美形すぎるルームメイトが俺を甘やかしてくる件について~圧倒的顔面モデル×元ぼっち大学生――“ルームシェア”から始まる、ふたり暮らしの恋育ラブ

中岡 始

文字の大きさ
18 / 29

しむ姐の一言が、胸に刺さった

しおりを挟む
朝の空気はもう夏そのもので、カフェのガラス戸を開けた瞬間、じんわりとした熱が押し寄せてきた。

久しぶりのバイト復帰日。  
体調は、まあまあ。頭も身体も動くには動く。  
けれど、気分は明らかに重たかった。

「真田、グラスそっちじゃない。ワイングラスはこっち、ロックグラスは向こう」

しむ姐の声に、陸はぼんやりと手を止めた。

「……ああ、すみません」

慌ててグラスを持ち直そうとして、ひとつを落としかける。  
とっさにキャッチできたが、ガチャリという音が思ったより響いて、店内が静まり返った気がした。

「ちょっと!今日もまだフワフワしてるじゃないの。風邪、治ったんでしょ?」

「……うん、もう大丈夫っす」

口ではそう言ったものの、声音に覇気がないのは自分でも分かった。  
しむ姐は眉をひそめて、じっとこちらを見てきた。

「ウソつけ。目が死んでる」

図星だった。  
無理に笑ってみせたが、それはただのごまかしだった。

開店準備を終え、ランチタイムのピークも過ぎた頃。  
スタッフが交代で休憩に入る時間。  
しむ姐が「こっち来な」と言って、裏手の倉庫スペースに連れて行かれた。

涼しくはないが、外よりはマシな空間。  
プラスチックのベンチに腰を下ろし、自販機のジュースを手渡された。

「熱は?もう平気?」

「はい、たぶん……」

「“たぶん”じゃない。まあ、顔色は少しマシになったけど」

しむ姐は、缶コーヒーのプルトップを開けながら視線を外さない。  
そんな中、陸は缶を握ったまま、ぽつりとつぶやいた。

「……同居人と、ちょっと揉めたんすよ」

「へえ。恋愛系?」

一拍置いて、陸は黙る。  
逃げるようにジュースを飲み、視線を外す。

「……いや、まあ……うん」

「で、相手のこと“好き”なんでしょ?」

ズバリ言われて、喉が詰まりそうになった。  
急いで飲み込んで、少しだけ息を吐く。

「……違…う、って言いきれねぇから、困ってんだよ」

「なるほどねえ」

しむ姐は肘を膝につき、コーヒー缶を揺らしながら言った。

「こじらせてるねぇ、真田くん。けどさ」

少し間を置いて、目を細める。

「逃げることが、幸せを遠ざけてんのよ」

陸は言葉を失った。  
しむ姐の目が、冗談じゃなくて本気だったから。

「言われたのが怖かったんじゃない。受け取るのが怖かっただけでしょ?  
“好き”って言われて、それをもらったら、自分も返さなきゃって思って……」

缶をひと口飲んで、しむ姐はゆっくりと続けた。

「でも、怖いからって黙ってたら、相手も黙っちゃう。  
そのうち、隣からいなくなるよ」

言葉のひとつひとつが、胸に突き刺さった。  
反論できるはずだった。  
でも、口は開かなかった。

逃げてばっかだったの、俺か……  
怖いって言い訳して、踏み出すのやめてたの、ずっと俺だったんだ。

それでも、あいつは向き合おうとしてくれてた。  
言葉で伝えようとしてくれた。

……それを、拒んだのは自分だ。

缶を置いて立ち上がろうとしたとき、しむ姐が軽く肩を叩いてきた。

「ほら、もう一杯くらいは、自分から注ぎに行きな」

陸は目を伏せて、わずかにうなずいた。

夕暮れの光が、倉庫の窓をぼんやりと染めていた。  
その淡い光の中で、陸の背中がほんの少しだけ、まっすぐになった気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。

天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!? 学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。 ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。 智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。 「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」 無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。 住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!

【完結】アイドルは親友への片思いを卒業し、イケメン俳優に溺愛され本当の笑顔になる <TOMARIGIシリーズ>

はなたろう
BL
TOMARIGIシリーズ② 人気アイドル、片倉理久は、同じグループの伊勢に片思いしている。高校生の頃に事務所に入所してからずっと、2人で切磋琢磨し念願のデビュー。苦楽を共にしたが、いつしか友情以上になっていった。 そんな伊勢は、マネージャーの湊とラブラブで、幸せを喜んであげたいが複雑で苦しい毎日。 そんなとき、俳優の桐生が現れる。飄々とした桐生の存在に戸惑いながらも、片倉は次第に彼の魅力に引き寄せられていく。 友情と恋心の狭間で揺れる心――片倉は新しい関係に踏み出せるのか。 人気アイドル<TOMARIGI>シリーズ新章、開幕!

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

俺の幼馴染が陽キャのくせに重すぎる!

佐倉海斗
BL
 十七歳の高校三年生の春、少年、葉山葵は恋をしていた。  相手は幼馴染の杉田律だ。  ……この恋は障害が多すぎる。  律は高校で一番の人気者だった。その為、今日も律の周りには大勢の生徒が集まっている。人見知りで人混みが苦手な葵は、幼馴染だからとその中に入っていくことができず、友人二人と昨日見たばかりのアニメの話で盛り上がっていた。 ※三人称の全年齢BLです※

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

きっと世界は美しい

木原あざみ
BL
人気者美形×根暗。自分に自信のないトラウマ持ちがはじめての恋に四苦八苦する話です。 ** 本当に幼いころ、世界は優しく正しいのだと信じていた。けれど、それはただの幻想だ。世界は不平等で、こんなにも息苦しい。 それなのに、世界の中心で笑っているような男に恋をしてしまった……というような話です。 大学生同士。リア充美形と根暗くんがアパートのお隣さんになったことで始まる恋の話。少しでも楽しんでいただければ嬉しいです。

処理中です...