冴えない経理オッサン、異世界で帳簿を握れば最強だった~俺はただの経理なんだけどな~

中岡 始

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王宮が正式に動く/貴族の財務監査決定

宴の翌日、王宮では緊急会議が開かれていた。  

国王をはじめとする王国の重臣たちが集まり、昨夜の出来事を報告されたのだ。  

「陛下、各地の貴族が税を横領し、不正な経費を計上していたことが明らかになりました」  

「しかも、それだけではありません。一部の貴族が役人に賄賂を渡し、税の査定を甘くさせていたのです」  

王宮の会議室に重苦しい沈黙が広がった。  

報告を聞いた国王は、目を閉じ、ゆっくりと深呼吸した。  

「つまり、王国の財政が危機に瀕しているのは、これらの不正が長年にわたり放置されていたからということか?」  

「その通りです」  

国王は目を開け、鋭い視線で周囲を見渡した。  

「ならば、これ以上放置するわけにはいかぬ」  

その言葉が、王宮全体に響き渡った。  

  

◇◇◇  

  

「すべての貴族は、財務状況を報告せよ」  

王国の財務監査が正式に発表された瞬間、貴族社会は騒然となった。  

「馬鹿な! 財務監査だと?」  

「王国が貴族の財政にまで口を出すつもりか!」  

「我々の財産は、王族であろうと勝手に調べることはできないはずだ!」  

各地の貴族たちから、激しい反発の声が上がった。  

彼らにとって財務監査は、これまで積み上げてきた特権が崩れることを意味する。  

今までは、自領の財政を自由に管理し、税の徴収や支出の詳細を報告する必要すらなかった。  

しかし、それが覆る。  

「これは…もはや財政改革ではなく、王権の強化ではないか?」  

「このままでは、貴族の権限が縮小してしまう」  

「そもそも、誰の差し金でこんなことが?」  

貴族たちは、真っ先に葛城の名を思い浮かべた。  

「たかが経理屋が…」  

「いや、もうたかが経理とは言えない。こいつを敵に回せば、我々の財産が根こそぎ暴かれるぞ…!」  

  

◇◇◇  

  

「まさか、ここまで短期間で貴族社会にメスを入れるとは…」  

王宮の一室で、宰相マクシミリアンは窓の外を眺めながら呟いた。  

彼の手には、王国財務監査の正式決定を知らせる書状が握られていた。  

「財務監査の提案をし、国王を動かしたのは葛城…彼一人の手によるものだ」  

マクシミリアンは、思わず小さく笑った。  

「ふふ…この男、只者ではないな」  

だが、その笑みはすぐに消えた。  

「だが、まだ勝負は終わっていない」  

彼は静かに書状を机に置き、思考を巡らせた。  

貴族社会を守るため、そして自身の影響力を維持するために、次の手を打つ必要がある。  

葛城のやり方は、確かに合理的であり、財政改革としては正しい。  

しかし、貴族たちがそれを素直に受け入れるはずがない。  

「さて…どう動くか」  

マクシミリアンの目が、冷たく光った。  

  

◇◇◇  

  

王宮の廊下を歩きながら、葛城はモルディを肩に乗せていた。  

「オッサン、国中の貴族を敵に回してないか?」  

モルディが尻尾を揺らしながら、呆れたように言う。  

「まあ、そうなるだろうな」  

葛城は特に気にした様子もなく答えた。  

「だが、ここまで来たら最後までやるしかないな」  

「それはいいけどよ…今度はただの経済戦争じゃ済まねえぞ?」  

モルディの警告に、葛城はふっと笑う。  

「それでも、数字の力は強いさ」  

「それで本当に切り抜けられるか?」  

「やってみるしかないな」  

葛城は足を止め、王都の街を見下ろした。  

新たな戦いの幕が、静かに上がろうとしていた。  
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