龍の無垢、狼の執心~跡取り美少年は侠客の愛を知らない〜

中岡 始

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暗殺未遂、悠真の危機

夜の静寂を破るように、乾いた銃声が響いた。

「伏せてください!」

陣の鋭い声と同時に、悠真の体が強く引かれる。

車のドアを開けた瞬間だった。

前方の交差点に、黒塗りのバンが二台、突如として横付けされる。ヘッドライトが煌々と照らし出す中、数人の男たちが素早く降りてきた。手には刃物と拳銃。

これはただの威嚇ではない。悠真を確実に仕留めるための襲撃。

「陣さん」

悠真が声を上げるのと同時に、二発目の銃声が響いた。

陣がすかさず悠真の前に立ち、その肩を強く押し倒す。

耳元をかすめるように、銃弾が車体を貫いた。

しかし、直後に小さな鈍い音が響いた。

「……っ」

陣の肩口に、赤黒い染みが広がる。

「陣さん、撃たれた?」

「大丈夫です」

陣は、そう言いながらも素早く懐から銃を取り出し、相手の動きを牽制する。

護衛の一人が即座に車の影に隠れながら応戦を開始するが、相手はそれを見越していたかのように巧妙に動く。

悠真は地面に手をつきながら、視線を巡らせた。

このまま守りに入れば、包囲される。

逃げる? それとも、ここで決着をつける?

悠真の表情から、いつもの天然な雰囲気が消えた。

「陣さん、動ける?」

「問題ありません」

陣は即答するが、その声には微かな痛みがにじむ。

悠真は、一瞬だけ考え、そしてふっと口角を上げた。

「ほな、三秒で片付けよか」

「……了解しました」

陣がわずかに目を見開いたが、すぐに表情を引き締める。

悠真の号令と同時に、辰巳会の護衛たちが一斉に動いた。

銃声が夜の闇に響く。

悠真は冷静に状況を見極めながら、車の反対側へと身を滑らせる。

刃物を持った男が、機を逃さず悠真に向かって突進してくる。

「坊ちゃん、動くなよ」

凶悪な笑みを浮かべながら、男がナイフを突き出した。

悠真は、それを寸前で見極めると、わずかに体を傾ける。

ナイフが頬をかすめる。

直後、悠真は踏み込んだ。

刃を振るう男の腕を掴み、すかさず膝で脇腹を打ち抜く。

「ぐっ…!」

男の体が揺らいだ瞬間、その腕を蹴り上げ、ナイフを地面に落とさせる。

無駄な動きは、一切なかった。

悠真は、すぐに視線を前方へと向けた。

銃を持った襲撃者たちは、すでに護衛たちによって制圧されつつあった。

たった数十秒。

それだけで、戦況は一変した。

悠真は、何事もなかったかのように、ゆっくりと息を吐く。

「終わった?」

護衛の一人が相手の動きを確認しながら頷いた。

「……片付きました」

悠真は、無言で陣の方を見た。

陣の肩口にはまだ血が滲んでいるが、表情は崩さない。

「悠真様、ご無事ですか?」

「うん。けど、陣さんが怪我してるやん」

悠真の目が、ゆっくりと細められる。

先ほどまでのどこか飄々とした雰囲気は、完全に消えていた。

そして、ほんの一瞬だけ、冷たい光が瞳の奥に宿る。

「……僕を狙うんはええけど、陣さん傷つけたんは許されへんで」

その言葉に、周囲の護衛たちが一瞬息を呑んだ。

悠真の怒り。

それは、荒々しく爆発するものではなく、底冷えするような静けさをまとっていた。

倒れ込む襲撃者を見下ろしながら、悠真は淡々と呟く。

「六波羅会に伝えといて。次はないで」

血に濡れた路上で、悠真の言葉だけが、ひどく冷たく響いた。
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