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先生は知っている、影で“燃えないように”してたこと
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保健室の窓際には、西陽が斜めに差し込んでいた。
やや開いたブラインドの隙間から、光が棚や机の角を金色に染めている。
カーテンの奥では、悠翔がタオルケットにくるまり、じっと身を沈めている。
鶴見佳世は、その隣の椅子に座っていた。
スマホを片手に、小さく息を吐きながら画面をスクロールする。
指先の動きは静かだが、目の奥は鋭さを秘めていた。
――タグが荒れている。
なにスタのタイムライン。
#きょゆう
#推しのプライバシー
#風紀違反かも
過激なワードが踊っている。
画像付きの投稿、過度な妄想と決めつけ。
そして、あからさまに悠翔を暗喩する文章もあった。
鶴見は、何も言わずにスクショを保存する。
証拠を残すのは基本だ。
この世界では、記録しておかないと、声の大きいほうが正義になってしまうことがある。
「まったく…また燃えやすい素材を投下しちゃったわね、あの子」
呟く声は苦笑まじりだが、その瞳には憤りが揺れていた。
教師としてではない。
もっと個人的な、ひとりの“元オタク”としての怒りだった。
かつて、自分も書いていた。
誰にも読まれなくても、夜な夜なSSをアップして、感情を物語にして、
携帯の小さな画面に「いいね」がひとつつくだけで、生きる意味を感じていた。
「表現ってさ、感じる人によって形を変えるんだよね。
でも、誰かの心がこもってるなら、踏みつけちゃいけないんだよ」
呟いたその言葉に、昔の自分の姿が重なる。
ギャル文字で書いた夢小説、深夜のチャット部屋、
あの頃の自分が「こうでありたかった大人」に、今ようやくなれている気がした。
スマホの画面を切り替える。
別アカウントにログインする。
ユーザーネームは「恋愛見守り係・つるみん」。
鶴見が密かに管理している、学園非公式SNS・なにスタの“空気調整アカ”。
恋愛系のタグが炎上しそうなときは、
やんわりと話題をずらしたり、詩を挟んだり、フォロー投稿を投下する。
直接対立させないこと、熱量を分散させることが火消しの基本。
スレッドに滑り込ませるように、一文を投稿する。
「人を好きになる気持ちが、誰かの心を支えていたなら。
その気持ちは、誰にも否定できないはずです」
時間は17時14分。
このタイミングなら、帰宅途中のスマホ勢の目に入る。
たったひとつの投稿で世界が変わるわけじゃない。
でも、誰かひとりの呼吸が、少しでも楽になるなら。
スマホを伏せると、鶴見はゆっくり立ち上がった。
カーテン越しに、ベッドの上の膨らみを見つめる。
タオルケットの端が少し動いた。
きっと、あの子も何かを受け取ったのだろう。
「悠翔くん」
カーテンを開けずに、名前だけを呼ぶ。
返事はない。
けれど、その沈黙は、きっと“拒絶”ではなかった。
「言葉って、便利なようで不便だよね。
ほんとは、もっと単純に、“好き”って言いたいだけなのにさ」
鶴見は微笑んだ。
スマホを白衣のポケットにしまいながら、静かに背を向ける。
教室ではなく、廊下でもなく、
この保健室だけが“恋の応急処置室”である理由。
それは、誰もがここでだけは、素直になれるからだ。
過剰でも、未熟でも、痛みを含んでも、
青春の感情は、ここではいつだって“生きていていい”。
鶴見の目が、またスマホの画面を捉える。
一件、通知が光る。
「…あら。推しの恋に新展開?」
苦笑しながらも、その指先はすでに、次の手を打ち始めていた。
燃えそうな感情の隣で、そっと風を送るように。
“恋”を否定させないために。
“創作”が、誰かの心を壊さないように。
やや開いたブラインドの隙間から、光が棚や机の角を金色に染めている。
カーテンの奥では、悠翔がタオルケットにくるまり、じっと身を沈めている。
鶴見佳世は、その隣の椅子に座っていた。
スマホを片手に、小さく息を吐きながら画面をスクロールする。
指先の動きは静かだが、目の奥は鋭さを秘めていた。
――タグが荒れている。
なにスタのタイムライン。
#きょゆう
#推しのプライバシー
#風紀違反かも
過激なワードが踊っている。
画像付きの投稿、過度な妄想と決めつけ。
そして、あからさまに悠翔を暗喩する文章もあった。
鶴見は、何も言わずにスクショを保存する。
証拠を残すのは基本だ。
この世界では、記録しておかないと、声の大きいほうが正義になってしまうことがある。
「まったく…また燃えやすい素材を投下しちゃったわね、あの子」
呟く声は苦笑まじりだが、その瞳には憤りが揺れていた。
教師としてではない。
もっと個人的な、ひとりの“元オタク”としての怒りだった。
かつて、自分も書いていた。
誰にも読まれなくても、夜な夜なSSをアップして、感情を物語にして、
携帯の小さな画面に「いいね」がひとつつくだけで、生きる意味を感じていた。
「表現ってさ、感じる人によって形を変えるんだよね。
でも、誰かの心がこもってるなら、踏みつけちゃいけないんだよ」
呟いたその言葉に、昔の自分の姿が重なる。
ギャル文字で書いた夢小説、深夜のチャット部屋、
あの頃の自分が「こうでありたかった大人」に、今ようやくなれている気がした。
スマホの画面を切り替える。
別アカウントにログインする。
ユーザーネームは「恋愛見守り係・つるみん」。
鶴見が密かに管理している、学園非公式SNS・なにスタの“空気調整アカ”。
恋愛系のタグが炎上しそうなときは、
やんわりと話題をずらしたり、詩を挟んだり、フォロー投稿を投下する。
直接対立させないこと、熱量を分散させることが火消しの基本。
スレッドに滑り込ませるように、一文を投稿する。
「人を好きになる気持ちが、誰かの心を支えていたなら。
その気持ちは、誰にも否定できないはずです」
時間は17時14分。
このタイミングなら、帰宅途中のスマホ勢の目に入る。
たったひとつの投稿で世界が変わるわけじゃない。
でも、誰かひとりの呼吸が、少しでも楽になるなら。
スマホを伏せると、鶴見はゆっくり立ち上がった。
カーテン越しに、ベッドの上の膨らみを見つめる。
タオルケットの端が少し動いた。
きっと、あの子も何かを受け取ったのだろう。
「悠翔くん」
カーテンを開けずに、名前だけを呼ぶ。
返事はない。
けれど、その沈黙は、きっと“拒絶”ではなかった。
「言葉って、便利なようで不便だよね。
ほんとは、もっと単純に、“好き”って言いたいだけなのにさ」
鶴見は微笑んだ。
スマホを白衣のポケットにしまいながら、静かに背を向ける。
教室ではなく、廊下でもなく、
この保健室だけが“恋の応急処置室”である理由。
それは、誰もがここでだけは、素直になれるからだ。
過剰でも、未熟でも、痛みを含んでも、
青春の感情は、ここではいつだって“生きていていい”。
鶴見の目が、またスマホの画面を捉える。
一件、通知が光る。
「…あら。推しの恋に新展開?」
苦笑しながらも、その指先はすでに、次の手を打ち始めていた。
燃えそうな感情の隣で、そっと風を送るように。
“恋”を否定させないために。
“創作”が、誰かの心を壊さないように。
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