龍の無垢、狼の執心~跡取り美少年は侠客の愛を知らない〜

中岡 始

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陣、悠真の大学生活を心配しつつ嫉妬する

悠真の姿がキャンパスに現れるだけで、周囲の空気がわずかに変わる。

彼の歩く先にいる学生たちは、さりげなく視線を送る。すれ違いざまにちらりと振り返る者もいれば、遠巻きに見つめる者もいる。

「今日も綺麗やな…」
「まじで顔がいい。もう存在が眼福」
「目が合った、今日一日幸せや」

そんな小さなざわめきが、学内のあちこちでひそやかに交わされていた。

悠真本人は、自分がどれほど注目を浴びているのかをほとんど気にしていない。いや、もしかすると気づいてはいるが、まったく意に介していないのかもしれない。

昼休み、ゼミ棟の廊下で悠真を見つけた一人の男子学生が、軽く手を挙げながら近づいてきた。

「悠真くん、今度飲みに行かへん?」

二つ上の先輩で、ゼミでも社交的なタイプだ。女性陣からの人気も高く、交友関係も広い。

悠真は少し考える素振りを見せ、それから軽く微笑んだ。

「ええよ~」

その返事に、先輩は一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに笑顔を返した。

「ほな、また連絡するわ」

「うん、楽しみにしてる」

そのやりとりを偶然耳にしていた周囲の学生たちは、静かにざわついた。

「え、辰巳くんって普通に飲みとか行くん?」
「あの先輩、よく誘ったな…」
「ずるい、私も誘いたい」

誰もが口には出さないものの、悠真と個人的に親しくなれることに対する羨望が、空気の端々に漂っていた。

しかし、悠真にとってそれは特別なことではなかった。彼は人から誘われれば断らないし、誰にでも変わらぬ態度で接する。それが彼の自然な立ち振る舞いだった。

その日の夜、悠真が本家へ戻ると、いつものように陣が待っていた。

「おかえりなさいませ」

「ただいま、陣さん」

靴を脱ぎながら何気なく口を開く。

「そういえば、ゼミの先輩に飲みに誘われてん」

その瞬間、陣の表情がわずかに変わった。

「……どのような意図で、でしょうか?」

「え?」

悠真は首をかしげる。

「いや、普通にご飯食べてお酒飲むだけちゃう?」

陣は無言のまま、悠真を見つめた。そのまっすぐな視線に、悠真は不思議そうな顔をする。

「んー、普通の先輩やし、何も考えてへんと思うで?」

悠真にとって、それはただの社交の一環でしかない。しかし、陣にとっては、悠真が誰かと親しくすること自体が気にかかる。

悠真はあまりにも無防備だった。

その美貌と立場を考えれば、彼に近づこうとする者の意図を完全に善意だけと捉えるのは危険すぎる。

陣の表情は変わらなかったが、心の中では強い警戒心が渦巻いていた。

「悠真様、それは…危険すぎます」

「えぇ?」

悠真は目を瞬かせる。

「陣さん、僕のこと心配しすぎちゃう?」

柔らかい笑顔でそう言われ、陣は喉の奥に言葉を飲み込んだ。

心配しすぎているのは間違いない。しかし、それを悠真に悟られるわけにはいかなかった。

「いえ、悠真様の安全を守るのが私の役目ですので」

「ふうん」

悠真は納得したような、していないような顔で、軽く肩をすくめた。

陣は、悠真がどこまで理解しているのかを測りかねたまま、彼の背中を見つめていた。
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