6 / 35
商会設立! 最初の顧客は貴族と商人
王都の商業区に、小さな事務所が一つできた。
石造りの二階建ての建物で、一階が仕事場、二階が住居になっている。まだ机や帳簿類を置いただけの殺風景な部屋だったが、葛城にとっては十分だった。
宿の主人の紹介で借りたこの事務所が、今後の拠点となる。
モルディが机の上に飛び乗り、尻尾を揺らしながら言った。
「オッサン、会社を作るんだろ? 名前はどうするんだ?」
葛城は帳簿を開きながら考えた。
「商売は信用が命だ。奇をてらった名前にするより、シンプルなほうがいい」
適当にカッコつけた名前をつけても、後々変更することになるかもしれない。ならば、最初からシンプルなほうがいい。
「葛城商会…でいいか」
「そのまんまだな」
「余計な装飾はいらない。シンプルなほうが信用される」
モルディは納得したように頷いた。
「で、オッサン。最初の仕事は?」
「セシリアの家の財務管理を引き受ける。まずはあの貴族の家を立て直す」
セシリアの屋敷の財政は危機的状況だった。適切な帳簿管理を導入し、無駄な出費を削減すれば、十分に立て直しは可能だった。
「貴族の財務を握れば、こっちの影響力も増す。今後の商売にもつながる」
「なるほどな」
モルディは興味深そうに言った。
「でもよ、商売の基本は信用だろ? お前、どうやって信用を得るつもりだ?」
「信用を得る方法は一つだ。結果を出すことだよ」
モルディが尻尾を振る。
「まあ、オッサンなら何とかするんだろうな」
◇◇◇
事務所を開いて数日。
「葛城に帳簿を見てもらうと商売が儲かるらしい」という噂が、じわじわと広まり始めていた。
宿の主人をはじめ、近隣の商人たちが、「あのオッサンに相談すると儲かるらしい」と言い始めている。
「妙な話だな」
葛城は苦笑しながら、商人たちの動向を観察していた。
そのとき、事務所の扉が静かに開いた。
入ってきたのは、一人の若い女性だった。
腰まで届く艶やかな黒髪、整った顔立ち、凛とした雰囲気。そして、動きに無駄がない。
「あなたが、葛城隆司様ですね?」
透き通った声だった。
葛城は視線を向けたまま答える。
「そうだが、あんたは?」
「エリザ・フォン・アーベルグと申します。秘書として雇っていただきたいのですが」
モルディがぴくりと耳を動かした。
「…オッサン、この女、只者じゃねえぞ?」
葛城は軽く頷く。
見た目の優雅さに似合わず、身のこなしが鋭い。場に溶け込むような静かな立ち振る舞い。何より、目の奥に冷静な光が宿っている。
「秘書…ね。どうして俺のところに?」
「あなたが財務管理の専門家だと聞きました。私は以前、とある商会に勤めておりましたので、経理業務の補佐も可能です」
「ほう」
モルディがくっと喉を鳴らした。
「オッサン、経理経験者が自分から秘書になりたいなんて、ちょっと不自然じゃねえか?」
「俺もそう思う」
葛城はエリザを見つめた。
「経理ができるなら、他の商会でも働けるはずだ。わざわざできたばかりの小さな商会に来る必要はないよな?」
エリザは微笑を崩さずに言った。
「私は、あなたに興味があります」
「…俺に?」
「はい。異世界から来た経理の専門家、と聞いておりますので」
葛城は目を細めた。
「なるほど…そういうことか」
「興味を持たれるのは悪くないが、目的は?」
エリザは微笑を浮かべたまま、静かに言った。
「それは、もう少し経ってからお話しします」
葛城は短く息をついた。
「まあ、秘書がいたほうが仕事が楽になるか」
「…雇うのか?」
モルディが呆れた声を出した。
「疑ってるんだろ?」
「疑ってる。でも、俺には経理以外の雑務をこなす余裕がない」
エリザは一礼した。
「ありがとうございます。では、さっそくお手伝いさせていただきますね」
葛城はモルディに目を向けた。
「念のため、こいつを探ってみてくれ」
モルディは尻尾を揺らしながら、にやりと笑った。
「了解だ、オッサン」
石造りの二階建ての建物で、一階が仕事場、二階が住居になっている。まだ机や帳簿類を置いただけの殺風景な部屋だったが、葛城にとっては十分だった。
宿の主人の紹介で借りたこの事務所が、今後の拠点となる。
モルディが机の上に飛び乗り、尻尾を揺らしながら言った。
「オッサン、会社を作るんだろ? 名前はどうするんだ?」
葛城は帳簿を開きながら考えた。
「商売は信用が命だ。奇をてらった名前にするより、シンプルなほうがいい」
適当にカッコつけた名前をつけても、後々変更することになるかもしれない。ならば、最初からシンプルなほうがいい。
「葛城商会…でいいか」
「そのまんまだな」
「余計な装飾はいらない。シンプルなほうが信用される」
モルディは納得したように頷いた。
「で、オッサン。最初の仕事は?」
「セシリアの家の財務管理を引き受ける。まずはあの貴族の家を立て直す」
