居酒屋ねこ又亭:2~猫たちの夜は続く~

中岡 始

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第3話:サクラ、クロとの距離が縮まる?

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🐾 1. 
 魚屋の軒先で、三毛猫のサクラはじっと待っていた。

「今日こそは、話しかける……!」

 最近、黒猫のクロが買いに来るたびに、妙に意識してしまう。

 数日前、クロに「好きな猫には魚をくわえて渡せばいい」と教えられ、その通りにしたのに……。

「……カツオがよかった」

 とあっさり言われ、撃沈した。

「もう! あんなの絶対、気づいてないじゃない!」

 しっぽをぶんぶん振りながら、サクラは悶々としていた。

「でも……最近、クロの態度がちょっとだけ変わったような……?」

 いつもより、ほんの少しだけ長く目を合わせる。
 いつもより、ほんの少しだけ声が優しい気がする。

 「……もしかして、クロも私のこと……?」

 そう考えると、胸がドキドキしてきた。

「うぅ~……!」

 そのとき。

「おい、サクラ」

「ひゃっ!?」

 突然、後ろから声をかけられ、サクラは飛び跳ねた。

🐾 2. 
「お、おおおおおおお前、いつの間に!?」

「いや、普通に来たけど?」

 当のクロは、キョトンとした顔で首をかしげている。

「えっと……今日も買いに来たの?」

「あぁ。……今日はカツオな」

「か、カツオ!? い、いいよ! すぐ用意する!」

 サクラはバタバタとカツオを選びながら、心臓が早鐘を打つのを感じていた。

 「……今日はカツオな」

 その言い方が、いつもよりちょっとだけ優しく聞こえた。

「ねぇ……クロ?」

「ん?」

「……前に私がくわえて渡したアジ、まずかった?」

「え?」

「だ、だって、カツオがよかったって言ったじゃない!」

「あぁ……いや、あのときは、カツオが食べたかったってだけで……」

 クロは、ちょっと目をそらしながら、ぼそぼそと呟いた。

「別に、アジが嫌いってわけじゃねぇよ」

「…………っ!」

 サクラの耳がピクッと動く。

 「別に、アジが嫌いってわけじゃねぇよ」

 それって、つまり……?

「え、えっと……じゃあ、また今度、アジも買ってくれる?」

「……まぁ、そのうち」

「……!」

 サクラのしっぽが、ふわっと膨らんだ。

「はい! カツオ、お待たせ!」

 思わず、前足でぐいっと押し出してしまい、クロがよろめく。

「お、おい、押すな!」

「あっ、ご、ごめん!」

 クロは呆れたようにため息をつき、代金を置くとカツオをくわえた。

「じゃあな」

 ひらりと身を翻し、クロは歩き出す。

 その背中を見送りながら、サクラは心の中で叫んでいた。

「えっ……!? えっ、これ、少しは脈アリ!? 期待してもいいの!?」

🐾 3. 
 その日の夜。

 サクラはねこ又亭に行き、カウンターに座っていた。

「……で?」

 ミケがカウンター越しにサクラを見つめる。

「結局、クロの態度はどうなの?」

「うぅ~~~……わかんない!!」

 サクラはテーブルに顔を伏せ、しっぽをバタバタさせた。

「だって! ちょっと優しくなった気がするけど、それが特別なのか、普通なのか……!」

「ふむ……」

 ミケはじっと考える。

「それで、クロは今どこに?」

「うーん、たぶん、いつもの場所でカツオ食べてるんじゃない?」

「……それさ」

 ミケはくすっと笑った。

「クロ、カツオをねこ又亭で食べるんじゃなくて、わざわざ魚屋の前で食べることが多くない?」

「えっ?」

 サクラは一瞬、ポカンとした。

「……た、たまたまじゃない?」

「ふふっ。どうかしらね?」

 ミケは意味深に微笑んだ。

 サクラは、自分のしっぽの先を見つめながら、ふと考える。

 ──クロが、わざわざ魚屋の近くで食べる理由。

「……やっぱり、ちょっとは意識してくれてるのかな……?」

 サクラは、ほんの少しだけ期待してしまうのだった。
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