22 / 37
4・三峰美保(みつみね・みほ)
4-5
しおりを挟む
「裏アカだって、朋美に対する不満で勝手に始めたものよ。ぼかして書けばばれないだろうって思ってた。けど、ふとしたことで気づく人っているのね。本当に油断できない」
「ばれたとして、まずみんなが疑うのは直接悩みを話していた朋美さんじゃない?」
「だって、朋美はみんなの信頼があるもの。私が疑われるのは当然のこと」
「だったら最初から……」
万人が目にできるインターネットに書くことが間違っている。
腑に落ちないまま、モネは別の質問をする。
「あなたは朋美さんの恋人だった人と、今交際しているって」
阿久津と言っていた。朋美も美保も男からすれば、魅力的な存在に違いないが。
なぜ親友を渡り歩くようなことをしでかしたのか。
美保が笑い出した。
「よく知ってるわね。どこから聞き出したの?相当な情報魔ね。けど私はあんな奴、何とも思ってないの。からかって遊んでるだけ。あの男はのぼせてるけど。まあ朋美を振って私を選んだ、と言われるのは悪くはないわ」
胸の悪くなるような暴言に、モネは引っかかりを感じる。
さっきから美保の言葉の端々にどんよりと立ち上る、濁りのようなもの。
何だろうこれは?
「朋美さんにとっては、ショックでしょうね。親友と恋人がくっついてしまったんだから」
「そうね。そうだったと思うわ」
したり顔で笑んだ。
モネははっきりと確信した。なぜ朋美にこんな仕打ちをしたのかを。
「……嫉妬。あなた嫉妬してたんだ、朋美さんに」
美保は似合わぬ大声で笑い上げた。巧妙ないたずらを暴かれた子供のように。
「何がそんなに羨ましかったの?あなただってその外見で、いくらでも人を魅了できるじゃない。成績だって学年で三番に入るんでしょう?おうちは何代も続く医者の家系で、裕福な生活も当然のように得てきた。なぜそれが朋美さんを……」
「だから、だとは考えないの?」
美保は挑発的な目をして、モネに向き直った。
「何もかも持っているはずの自分が、それらどれもが劣っている朋美に叶わない。あの子は周りの絶大な信頼と好意を得ていたわ。優しさも共感も私には真似できない、勝てないんだもの」
「優れているから愛されるとは限らない。それでも勝ち気なあなたは自分の方が上なのだと、周りに認めさせたかった。だから死なせた?」
最後の問いには、さすがに難色を示した。
「私のせいにしないで。朋美は自分で飛び降りたのよ」
「朋美さんはあなたを理解しようとしてたのに、あなたは彼女を疎ましく憎んだ。誰からも好かれている人気者を消せば、それは彼らへの復讐にもなる。あなたが欲しくて歯がみしているのは、人望よね」
だからネットの中傷をなすりつけ、朋美を悪者にしようとした。
恋人を奪い、プライドも傷つけ絶望に追い込もうとした。
「さっきから言いがかりばかりつけてるけど、証拠でもあるの?私が朋美を突き落としたと言わんばかりじゃない?」
美保は立ち上がり、モネの椅子へと近づく。
「ねえ、美保さん……」
いさめようとしたその時、モネの胸に光る何かが突き立てられた。
「もういいでしょ。あなたうるさすぎるの。朋美は自殺で亡くなった、それでいいの。あなたもいらない」
モネはテーブルに崩れ落ち、白い衣服が流れ出す血潮で染まってゆく。
「さよなら。私の邪魔をする人はみんな、こうしていけばいいんだわ」こらえきれず、ぷっと笑い出す。
高らかな笑いが、廊下に響き渡った。
