ビストロ・ルナとねこ又亭〜月下の洋食店と、路地裏の居酒屋〜

中岡 始

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第7話:ルナ、箱送りされる!?

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 夜のねこ又亭は、いつにも増して賑やかだった。
 マタタビ酒の香りが漂い、猫たちは上機嫌で杯を交わしている。

 「いやぁ~、今日もいい酒だ!」
 陽気なブチ猫、マルコが豪快に笑いながら盃を傾ける。

 その隣には、一匹の白猫がいた。
 ビストロ・ルナの店主、ルナ。

 「……まったく、どうして俺がこんなところに」

 ルナは不機嫌そうに尻尾を揺らした。

 「細かいことは気にするなって! たまには飲めよ、シェフ!」

 マルコがルナの盃にマタタビ酒を注ぐ。
 ルナは渋々、一口飲んだ。

 (……まぁ、悪くはない)

 最近は、マタタビ酒の味も少しずつ理解できるようになってきた。
 とはいえ、ねこ又亭の猫たちのように、豪快に飲むつもりはない。

 「俺はワインのほうが——」

 「おっしゃ、もう一杯!」

 「ちょっ、おい!」

 マルコの勢いに押され、ルナの盃はどんどん満たされる。
 やがて、酔いがじんわりと回り始め——

 気づけば、ルナの世界はぐるぐると回り始めていた。

 「……ん?」

 ルナはぼんやりと目を開けた。

 ……暗い。

 そして、妙に狭い。

 「……?」

 自分の体を動かそうとするが、四方が囲まれていて動けない。
 どうやら、何かの中に入れられているらしい。

 (まさか……)

 嫌な予感がしたその瞬間——

 「お届け物入りまーす!」

 軽快な声とともに、ゴトンッと揺れた。

 「おい、待て! これは一体——」

 ズルズルズル……

 箱が引きずられる音がする。
 ルナはようやく自分の状況を理解した。

 ——俺、箱送りされてる!?

 「ちょっ、やめろ! 俺はそんなに酔ってない!」

 「おぉ、また一匹送り出されるか~」

 遠くからトラ吉の呑気な声が聞こえる。

 「違う! 俺はビストロの店主だぞ!?」

 「箱の中じゃ、みんなただの酔っ払いだ」

 クロの冷静な声が響いた。

 ——こうして、ビストロ・ルナの店主は、人生初の「箱送り」を経験することとなった。

 「……うぅ」

 ルナは頭を抱えながら、ゆっくりと目を開けた。

 (……ここは……?)

 天井を見上げると、見覚えのあるシャンデリアが輝いている。
 綺麗に整えられたテーブルと椅子。
 深いボルドー色のテーブルクロス。

 ——自分のビストロのホールだった。

 「……どうして俺の店に?」

 混乱するルナの視界に、二匹の猫が映る。

 黒猫のクロと、キジトラのトラ吉だ。
 彼らは、ルナの目の前に座り、ニヤニヤとこちらを見下ろしていた。

 「……ようこそ、箱送りの世界へ」

 クロが淡々と言う。

 「初の箱送り、どうだったよ?」

 トラ吉が愉快そうに笑う。

 「……最悪だ」

 ルナは頭を抱えた。

 マタタビ酒のせいで、頭がガンガンする。
 口の中も乾いている。

 「……これは、いわゆる二日酔いか」

 クロが静かに湯気の立つ盃を差し出した。

 「飲め。二日酔いにはマタタビ茶が効く」

 「……遠慮しておく」

 ルナはそっぽを向いたが、
 喉がカラカラだったので、結局それを受け取った。

 ふわりと香るマタタビの優しい香り。

 (……意外と悪くない)

 ルナは、静かに一口飲んだ。

 しばらくして、ルナはようやく頭がスッキリしてきた。

 「……ねこ又亭の猫たちは、こんなものを常習的に経験してるのか?」

 「まぁな」

 クロが淡々と頷く。

 「特にトラ吉なんかは、何度も箱送りされてるしな」

 「おいおい、それは言うなって!」

 トラ吉が苦笑いしながら頭をかいた。

 ルナは、深いため息をついた。

 (……まったく、信じられん)

 しかし——

 (……いや、そうでもないか)

 ねこ又亭での時間を思い出す。
 みんなが、気楽に酒を飲み、語り合い、笑っていた空間。

 それは、自分のビストロにはない雰囲気だった。

 ルナは、ゆっくりとマタタビ茶を飲みながら、ぼそっと呟いた。

 「……箱送りなんて、もう二度とごめんだ」

 「おっと、それはフラグだぜ?」

 トラ吉がニヤリと笑った。

 「次に飲みすぎたときは、また箱送りだからな!」

 「……絶対に飲みすぎない」

 ルナは心に誓った——。
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