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4・三峰美保(みつみね・みほ)
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文面に目をやる。
”これで当分無神経な話を振ってくる者はいないだろう。ならばこれからは友人を亡くし、心ない噂によって傷ついた少女を演じていればいい。新たに話を誘導するようなコメント……”
口にすら出していないことがなぜ、文章になって誰にでも見られる場所に載っているのか。気味が悪い。誰かに心を読まれ、垂れ流されているような……。
「あんたなの?」
「それはどうかしら?」
モネはわざととぼけて見せる。
「ねえ美保さん。口に出さなければ誰にも胸の内なんてわからない、って舐めたこと思ってると痛い目に遭うんじゃない。ほら、また次の投稿文が増えている」
画面のフォームに目をやる。まるで自動書記しているかのように、新しい文章が増えていっている。
”せっかく上手く行っていたのに何の邪魔なの。私は関係ないって散々言ったじゃない。手首も切って見せた。警察だって朋美の犯行だと確定した。みんな朋美のやったことだって、納得したはず……”
別に開いていたSNSの方でも、この投稿に気づいたユーザーが騒ぎ出している。
まずい、このままだと公開暴露になりかねない。
でもどうして?この女、どんなトリックを使ってこんなこと……。
「だから、悪いこと考えたらだめだって。全部文章になって載るわよ」
「やめて!もうやめて」
タブレットの電源を荒々しく切る。これで更新は止まるはずだ。
「残念ね。投稿すべてで、IPアドレスを特別に表示させたわ。全国から見えるの。プロバイダにここの病院の名前が入ってることも。今までの中傷が、誰の家から投稿されていたかも」
美保はモネをにらんだ。
明らかに、常人ではないことをする危険な人物。
そう認知した表情。
「ばかじゃない?中傷の内容はすべて削除されたわ。今はもう見ることはできない」
警察が捜査のためとログは持っていったけれど、それも朋美の家から書いたものだ。パスワードを控えたノートを盗み見て、自分が書いたと言う証拠はもう一つもない。
「本当にそう思う?自信があるなら、もう一度電源入れて確かめてみれば。過去の記事が削除されているかどうか」
試されるようにボタンを押し、画面を開いた。
しかしそれも罠だった。
最新記事に、再び美保の思考が垂れ流しになりとめどない暴露が再開した。美保が心でつぶやいた文章が、早打ちのようにどんどん現れては改行する。
美保は悲鳴を上げた。
「やめてよ、謝るから。もう止めて」
「……何を謝るの?」
「言うから。でも先にこの垂れ流しを止めて。じゃないと私この先……」
「生きていけない?朋美さんは死んだのに、あなたは生きてる」
「だから、とにかく止めて!」
画面に走り続ける文字が、ぴたりと停止した。
「認めるのね。あなたのしたこと、しようとしてること」
「その前に今増えた投稿文もすべて消して。じゃないと喋らない」
「そんな権利あなたにはない。質問に答えなさい」
ふんわりと微笑む天使に似合わぬ、厳しい口調だった。
「最悪、ファイル凍結でもいいんだけどな」
カノンがこっそりと愚痴る。
「お願いだから黙ってて」
「はいはい、一体何の執念なんだか」
このクライアントは、どの結び目も悪化する方向にしか存在しない。
一つでも改善できるものに変えられたら。説得ができるかどうかが重要だった。
モネは再度向き直る。
見た目は楚々とした美少女、その内面は周到に人を操ろうと企む魔女に。
「ああん?結局取り調べすんのかあ。事務机と首のゆるんだ電灯、カツ丼も頼まなきゃな!」
カノンは冗談の割に楽しげだった。
「朋美さんが自殺した。その現場にあなたはいたのよね?」
「止めようとしたもの。だけど間に合わなかった」