美保が立ち去った後、カノンがモネの突っ伏した机に舞い降りる。
「……何死んだふりしてんだ?流血演出までしてみせて。お前に三次元の金属物体なんて刺さる訳ないべ?」
その声でモネは勢いよく起きあがる。
血も跡形もなく消え、モネは床に落ちたナイフを拾い上げた。
鋭く細い性状は、殺傷能力の高さが見える。こんな凶器を隠し持っていたとまでは、予想できなかった。
「身を持って体験したわ。でもびっくりした。ここでモラルハザード発動なんだ。猛獣のようだわ」
「もう気は済んだろ?高校生にしてこの非道っぷり。そこらのチンピラよりひどいぜ、この女。人を人と思ってねえ」
ファイルを見れば、後々の罪状などいくらでもわかる。
大学ではミスコン有望と言われたクラスメイトが、次々と事故に遭い辞退。
美保は代表となり優勝に輝く。
アナウンサーを志願するが、最終面接で落ち思いは叶わず。
大手商社に三年勤務、その後結婚。大学時代からの恋人は、前途有望なエンジニア。だがその裏で夫の同僚が何人も異常行動を起こし、入院、左遷、あるいは事故を起こす。
二十六歳時、第一子を不慮の事故で亡くす。事件性は否定される……。
「触りだけでもうお腹いっぱい。こいつ八十五まで生きて、どんだけ人に迷惑かけまくってる訳?」
「ざっと数えたけど五十人近く。下手に刑事事件になってないから、よけいたちが悪いわ。だから最初の事件である朋美のタイムポイントに来て、どうにかしようって思ったのに」
「でもお前、人間だったら死んでるぞ。人間じゃなくてもこの有様なんだから」
「一筋縄じゃ行かないってことね。説得じゃ無理なのかな」
「無理無理。もう離脱してファイル凍結にしよう?それでもうあの女に関わらない。それでいいじゃん。こんな奴一人にずっとかまけててもムダだぜ。何でそこまでしようとする?」
「関わってしまった五十人はどうなるの?不幸の源である美保をどうにかしない限り、彼らのファイルは赤のままよ。ね、もう一度だけ行ってみたいの。彼女がまだ純粋な子供だった時代に」
「はあ?どんだけ意地張ってんだ?だめ!却下!!」
「ねえカノン。人は生まれてからどこかで何かに傷つき、心がぶれてしまうことってあると思うの。だったらその原因となる時に降り立ち、うまく修正すればもっと満足できる生き方ができるって。そう思わない?」
「理想論だな。もっとも俺はそういうお前の思いこみ、嫌いじゃないけどな」
「思いこみ……せめて思いやりって言ってよ」
「ばれたとして、まずみんなが疑うのは直接悩みを話していた朋美さんじゃない?」
「だって、朋美はみんなの信頼があるもの。私が疑われるのは当然のこと」
「だったら最初から……」
万人が目にできるインターネットに書くことが間違っている。
腑に落ちないまま、モネは別の質問をする。
「あなたは朋美さんの恋人だった人と、今交際しているって」
阿久津と言っていた。朋美も美保も男からすれば、魅力的な存在に違いないが。
なぜ親友を渡り歩くようなことをしでかしたのか。
美保が笑い出した。
「よく知ってるわね。どこから聞き出したの?相当な情報魔ね。けど私はあんな奴、何とも思ってないの。からかって遊んでるだけ。あの男はのぼせてるけど。まあ朋美を振って私を選んだ、と言われるのは悪くはないわ」
胸の悪くなるような暴言に、モネは引っかかりを感じる。
さっきから美保の言葉の端々にどんよりと立ち上る、濁りのようなもの。
何だろうこれは?
