転生しても推しが尊い!〜京橋くんとの学園ライフが尊死案件〜オタクでよかった、君に出会えたから

中岡 始

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その詩を、誰かが読んでいた

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展示教室に差し込む昼下がりの光は、もう午後のやわらかさを帯びていた。  
文化祭の来場者で混み合う廊下とは対照的に、教室内には静けさが満ちていた。  
足を止める人々が、言葉もなく絵を見つめ、詩を読んでいた。

朗読タイム。  
紬の声が、展示の一角に設けられた簡易ステージのマイクから優しく響いていた。  
まるで空気の層にふわりと乗るようにして、静かに、確かに届いてくる。

「剣を置いたその人は、静かに笑った。  
それは、戦いのあとに知る“愛”の形だった」

その瞬間、教室内の空気が変わった。  
騒がしさがすっと引き、ざわめきが波のように遠ざかっていく。

数秒の沈黙。  
誰もが何かを思い、けれど口には出せずに、ただ、立ち尽くしていた。

その詩が誰のものなのか、名乗る人はいない。  
だが、絵と詩がつながっていることに気づいた者は、決して少なくなかった。

「あの絵の騎士…」  
「この詩、なんか重なるよね。雰囲気とか、目の表情とか」

ささやき声が、教室のあちらこちらからこぼれる。  
一部の生徒が顔を見合わせ、展示中央に掲げられた騎士の絵と、今読まれた詩とを見比べていた。

騎士は、静かに剣を下ろしている。  
戦いを終えたばかりのような疲労と、それを越えた安堵が、瞳と口元ににじんでいる。  
そして、その横に記された詩の文字――あまりに自然で、まるでその絵のために書かれたようだった。

悠翔は、ちょうどその絵の前に立っていた。  
だが、朗読の声が教室に響いたその瞬間、彼は体を小さくすくませた。

心臓が跳ねた。  
あまりに強く鼓動が響いて、自分の内側でしか聞こえないはずの音が、周囲にも聞こえてしまいそうだった。

手の中で、パンフレットの角を握る指先が白くなる。  
それでも顔は上げられなかった。  
視線を落とし、絵を、そして詩を見ないようにした。  
だが、言葉は耳の奥に焼きついて、消えなかった。

「剣を置いたその人は、静かに笑った」

あの詩は、自分が書いたものだった。  
誰にも見られたくなくて、けれど誰かに届いてほしくて、  
匿名で「星に願いをBOX」に入れた、たった一枚の星型カード。

気づけば、目の奥がじんと熱くなっていた。

「これが、“推し”じゃなくて、“誰か”に向けた言葉だったとしたら…  
俺はもう、戻れないところまで来てるのかもしれない」

心の中で、静かに呟いた。

この詩を書いたとき、自分は“レオ様”を思い浮かべていた。  
はずだった。

でも、本当は、京橋くんの笑顔が浮かんでいた。  
ノートに描いた横顔。  
図書室で名前を呼ばれたあの瞬間。  
昼休みに差し出されたコンビニ袋。  
それらが心に積もって、この言葉になった。

戦いを終えた騎士。  
その笑顔は、誰かのためのものだった。  
そして、今の自分が描いた騎士の笑顔は――誰のためのものだったのだろう。

もう、どこにも逃げ場はなかった。  
言葉にしてしまったから。  
世界に放ってしまったから。

それは、レオ様にではなく、京橋くんに向けたものだったと、自分が一番よく知っている。

誰かに届いてしまったこの詩。  
それが、いつか彼の耳に入ったらどうしよう。  
そんな不安と同時に、それでも「わかってほしい」と願ってしまう自分がいる。

朗読が終わり、拍手が起こる。  
柔らかく、遠慮がちな拍手。  
でも、そこには確かな感情が宿っていた。

悠翔は、まだ絵を見れなかった。  
視線を地面に落としたまま、拍手に包まれる空気の中に立ち尽くしていた。

胸の奥が痛い。  
けれどその痛みは、過去の喪失とは違っていた。  
何かを失った痛みではなく、何かが“芽生えてしまった”痛みだった。

絵の中の騎士は、今もなお静かに微笑んでいる。  
その笑顔が、誰かを想っているように見えるのは――  
きっと、そこに込められた感情が、本物だったからだ。
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