三条美玲の炎上

１７

夜が更け、ディナーで少々ワインが進んだ美玲は、心地よい酔いに包まれながら、ラグジュアリースイートの広いベッドに横たわっていた。隼人のことが頭から離れず、彼の冷静でプロフェッショナルな態度が逆に美玲の心に火をつけていた。

「隼人さん、今夜もきっと来てくれるわ…」彼女は内線で隼人を部屋に呼び出し、さらに親密な時間を過ごせるのではないかという期待で胸が高鳴っていた。

数分後、隼人が控えめにノックした。
美玲が部屋に迎え入れると、彼は普段通り落ち着いた表情で、美玲に挨拶した。

「三条様、どうかされましたか？」

美玲は、隼人が部屋に入ってくると同時に、少し酔った声で彼をソファに誘った。

「隼人さん、立ったままじゃなくて、ここに座ってくれない？」

と、隣の席を軽くポンと叩いた。

隼人は一瞬戸惑いを見せたが、プロフェッショナルとして美玲の要望を受け入れる形で、彼女の隣に座った。彼はあくまで落ち着いた態度を保ち、やや緊張しながらも美玲に向き合った。

「今日は本当に素敵な時間をありがとう、隼人さん」

美玲は隼人の目を見つめ、感謝の言葉を述べながら、彼に特別な思いを伝えようとした。

「あなたがいるからこそ、青海の宿での滞在がこんなに特別なものになるのよ」

隼人は美玲の視線を受け止めながらも、あくまで穏やかな微笑みを浮かべ、

「そう言っていただけて光栄です、三条様」

と答えた。彼の声は変わらず落ち着いていたが、その表情には一切の隙がなかった。

美玲はその態度に少し物足りなさを感じつつも、もう一歩踏み込みたくなり、隼人の手に自分の手をそっと重ねた。

「隼人さん、私にとってあなたはただのスタッフ以上の存在よ…」

彼女の言葉と行動に、隼人はさすがに一瞬動揺したが、すぐに冷静さを取り戻し、手を少しだけ引きながら穏やかに話し始めた。

「三条様、私の仕事はお客様が心からリラックスできるようお手伝いすることです。もし私の対応が少しでもお役に立てているなら、それが何より嬉しいことです」

美玲は隼人のプロフェッショナルな態度に、一層の焦れったさを覚えた。彼の言葉には優しさはあれど、私的な感情を一切感じさせなかった。しかし、それを逆に彼の控えめな好意の表れと受け取ろうとし、さらに期待を膨らませた。

「隼人さん、私…あなたともっと特別な時間を過ごせると思っているのよ」

彼女は静かにそう囁き、彼の反応を待った。
隼人は微笑みを浮かべながらも、しっかりとした声で答えた。

「三条様、私はこれからも最高のおもてなしを提供し続けます。それが、私の仕事です」

美玲は彼の言葉に、わずかに物足りなさと寂しさを感じつつも、「次こそ、隼人の冷静な仮面を崩せるはずだ」と内心で確信していた。彼が完全に拒絶する様子がなかったことが、彼女にさらに期待を抱かせたのだ。

隼人が部屋を出た後も、美玲はそのままソファに座り、彼の微笑みと冷静な表情を思い浮かべては、「あと少しで彼も私に心を開いてくれる」と信じ、今夜の出来事を満足そうに振り返っていた。