セシリアの屋敷の財政は危機的状況だった。適切な帳簿管理を導入し、無駄な出費を削減すれば、十分に立て直しは可能だった。
「貴族の財務を握れば、こっちの影響力も増す。今後の商売にもつながる」
「なるほどな」
モルディは興味深そうに言った。
「でもよ、商売の基本は信用だろ? お前、どうやって信用を得るつもりだ?」
「信用を得る方法は一つだ。結果を出すことだよ」
モルディが尻尾を振る。
「まあ、オッサンなら何とかするんだろうな」
◇◇◇
事務所を開いて数日。
「葛城に帳簿を見てもらうと商売が儲かるらしい」という噂が、じわじわと広まり始めていた。
宿の主人をはじめ、近隣の商人たちが、「あのオッサンに相談すると儲かるらしい」と言い始めている。
「妙な話だな」
葛城は苦笑しながら、商人たちの動向を観察していた。
そのとき、事務所の扉が静かに開いた。
入ってきたのは、一人の若い女性だった。
腰まで届く艶やかな黒髪、整った顔立ち、凛とした雰囲気。そして、動きに無駄がない。
「あなたが、葛城隆司様ですね?」
透き通った声だった。
葛城は視線を向けたまま答える。
「そうだが、あんたは?」
「エリザ・フォン・アーベルグと申します。秘書として雇っていただきたいのですが」
モルディがぴくりと耳を動かした。
「…オッサン、この女、只者じゃねえぞ?」
葛城は軽く頷く。
見た目の優雅さに似合わず、身のこなしが鋭い。場に溶け込むような静かな立ち振る舞い。何より、目の奥に冷静な光が宿っている。
「秘書…ね。どうして俺のところに?」
「あなたが財務管理の専門家だと聞きました。私は以前、とある商会に勤めておりましたので、経理業務の補佐も可能です」
「ほう」
モルディがくっと喉を鳴らした。
「オッサン、経理経験者が自分から秘書になりたいなんて、ちょっと不自然じゃねえか?」
「俺もそう思う」
葛城はエリザを見つめた。
「経理ができるなら、他の商会でも働けるはずだ。わざわざできたばかりの小さな商会に来る必要はないよな?」
エリザは微笑を崩さずに言った。
「私は、あなたに興味があります」
「…俺に?」
「はい。異世界から来た経理の専門家、と聞いておりますので」
葛城は目を細めた。
「なるほど…そういうことか」
「興味を持たれるのは悪くないが、目的は?」
エリザは微笑を浮かべたまま、静かに言った。
「それは、もう少し経ってからお話しします」
葛城は短く息をついた。
「まあ、秘書がいたほうが仕事が楽になるか」
「…雇うのか?」
モルディが呆れた声を出した。
「疑ってるんだろ?」
「疑ってる。でも、俺には経理以外の雑務をこなす余裕がない」
エリザは一礼した。
「ありがとうございます。では、さっそくお手伝いさせていただきますね」
葛城はモルディに目を向けた。
「念のため、こいつを探ってみてくれ」
モルディは尻尾を揺らしながら、にやりと笑った。
「了解だ、オッサン」
あなたにおすすめの小説
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
転生少年は、魔道具で貧乏領地を発展させたい~アイボウと『ジョウカ魔法』で恩返し
gari@七柚カリン
ファンタジー
男(30歳)は、仕事中に命を落とし異世界へ転生する。
捨て子となった男は男爵親子に拾われ、養子として迎えられることになった。
前世で可愛がっていた甥のような兄と、命を救ってくれた父のため、幼い弟は立ち上がる。
魔道具で、僕が領地を発展させる!
これは、家族と領地のために頑張る男(児)の物語。
アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~
eggy
ファンタジー
もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。
村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。
ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。
しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。
まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。
幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。
「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。
こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)