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ヨレヨレ課長とエリート部下、出張先でも恋人しています
そろそろ、飯行くか
パソコンの蓋を閉じる音が、部屋に微かな余韻を残した。
「……そろそろ、飯行くか」
榊の声は、いつもどおり飾り気がない。
「ですねっ」
陽翔は弾かれるように立ち上がった。
思っていた以上に声が張ってしまい、自分で驚いた。
無理やり抑えようとして、咳払いでごまかす。
手早く資料を重ねてファイルにしまいながら、スーツの上着を手に取る。
シャツの皺を気にして軽く胸元を撫で、鏡の前でネクタイを軽く直した。
ベッドの端で背伸びをしていた榊が、片手を上げて大きくのびをする。
「なんや、お前、テンション高いな」
「そうですか?」
「うん。なんか動き早いわ」
「……いえ、そんなつもりは」
陽翔はごまかすように苦笑いを浮かべたが、内心ではもう何度目かのツッコミを入れていた。
(高くないです。むしろ、平常心崩壊しかけてます)
さっきまでの資料整理中、何度肩が触れたか。
何回、声がくぐもったか。
榊の横顔を直視できず、目の端でこっそり盗み見るばかりだった。
榊は、まったく意識していない――はず。
それがまた、どうしようもなくくすぐったい。
「ほな、行こか」
榊が軽く腰を上げると、ベッドがふっと沈む音がした。
スラックスの裾を直しながら、ふたりはほぼ同時に玄関へ向かう。
ドアの前で陽翔が「鍵、持ちました?」と聞くと、
榊は「ああ」とだけ言ってポケットを叩いた。
ほんの一瞬の会話。
なのに、そのあいだの沈黙が妙に長く感じられる。
重ならないはずの呼吸が、なぜか同じタイミングで吸って、吐いた。
(この空気、なんだろう)
まだ何も起きていない。
けれど、起きそうな何かが、すでに部屋の隅に忍び込んでいるようだった。
陽翔はドアノブに手をかけながら、背中で一度深呼吸をする。
それを見ていた榊が、なんでもなさそうに笑った。
「……飯の前にそんな気合い入れんでもええやろ」
「いや、気合いとかじゃないです」
「ふーん」
榊は先に廊下へ出た。
その背中を見送りながら、陽翔はもう一度、心の中で息を整えた。
ドアが閉まる音が、微妙な緊張を残したまま、静かに響いた。
そして、ふたりの夜が、ゆっくりと動き出す。
「……そろそろ、飯行くか」
榊の声は、いつもどおり飾り気がない。
「ですねっ」
陽翔は弾かれるように立ち上がった。
思っていた以上に声が張ってしまい、自分で驚いた。
無理やり抑えようとして、咳払いでごまかす。
手早く資料を重ねてファイルにしまいながら、スーツの上着を手に取る。
シャツの皺を気にして軽く胸元を撫で、鏡の前でネクタイを軽く直した。
ベッドの端で背伸びをしていた榊が、片手を上げて大きくのびをする。
「なんや、お前、テンション高いな」
「そうですか?」
「うん。なんか動き早いわ」
「……いえ、そんなつもりは」
陽翔はごまかすように苦笑いを浮かべたが、内心ではもう何度目かのツッコミを入れていた。
(高くないです。むしろ、平常心崩壊しかけてます)
さっきまでの資料整理中、何度肩が触れたか。
何回、声がくぐもったか。
榊の横顔を直視できず、目の端でこっそり盗み見るばかりだった。
榊は、まったく意識していない――はず。
それがまた、どうしようもなくくすぐったい。
「ほな、行こか」
榊が軽く腰を上げると、ベッドがふっと沈む音がした。
スラックスの裾を直しながら、ふたりはほぼ同時に玄関へ向かう。
ドアの前で陽翔が「鍵、持ちました?」と聞くと、
榊は「ああ」とだけ言ってポケットを叩いた。
ほんの一瞬の会話。
なのに、そのあいだの沈黙が妙に長く感じられる。
重ならないはずの呼吸が、なぜか同じタイミングで吸って、吐いた。
(この空気、なんだろう)
まだ何も起きていない。
けれど、起きそうな何かが、すでに部屋の隅に忍び込んでいるようだった。
陽翔はドアノブに手をかけながら、背中で一度深呼吸をする。
それを見ていた榊が、なんでもなさそうに笑った。
「……飯の前にそんな気合い入れんでもええやろ」
「いや、気合いとかじゃないです」
「ふーん」
榊は先に廊下へ出た。
その背中を見送りながら、陽翔はもう一度、心の中で息を整えた。
ドアが閉まる音が、微妙な緊張を残したまま、静かに響いた。
そして、ふたりの夜が、ゆっくりと動き出す。
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