龍の無垢、狼の執心~跡取り美少年は侠客の愛を知らない〜

中岡 始

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六波羅会、悠真を試す

辰巳会本家の廊下に、慌ただしい足音が響いた。

「悠真坊、ちょっとよろしいですか」

低く押し殺した声でそう言いながら、幹部の一人が部屋のふすまを開ける。

悠真は、書を広げていた手を止め、ゆっくりと顔を上げた。

「どうしたん?」

普段と変わらない調子だったが、幹部の顔を見た途端、目の奥の光がわずかに鋭くなる。

「……何かあった?」

「はい。先ほど、ウチの幹部の一人が襲撃されました」

悠真のまとう空気が、一瞬で変わった。

「……どこで?」

「本町の外れにある金融の事務所です」

「……六波羅会か?」

「おそらく。ですが、妙な点がありましてな」

幹部は苦々しげに続ける。

「襲撃された幹部は、殴られただけで済んどります。命を奪うつもりやったら、もっとえげつない手を使うはずですが」

悠真は、軽く目を伏せた。

「……なるほどな」

「坊ちゃん、どう動きましょ?」

幹部がそう問いかけると、悠真はふっと口角を上げた。

「……そんなん、決まってるやん」

悠真はすぐに立ち上がると、廊下へ出た。

「陣さん、鷹宮さん。ちょっと付き合って」

呼ばれた二人はすぐに動き、悠真の後に続いた。

***

本町の外れにある金融事務所は、辰巳会の資金管理の拠点のひとつだった。

現場に到着すると、事務所の中は荒れていた。机や椅子がひっくり返され、書類が散乱している。

そして、その中央に、血を流しながらも意識のある幹部が横たわっていた。

「……おい、大丈夫か」

鷹宮がすぐに駆け寄り、傷の状態を確認する。

「やられましたわ……けど、まだ生きとります」

痛みに顔を歪めながらも、幹部はなんとか言葉を絞り出した。

「やったのは六波羅の連中や」

「ほうか」

悠真は周囲を見回し、荒れた室内をひとつひとつ観察する。

壁のひび、床に転がる椅子、散乱した紙束。

そのどれにも、悠真はゆっくりと目を走らせた。

やがて、小さく息をつきながら口を開く。

「……これ、六波羅会のやり方ちゃうな」

その言葉に、陣と鷹宮が顔を上げた。

「何が言いたい?」

鷹宮が低く問いかける。

悠真は、倒れている幹部を一瞥し、それから荒れた室内に視線を戻した。

「これ、襲撃いうより、メッセージやな」

「メッセージ……?」

「六波羅は、僕がどう動くか見てるんやと思うで」

静かな言葉が、重く響く。

「もし本気で潰すつもりやったら、この人はもう死んでるやろ」

「……確かに」

陣が小さく頷く。

六波羅会は残忍な手を厭わない。相手を消すなら、一切の痕跡を残さずに処理するのが常だった。

だが、今回の襲撃は、中途半端だった。

「これは試されてるんや」

悠真は、軽く笑いながら言った。

「僕がどう動くか、それを見たいんやろ」

陣は、悠真の言葉を反芻する。

そして思った。

この人は、本当にただの坊ちゃんやろうか、と。
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