8 / 33
六波羅会のスパイが大学に潜入
六波羅会の男は、校内のベンチに腰掛けながら周囲を警戒するように視線を動かした。
名門・関西帝都大学。政治家の子息や大企業の御曹司が集うこの場所に、自分が紛れ込むことになるとは思わなかった。
任務は単純だった。
辰巳会の跡取り――辰巳悠真の動向を探り、交友関係や習慣を把握すること。
「辰巳悠真…写真で見たことあったけど、生で見たらやばいな」
男は遠目に悠真を見つめながら、そう呟いた。
白い肌に、黒曜石のような艶のある髪。涼しげな目元はどこか儚げで、ほんのり微笑んでいるだけで周囲の空気を変えてしまう。
歩くたびに、学生たちの視線が自然と集まるのがわかった。
(あの美貌に、あの雰囲気…こいつ、本当に極道の跡取りか?)
男の中には、事前に聞いていた悠真の印象と実際の姿のギャップが生じていた。
極道の世界に生きる人間とは思えないほど、悠真は穏やかで、人懐っこくさえ見える。
その警戒心のなさを確認し、男は軽く息を吐いた。
(拍子抜けやな…こんなやつが辰巳会の跡取り?)
このまま悠真の懐に入り込むのは、それほど難しくなさそうだった。
そう思い、男は悠真が一人になったタイミングを見計らって、軽く声をかけた。
「辰巳くんやんな?」
悠真がふわりと振り返る。
「ん?」
「俺、〇〇ゼミの大塚っていうねん。前からちょっと話してみたいなぁ思ってたんやけど」
男は自然な笑顔を作りながら、悠真の前に立った。
悠真は、じっと男の顔を見つめた後、ふわりと微笑んだ。
「そっか、僕のこと知ってくれてたんやなぁ。よろしく」
その表情に、一瞬、男の思考が止まる。
写真で見ていた以上に、悠真の雰囲気は人を惹きつけるものがあった。
「君、ええ人やなぁ」
「あ?」
「今度一緒にご飯でも行く?」
あまりにも自然な誘いに、男は一瞬言葉を失った。
(……あかん、この子、警戒心ゼロや)
想定以上に簡単に接触できたことに、逆に困惑する。
(これ、もしかして拍子抜けどころか、簡単すぎひんか?)
しかし、悠真はニコニコとしたまま、まったく疑う素振りを見せない。
「まぁ、そんな難しい話やないし、また気軽に話そ?」
そう言われれば、頷くしかなかった。
だが、男は知らなかった。
悠真がすでに、自分の正体を見抜いていることを。
***
陣は、悠真の大学生活に直接関与することができない。
しかし、それでも彼の動向を見守ることは怠らなかった。
その日、校門近くの路地から悠真の姿を遠くに確認した瞬間、陣の眉がわずかに動いた。
悠真が、見知らぬ男と親しげに話していた。
(……あの男は)
ただの学生には見えない。
服装も仕草も、わずかな違和感を覚える。一般の学生にしては視線の配り方が不自然で、悠真の表情を探るような間合いを取っている。
直感が告げる。
(間違いない。六波羅会の人間や)
悠真は、そんな陣の気配に気づいたのか、ちらりとこちらを見た。そして、わずかに笑うと、男との会話を続けた。
陣は、奥歯を噛み締める。
(悠真様…)
その日の夜、陣は本家に戻った悠真に声をかけた。
「悠真様、今日大学でお話しされていた男ですが」
悠真は、さらりと上着を脱ぎながら振り返る。
「うん?」
「……明らかにおかしい人物でした」
「そやろ?」
陣の眉がわずかに動いた。
悠真は、まったく驚いた様子もなく、むしろ当たり前のことを言われたかのように軽く頷いた。
「僕もそう思ってた」
「……」
陣は言葉を失った。
「でもなぁ、向こうも僕に興味津々みたいやし、ちょうどええやろ」
「悠真様、それは」
「うまく泳がせといたら、そのうち向こうの情報もこっちに流れてくるしな」
悠真は、どこまでも飄々としたまま言う。
陣の胸に、妙な感覚が広がった。
この男は、本当に天然なのか。
それとも、すべて計算ずくで動いているのか。
陣は、静かに息を吐いた。
(……悠真様、本当に只者ではない)
悠真は、自分が標的になっていることを理解した上で、あえて敵を利用しようとしている。
その大胆さと、無邪気さの間にある違和感が、陣の心をざわつかせていた。
名門・関西帝都大学。政治家の子息や大企業の御曹司が集うこの場所に、自分が紛れ込むことになるとは思わなかった。
任務は単純だった。
辰巳会の跡取り――辰巳悠真の動向を探り、交友関係や習慣を把握すること。
「辰巳悠真…写真で見たことあったけど、生で見たらやばいな」
男は遠目に悠真を見つめながら、そう呟いた。
白い肌に、黒曜石のような艶のある髪。涼しげな目元はどこか儚げで、ほんのり微笑んでいるだけで周囲の空気を変えてしまう。
歩くたびに、学生たちの視線が自然と集まるのがわかった。
(あの美貌に、あの雰囲気…こいつ、本当に極道の跡取りか?)