「朋美さんにとっては、ショックでしょうね。親友と恋人がくっついてしまったんだから」
「そうね。そうだったと思うわ」
したり顔で笑んだ。
モネははっきりと確信した。なぜ朋美にこんな仕打ちをしたのかを。
「……嫉妬。あなた嫉妬してたんだ、朋美さんに」
美保は似合わぬ大声で笑い上げた。巧妙ないたずらを暴かれた子供のように。
「何がそんなに羨ましかったの?あなただってその外見で、いくらでも人を魅了できるじゃない。成績だって学年で三番に入るんでしょう?おうちは何代も続く医者の家系で、裕福な生活も当然のように得てきた。なぜそれが朋美さんを……」
「だから、だとは考えないの?」
美保は挑発的な目をして、モネに向き直った。
「何もかも持っているはずの自分が、それらどれもが劣っている朋美に叶わない。あの子は周りの絶大な信頼と好意を得ていたわ。優しさも共感も私には真似できない、勝てないんだもの」
「優れているから愛されるとは限らない。それでも勝ち気なあなたは自分の方が上なのだと、周りに認めさせたかった。だから死なせた?」
最後の問いには、さすがに難色を示した。
「私のせいにしないで。朋美は自分で飛び降りたのよ」
「朋美さんはあなたを理解しようとしてたのに、あなたは彼女を疎ましく憎んだ。誰からも好かれている人気者を消せば、それは彼らへの復讐にもなる。あなたが欲しくて歯がみしているのは、人望よね」
だからネットの中傷をなすりつけ、朋美を悪者にしようとした。
恋人を奪い、プライドも傷つけ絶望に追い込もうとした。
「さっきから言いがかりばかりつけてるけど、証拠でもあるの?私が朋美を突き落としたと言わんばかりじゃない?」
美保は立ち上がり、モネの椅子へと近づく。
「ねえ、美保さん……」
いさめようとしたその時、モネの胸に光る何かが突き立てられた。
「もういいでしょ。あなたうるさすぎるの。朋美は自殺で亡くなった、それでいいの。あなたもいらない」
モネはテーブルに崩れ落ち、白い衣服が流れ出す血潮で染まってゆく。
「さよなら。私の邪魔をする人はみんな、こうしていけばいいんだわ」こらえきれず、ぷっと笑い出す。
高らかな笑いが、廊下に響き渡った。
美保が立ち去った後、カノンがモネの突っ伏した机に舞い降りる。
「……何死んだふりしてんだ?流血演出までしてみせて。お前に三次元の金属物体なんて刺さる訳ないべ?」
その声でモネは勢いよく起きあがる。
血も跡形もなく消え、モネは床に落ちたナイフを拾い上げた。
鋭く細い性状は、殺傷能力の高さが見える。こんな凶器を隠し持っていたとまでは、予想できなかった。
「身を持って体験したわ。でもびっくりした。ここでモラルハザード発動なんだ。猛獣のようだわ」
「もう気は済んだろ?高校生にしてこの非道っぷり。そこらのチンピラよりひどいぜ、この女。人を人と思ってねえ」
ファイルを見れば、後々の罪状などいくらでもわかる。
大学ではミスコン有望と言われたクラスメイトが、次々と事故に遭い辞退。
美保は代表となり優勝に輝く。
アナウンサーを志願するが、最終面接で落ち思いは叶わず。
大手商社に三年勤務、その後結婚。大学時代からの恋人は、前途有望なエンジニア。だがその裏で夫の同僚が何人も異常行動を起こし、入院、左遷、あるいは事故を起こす。
二十六歳時、第一子を不慮の事故で亡くす。事件性は否定される……。
「触りだけでもうお腹いっぱい。こいつ八十五まで生きて、どんだけ人に迷惑かけまくってる訳?」
「ざっと数えたけど五十人近く。下手に刑事事件になってないから、よけいたちが悪いわ。だから最初の事件である朋美のタイムポイントに来て、どうにかしようって思ったのに」
「でもお前、人間だったら死んでるぞ。人間じゃなくてもこの有様なんだから」
「一筋縄じゃ行かないってことね。説得じゃ無理なのかな」
「無理無理。もう離脱してファイル凍結にしよう?それでもうあの女に関わらない。それでいいじゃん。こんな奴一人にずっとかまけててもムダだぜ。何でそこまでしようとする?」
「関わってしまった五十人はどうなるの?不幸の源である美保をどうにかしない限り、彼らのファイルは赤のままよ。ね、もう一度だけ行ってみたいの。彼女がまだ純粋な子供だった時代に」
「はあ?どんだけ意地張ってんだ?だめ!却下!!」
「ねえカノン。人は生まれてからどこかで何かに傷つき、心がぶれてしまうことってあると思うの。だったらその原因となる時に降り立ち、うまく修正すればもっと満足できる生き方ができるって。そう思わない?」
「理想論だな。もっとも俺はそういうお前の思いこみ、嫌いじゃないけどな」
「思いこみ……せめて思いやりって言ってよ」
0
あなたにおすすめの小説
皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜
菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。
まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。
なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに!
この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜
春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!>
宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。
しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——?
「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる