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モノローグその二・モネ(再)
モノローグその二・モネ(再)
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私が初めて自分を意識したのは、ほんの少し前だ。
自分が何者かはまるで知らない。モネと言う名もあのカノンがそう呼んだから。
以前別の名があったかもしれないが、今の私はモネで通っている。
ある日、目覚めたらこの部屋にいた。
ファイルからは、あらゆる時代に生きた人間の生涯をコンパクトに眺めることが可能だ。
数値をタブレットの計算機に打ち込むと、彼らの運命を強く支配した、いくつかの分岐点時刻がわかる。
その複雑な計算をなぜできるのか、自分にもわからない。
分岐点は”結び目”と呼んでいて、人によって個数も大きさも形もちがう。ただそこで何らかの運命の分かれ目になったのは確かだ。その時刻をタイムポイントとも言う。
壁際の棚に数えきれぬほどのファイルが並んでいるが、それらは混在しながらそれぞれの色を放つ。
一つは青ファイルと呼んでいる。
本人が自分の生涯に満足し、後悔のない場合は青く光り時に完全に閉じることもある。
閉じたファイルの人生は閲覧できても、書き換えはできない。本人がもうこれでいいのだから、運命を変えるなと言う意味だ。その場合、地上に降りて本人に会うことも叶わない。
会えば何かしらの変化が起きる。だから閉じた青ファイルの主は、本当の意味で”生涯を終えた”人間だ。
一方で赤い光を放つファイルもある。鮮やかな赤も毒々しい暗い赤もあり、バリエーションに富んでいる。彼らは望まぬ人生を歩んだ人々で、誰もが少なからず後悔と悲しみを持っている。
私が出向いてレスキューするのはこの赤ファイルの人々だ。赤い光を目当てに探しては、見当をつける。
残りのファイルは赤と青の中間色をしている。それは満足と後悔の割合によって、さまざまな色合いを見せる。
暗闇の中、蛍のように発光するファイルたちははかなげな命のようで、美しい芸術品にも思える。
それにしても、こんなところでこんなことをしている私は一体何なのだろう?
時間のないここから地上に割って入ることができる以上、普通の人間ではない。
幽霊?宇宙人?それも違う。
私は彼らの言葉や文化、感情を理解できる。
レスキューをしているくらいだから好意もある。
だけど、私はなぜこれを仕事のようにしているのか、本当のところは知らない。やるのが当然だと思っているから、
少し寝るとまたファイルを開いて次のクライアントを見つける。その繰り返し。
「なーモネ、お前基本的には真面目だよな」
「何で?」
「だって、さぼったり遊んだりしないじゃん。トロくて寝てばっかだけど」
「何して遊ぶの?何ができるの?この真っ暗な部屋で」
「俺とあそぼ。しりとりしよ」
「何それ?いいよ、面倒だから一人で遊んでてよ」
カノンが面白くなさそうにばたばたと暴れる。
そして私はあるファイルに目をつけた。
「この人。次は彼女にするわ」
「ああん?どういう基準で選んでるんだ?金持ちとか、美人だとか?」
「ただの勘。それしかない!」
タブレットと小さなショルダーバッグだけ持って、地上に降りることにした。
「おい、どの時間に突っ込むんだよ。この前みたくぎりぎりだと間に合わないぞ?状況によってはお前だって危ないかも」
「わかったよ、前回の反省を含めて少しは余裕みて降りる。てかあんたも来るんでしょ」
「あたぼうよ。んでこの女、何で死ぬんだって」
カノンはファイルの字面を眺め、さもわかったようにうなずいて見せた。
「ふうん。何だか知らないけど、行ってみるか」
自分が何者かはまるで知らない。モネと言う名もあのカノンがそう呼んだから。
以前別の名があったかもしれないが、今の私はモネで通っている。
ある日、目覚めたらこの部屋にいた。
ファイルからは、あらゆる時代に生きた人間の生涯をコンパクトに眺めることが可能だ。
数値をタブレットの計算機に打ち込むと、彼らの運命を強く支配した、いくつかの分岐点時刻がわかる。
その複雑な計算をなぜできるのか、自分にもわからない。
分岐点は”結び目”と呼んでいて、人によって個数も大きさも形もちがう。ただそこで何らかの運命の分かれ目になったのは確かだ。その時刻をタイムポイントとも言う。
壁際の棚に数えきれぬほどのファイルが並んでいるが、それらは混在しながらそれぞれの色を放つ。
一つは青ファイルと呼んでいる。
本人が自分の生涯に満足し、後悔のない場合は青く光り時に完全に閉じることもある。
閉じたファイルの人生は閲覧できても、書き換えはできない。本人がもうこれでいいのだから、運命を変えるなと言う意味だ。その場合、地上に降りて本人に会うことも叶わない。
会えば何かしらの変化が起きる。だから閉じた青ファイルの主は、本当の意味で”生涯を終えた”人間だ。
一方で赤い光を放つファイルもある。鮮やかな赤も毒々しい暗い赤もあり、バリエーションに富んでいる。彼らは望まぬ人生を歩んだ人々で、誰もが少なからず後悔と悲しみを持っている。
私が出向いてレスキューするのはこの赤ファイルの人々だ。赤い光を目当てに探しては、見当をつける。
残りのファイルは赤と青の中間色をしている。それは満足と後悔の割合によって、さまざまな色合いを見せる。
暗闇の中、蛍のように発光するファイルたちははかなげな命のようで、美しい芸術品にも思える。
それにしても、こんなところでこんなことをしている私は一体何なのだろう?
時間のないここから地上に割って入ることができる以上、普通の人間ではない。
幽霊?宇宙人?それも違う。
私は彼らの言葉や文化、感情を理解できる。
レスキューをしているくらいだから好意もある。
だけど、私はなぜこれを仕事のようにしているのか、本当のところは知らない。やるのが当然だと思っているから、
少し寝るとまたファイルを開いて次のクライアントを見つける。その繰り返し。
「なーモネ、お前基本的には真面目だよな」
「何で?」
「だって、さぼったり遊んだりしないじゃん。トロくて寝てばっかだけど」
「何して遊ぶの?何ができるの?この真っ暗な部屋で」
「俺とあそぼ。しりとりしよ」
「何それ?いいよ、面倒だから一人で遊んでてよ」
カノンが面白くなさそうにばたばたと暴れる。
そして私はあるファイルに目をつけた。
「この人。次は彼女にするわ」
「ああん?どういう基準で選んでるんだ?金持ちとか、美人だとか?」
「ただの勘。それしかない!」
タブレットと小さなショルダーバッグだけ持って、地上に降りることにした。
「おい、どの時間に突っ込むんだよ。この前みたくぎりぎりだと間に合わないぞ?状況によってはお前だって危ないかも」
「わかったよ、前回の反省を含めて少しは余裕みて降りる。てかあんたも来るんでしょ」
「あたぼうよ。んでこの女、何で死ぬんだって」
カノンはファイルの字面を眺め、さもわかったようにうなずいて見せた。
「ふうん。何だか知らないけど、行ってみるか」
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