男の中には、事前に聞いていた悠真の印象と実際の姿のギャップが生じていた。
極道の世界に生きる人間とは思えないほど、悠真は穏やかで、人懐っこくさえ見える。
その警戒心のなさを確認し、男は軽く息を吐いた。
(拍子抜けやな…こんなやつが辰巳会の跡取り?)
このまま悠真の懐に入り込むのは、それほど難しくなさそうだった。
そう思い、男は悠真が一人になったタイミングを見計らって、軽く声をかけた。
「辰巳くんやんな?」
悠真がふわりと振り返る。
「ん?」
「俺、〇〇ゼミの大塚っていうねん。前からちょっと話してみたいなぁ思ってたんやけど」
男は自然な笑顔を作りながら、悠真の前に立った。
悠真は、じっと男の顔を見つめた後、ふわりと微笑んだ。
「そっか、僕のこと知ってくれてたんやなぁ。よろしく」
その表情に、一瞬、男の思考が止まる。
写真で見ていた以上に、悠真の雰囲気は人を惹きつけるものがあった。
「君、ええ人やなぁ」
「あ?」
「今度一緒にご飯でも行く?」
あまりにも自然な誘いに、男は一瞬言葉を失った。
(……あかん、この子、警戒心ゼロや)
想定以上に簡単に接触できたことに、逆に困惑する。
(これ、もしかして拍子抜けどころか、簡単すぎひんか?)
しかし、悠真はニコニコとしたまま、まったく疑う素振りを見せない。
「まぁ、そんな難しい話やないし、また気軽に話そ?」
そう言われれば、頷くしかなかった。
だが、男は知らなかった。
悠真がすでに、自分の正体を見抜いていることを。
***
陣は、悠真の大学生活に直接関与することができない。
しかし、それでも彼の動向を見守ることは怠らなかった。
その日、校門近くの路地から悠真の姿を遠くに確認した瞬間、陣の眉がわずかに動いた。
悠真が、見知らぬ男と親しげに話していた。
(……あの男は)
ただの学生には見えない。
服装も仕草も、わずかな違和感を覚える。一般の学生にしては視線の配り方が不自然で、悠真の表情を探るような間合いを取っている。
直感が告げる。
(間違いない。六波羅会の人間や)
悠真は、そんな陣の気配に気づいたのか、ちらりとこちらを見た。そして、わずかに笑うと、男との会話を続けた。
陣は、奥歯を噛み締める。
(悠真様…)
その日の夜、陣は本家に戻った悠真に声をかけた。
「悠真様、今日大学でお話しされていた男ですが」
悠真は、さらりと上着を脱ぎながら振り返る。
「うん?」
「……明らかにおかしい人物でした」
「そやろ?」
陣の眉がわずかに動いた。
悠真は、まったく驚いた様子もなく、むしろ当たり前のことを言われたかのように軽く頷いた。
「僕もそう思ってた」
「……」
陣は言葉を失った。
「でもなぁ、向こうも僕に興味津々みたいやし、ちょうどええやろ」
「悠真様、それは」
「うまく泳がせといたら、そのうち向こうの情報もこっちに流れてくるしな」
悠真は、どこまでも飄々としたまま言う。
陣の胸に、妙な感覚が広がった。
この男は、本当に天然なのか。
それとも、すべて計算ずくで動いているのか。
陣は、静かに息を吐いた。
(……悠真様、本当に只者ではない)
悠真は、自分が標的になっていることを理解した上で、あえて敵を利用しようとしている。
その大胆さと、無邪気さの間にある違和感が、陣の心をざわつかせていた。
あなたにおすすめの小説
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる
衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。
男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。
すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。
選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。
二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。
元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。
転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~
トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。
突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。
有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。
約束の10年後。
俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。
どこからでもかかってこいや!
と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。
そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変?
急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。
慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし!
このまま、俺は、絆されてしまうのか!?
カイタ、エブリスタにも掲載しています。
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。