどな」

ふっと悠真が声を落とす。

「辰巳会を守るんは、僕の役目やからね」

さらりと言い放たれた言葉に、幹部たちが一瞬息を呑んだ。

先ほどまでの悠真とは違う。

そこにあるのは、幼さでも甘さでもない。跡取りとしての自覚を持つ者の言葉だった。

陣はその瞬間、悟った。

悠真は、真剣に辰巳会を継ぐ気でいる。

そして、おそらく本人すら意識していないほど、すでに組を動かす器を備えている。

陣は静かに目を閉じた。

(俺のすべきことは、決まった)

それは、ただ悠真を守ることではない。

この男が、辰巳会の頂点に立つまで、決して道を誤らせぬよう導くこと。

悠真が微笑んだまま、ゆっくりと広間を見渡した。

「僕、まだまだ勉強せなあかんこと多いけど…よろしくお願いします」

幹部たちは、すぐには何も言えなかった。

悠真の笑顔の裏に隠されたものが何なのか、まだ誰も理解していなかった。

ただ、陣だけが、その片鱗を垣間見ていた。
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