「なぜ彼女は、非常階段なんてところにいたの。それもあなたの住んでるマンションよね?あなたも一緒だった」
「あの子が、朋美が、うちのマンションから飛び降りて死ぬって。だから出て行って止めようとしたのよ」
質問を変えることにした。
「みんなに裏アカと呼ばれていたさっきのページ。なぜあそこに、クラスメイトの中傷を書いたりしたの?」
思考の垂れ流しで白状したことだ。
投稿主は美保だったのだろう、最初からずっと。
「だってどの子もみんな猫かぶって良い子の振りして、うざかったんだもん。朋美はお人好しだから、そんな奴らの相談をみんな聞いてあげたりして馬鹿みたい。あの子も良い子を演じる自分に酔ってただけだったけど」
「あなたも猫かぶってるのは同じじゃないの?」
美保はむっとした。
「投稿者アドレスをずっと調べて見てたんだけど。これ、一度も朋美さんは書いてないでしょ。あなただけが書いてたのに、どうやって朋美さんに責任をなすりつけたの」
美保は不敵な笑みを浮かべて見せた。
「色々調べたんならわかるでしょ。噂を立てて人を呼び込んだのよ。朋美しか知らなさそうなことをあれこれ書き散らして」
「一番の親友だったんじゃないの?親友をどうして陥れるようなことしたの?」
ふん、と鼻をならして美保はにらんだ。
「親友って何?一番近い友人だったけど、信じてはいなかった。朋美は信じてたから、他の子の相談を私にさらに相談するようなことしてたけどね」
「それをここに書き続けたのよね。裏切りって言うのよ。それ」
念のため説いてみせた。
あるいはこの少女、根本的な情動に問題があるのだろうか。
「……知ってる。私は朋美のように人に優しくなんてできないし、ばかばかしいんだもの。あんな風に人を信じて、明るくいられたら幸せだろうな。でも私はそうじゃない。意地悪と言われても、そういう思いはない。天真爛漫さに対して、少しずつ悪意が積もっていったのがそれ。って言ったらわかってもらえる?」
初めて本心を開くような話をした。少しは向き合う気になったのか。
はあ、とため息をついて美保はまた話し出す。
”これで当分無神経な話を振ってくる者はいないだろう。ならばこれからは友人を亡くし、心ない噂によって傷ついた少女を演じていればいい。新たに話を誘導するようなコメント……”
口にすら出していないことがなぜ、文章になって誰にでも見られる場所に載っているのか。気味が悪い。誰かに心を読まれ、垂れ流されているような……。
「あんたなの?」
「それはどうかしら?」
モネはわざととぼけて見せる。
「ねえ美保さん。口に出さなければ誰にも胸の内なんてわからない、って舐めたこと思ってると痛い目に遭うんじゃない。ほら、また次の投稿文が増えている」
画面のフォームに目をやる。まるで自動書記しているかのように、新しい文章が増えていっている。
”せっかく上手く行っていたのに何の邪魔なの。私は関係ないって散々言ったじゃない。手首も切って見せた。警察だって朋美の犯行だと確定した。みんな朋美のやったことだって、納得したはず……”
別に開いていたSNSの方でも、この投稿に気づいたユーザーが騒ぎ出している。
まずい、このままだと公開暴露になりかねない。
でもどうして?この女、どんなトリックを使ってこんなこと……。
「だから、悪いこと考えたらだめだって。全部文章になって載るわよ」
「やめて!もうやめて」
タブレットの電源を荒々しく切る。これで更新は止まるはずだ。
「残念ね。投稿すべてで、IPアドレスを特別に表示させたわ。全国から見えるの。プロバイダにここの病院の名前が入ってることも。今までの中傷が、誰の家から投稿されていたかも」
美保はモネをにらんだ。
明らかに、常人ではないことをする危険な人物。
そう認知した表情。
「ばかじゃない?中傷の内容はすべて削除されたわ。今はもう見ることはできない」
警察が捜査のためとログは持っていったけれど、それも朋美の家から書いたものだ。パスワードを控えたノートを盗み見て、自分が書いたと言う証拠はもう一つもない。
