龍の無垢、狼の執心~跡取り美少年は侠客の愛を知らない〜

中岡 始

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悠真、六波羅会を逆手に取る

六波羅会の幹部たちは、悠真の動きをじっと見ていた。

「……それで、話いうのは何や?」

一人の男が口を開く。

「辰巳会の跡取りが、自ら乗り込んできたんや。よっぽど自信があるんやろ?」

「さあ、どうやろな」

悠真はふわりと笑いながら、ソファに深く腰を落ち着けた。

「せやけど、僕はただ確認しに来ただけや」

「確認?」

「六波羅会が辰巳会を攻めることで、何を得ようとしてるんか。それを知りたかったんや」

幹部たちは顔を見合わせた。

「……ほう。お前さん、それを聞いてどうするつもりや?」

「どうもしないよ。ただ、気になっただけ」

悠真の言葉に、幹部の一人が鼻で笑う。

「ずいぶん呑気やな。こっちはな、辰巳会を削りに来とんのや。お前みたいな坊ちゃんが出てきたところで、止まるもんやない」

「そうかもしれんな」

悠真は、ちらりと陣を見た。

「けどな。そっちもこのままやと、ただでは済まんやろ?」

幹部の表情が僅かに変わる。

「……ほう?」

「辰巳会のシマを削るいうことは、当然こっちも黙って見てるわけにはいかん。つまり、戦になる」

悠真は、カップに入ったままの酒を指先で軽く回した。

「そっちの戦力がどんだけあるかは知らんけど、ウチと真正面からやり合って、どっちが勝つと思う?」

「脅しか?」

幹部の一人が静かに問う。

「ちゃうよ」

悠真は、軽く笑う。

「僕、辰巳会が勝つと思ってるだけや」

相手を挑発するような口調ではなく、事実を淡々と述べるような調子だった。

だが、その言葉には妙な説得力があった。

「お前、ずいぶん自信があるんやな」

「そらそうやろ。僕は辰巳会の跡取りやもん」

幹部たちは、再び顔を見合わせた。

悠真が最初に部屋へ入ってきたとき、彼らはただのボンボンが無謀なことをしに来たのだと思っていた。

だが、話を進めるうちに、悠真が本当に「何も考えていない坊ちゃん」なのかどうか、彼らは疑問を抱き始めていた。

悠真は、静かに続ける。

「せやけど、僕は別に、ここで喧嘩したいわけやない」

「……なら、どうしたいんや」

「単純な話や」

悠真は、カップの中の酒を軽く揺らしながら言った。

「そっちは辰巳会のシマに手を出さへん。そしたら、辰巳会も手を出さへん」

「……それは、取引のつもりか?」

「そうやな」

悠真は頷く。

「どっちも大損せえへん方法を選ぶ方が、合理的ちゃう?」

幹部たちは沈黙した。

「……ふん」

しばらくの間を置いて、誰かが鼻を鳴らした。

「おもろいやっちゃな、お前」

「ありがと」

「けどな……お前、本当にボンボンか?」

「さあ、どうやろ」

悠真は、ふっと微笑んだ。

陣は、その姿を黙って見つめていた。

「悠真様……」

この人は、やはりただの坊ちゃんではない。

陣は、そう確信せざるを得なかった。
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