居酒屋ねこ又亭:2~猫たちの夜は続く~

中岡 始

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第2話:クロ、配送中に寝落ちする

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🐾 1. 
 ねこ又亭のカウンターで、クロは得意げに胸を張った。

「いいか? 俺は配送のプロだ。どんなに酔っ払った猫でも、確実に送り届ける。それが黒猫便の誇りってやつよ」

「へぇ~」とミケが呆れたように尻尾を揺らす。

「確実に、ねぇ……」

「なにか言いたそうだな?」

「だって、前に違う家に届けそうになったことあるでしょ?」

「……あれは、まぁ、その……」

 クロが言い淀んでいると、又五郎が静かに木箱を指さした。

「そろそろ仕事の時間だぞ」

 木箱の中には、すでにぐっすり眠りこけたトラ吉が収まっていた。

「ったく、こいつも懲りねぇな」

 クロはため息をつきながら木箱を担ぎ上げた。

「ま、任せとけ。今日も無事に送り届けてやるぜ!」

🐾 2. 
 ねこ又亭を出てしばらく、クロは順調にトラ吉を運んでいた。

「ったく重いな……お前、飲みすぎると太るんじゃねぇのか?」

 当然、トラ吉からの返事はない。箱の中からは、静かな寝息が聞こえるだけだった。

「まぁいい。今日は配達ミスなんてしねぇぞ!」

 そう言いながら歩くクロだったが、夜の涼しい風が気持ちよく、次第にまぶたが重くなってくる。

「……ん、ちょっとだけ、休憩すっか……」

 トラ吉の家まであと少しというところで、クロはふと、路地の片隅に腰を下ろした。

 ふかふかの地面。ほどよい涼しさ。

 そして、静かな夜。

「……おぉ、ここ……わりと寝心地いいな……」

 クロは軽く伸びをすると、そっと目を閉じた。

「……ちょっとだけ、ちょっとだけ……」

 そして──。

 ぐう。

 ぐぅぅぅ……。

 気づけば、トラ吉の箱の隣で、クロも丸くなって眠ってしまっていた。

🐾 3. 
「……おい」

 クロは、誰かに肩を揺すられて目を覚ました。

「ん……?」

 目の前には、目をぱっちり開いたトラ吉がいる。

「……あれ? お前、もう家に着いたのか?」

「いや、着いてねぇよ!!」

「……は?」

 クロは慌てて周りを見回した。

 見覚えのある路地裏。
 自分が最後に腰を下ろした場所。

 ──つまり、一歩も動いてねぇ。

「……お、おかしいな?」

「何が!? お前、俺を送る途中で寝てたのか!?」

「いや、寝てたっていうか……休憩してたら……まぁ、その……」

「……はあぁぁぁぁぁ!!?」

 トラ吉が頭を抱えた。

「配送員が寝るなよ! 俺、もうちょっとで家に着くと思ってたのに、なんでこんなとこで目が覚めてんだよ!!」

「……いや、俺が聞きてぇよ……」

 クロは自分のミスを悟り、頭を抱えた。

🐾 4. 
 翌朝、ねこ又亭。

 クロが店に入るなり、ミケが大きなため息をついた。

「クロ……」

「……なんだよ」

「……アンタ、今まで色んな配送ミスしてきたけど……まさか途中で寝落ちするとはね」

 その場にいた常連猫たちも、クロを見るなりクスクス笑い出す。

「配送する側が、送られる側になっちゃダメだろ?」

「トラ吉より先に寝るって、どういうことだよ!」

「お前、箱の隣で丸くなってたんだって?」

「うっ……」

 クロは耳を伏せ、しっぽをだらりと垂らした。

「……反省してる……」

 そのとき、店の奥から又五郎が静かに言った。

「……次、お前が箱送りになったら、自分で自分を運べよ」

「そんなことできるか!!」

 店内に笑いが響いた。
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