「本当にそう思う?自信があるなら、もう一度電源入れて確かめてみれば。過去の記事が削除されているかどうか」
試されるようにボタンを押し、画面を開いた。
しかしそれも罠だった。
最新記事に、再び美保の思考が垂れ流しになりとめどない暴露が再開した。美保が心でつぶやいた文章が、早打ちのようにどんどん現れては改行する。
美保は悲鳴を上げた。
「やめてよ、謝るから。もう止めて」
「……何を謝るの?」
「言うから。でも先にこの垂れ流しを止めて。じゃないと私この先……」
「生きていけない?朋美さんは死んだのに、あなたは生きてる」
「だから、とにかく止めて!」
画面に走り続ける文字が、ぴたりと停止した。
「認めるのね。あなたのしたこと、しようとしてること」
「その前に今増えた投稿文もすべて消して。じゃないと喋らない」
「そんな権利あなたにはない。質問に答えなさい」
ふんわりと微笑む天使に似合わぬ、厳しい口調だった。
「最悪、ファイル凍結でもいいんだけどな」
カノンがこっそりと愚痴る。
「お願いだから黙ってて」
「はいはい、一体何の執念なんだか」
このクライアントは、どの結び目も悪化する方向にしか存在しない。
一つでも改善できるものに変えられたら。説得ができるかどうかが重要だった。
モネは再度向き直る。
見た目は楚々とした美少女、その内面は周到に人を操ろうと企む魔女に。
「ああん?結局取り調べすんのかあ。事務机と首のゆるんだ電灯、カツ丼も頼まなきゃな!」
カノンは冗談の割に楽しげだった。
「朋美さんが自殺した。その現場にあなたはいたのよね?」
「止めようとしたもの。だけど間に合わなかった」
「なぜ彼女は、非常階段なんてところにいたの。それもあなたの住んでるマンションよね?あなたも一緒だった」
「あの子が、朋美が、うちのマンションから飛び降りて死ぬって。だから出て行って止めようとしたのよ」
質問を変えることにした。
「みんなに裏アカと呼ばれていたさっきのページ。なぜあそこに、クラスメイトの中傷を書いたりしたの?」
思考の垂れ流しで白状したことだ。
投稿主は美保だったのだろう、最初からずっと。
「だってどの子もみんな猫かぶって良い子の振りして、うざかったんだもん。朋美はお人好しだから、そんな奴らの相談をみんな聞いてあげたりして馬鹿みたい。あの子も良い子を演じる自分に酔ってただけだったけど」
「あなたも猫かぶってるのは同じじゃないの?」
美保はむっとした。
「投稿者アドレスをずっと調べて見てたんだけど。これ、一度も朋美さんは書いてないでしょ。あなただけが書いてたのに、どうやって朋美さんに責任をなすりつけたの」
美保は不敵な笑みを浮かべて見せた。
「色々調べたんならわかるでしょ。噂を立てて人を呼び込んだのよ。朋美しか知らなさそうなことをあれこれ書き散らして」
「一番の親友だったんじゃないの?親友をどうして陥れるようなことしたの?」
ふん、と鼻をならして美保はにらんだ。
「親友って何?一番近い友人だったけど、信じてはいなかった。朋美は信じてたから、他の子の相談を私にさらに相談するようなことしてたけどね」
「それをここに書き続けたのよね。裏切りって言うのよ。それ」
念のため説いてみせた。
あるいはこの少女、根本的な情動に問題があるのだろうか。
「……知ってる。私は朋美のように人に優しくなんてできないし、ばかばかしいんだもの。あんな風に人を信じて、明るくいられたら幸せだろうな。でも私はそうじゃない。意地悪と言われても、そういう思いはない。天真爛漫さに対して、少しずつ悪意が積もっていったのがそれ。って言ったらわかってもらえる?」
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はあ、とため息をついて美保はまた話し出す。
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