【完結】天使のスプライン

ひなこ

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6・恩田繁之(おんだ・しげゆき)

6-4

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 中山翔太の生涯略歴(更新後)
 十歳の時に父母が別居、弟と共に祖母の家に預けられる。
 父方の親戚の協力の下、奨学金とアルバイトをかけもちして大学卒業。弟と二人で運送業を始める。大学時代の多彩な労働経験を生かし、中山運輸を設立。
 後輩を多数雇用し、学生たちの口コミで人気企業へと成長する。
 会社が軌道きどうに乗った頃、父母の長い不仲が解消されて家族は一つに戻る。後に会社の後輩と結婚し一男二女をもうける。弟も結婚し子供にも恵まれた。
 生涯兄弟で協力しあって、関東一円で十数の支社を持つ企業を作り上げる。
 享年七十八。子や孫たちに囲まれて、穏やかに生涯を閉じた。

「そうか、ずっと兄弟で一緒に生きていけたんだね」
 ファイルのパネル部分に触れると写真は切り替わり、白髪しらがまじりの二人が並んで写っている。
 社長室で撮ったのだろうか、背後には会社をたたえるトロフィーがいくつも並び、壁にかかった社訓には達筆な字で”一致協力”と書かれていた。側にあるダンボールには、社名と共にトレードマークのオウムが描かれている。

「え、これって七色の頭してて……どこかで見たような」
 デフォルメしてあるが、これは明らかにカノンの色遣いだ。
「うっそー。記憶は消してあるはずだろ?おかしい。偶然じゃねえの」

 二人でアルバイトをして、学校に通って。父母をいさめながらついに離婚を止めた。離ればなれの辛さとは別の、また大変な苦労があったろう。
「でもその経験が生きて会社を興せたんだから、良かったよな」
「兄弟一緒だったから、励まし合えたんだと思う」

 モネは新宿の街で会ったときの、しゃれたスーツ姿を思い出す。エリートサラリーマンだった時のつんと澄ました顔よりも、弟との写真では満足そうに見えた。
「弟な。ハーブにキノコはやばかったぜ」
「嫌なこと覚えてんのね」
「次いこ、次」

 花坂愛美の生涯略歴(更新後)
 四十七歳の時に宿泊していたホテルが火災を起こし、夫がその際の負傷で車いす生活になる。夫の介護を理由に、女優から完全引退。
 各国の親善大使を勤めていた関係を生かし、夫と共に世界を廻る旅に出る。行く先々で病める人々、飢える民をいたわり励まし、経済援助にも尽力した。
 二人は終生ジャズを愛し、ニューヨークに立ち寄った時には必ずコンサートに出かけた。

「女優辞めたんだ!もったいねーな」
「でも、あの人は愛を選んだのよ。かわいい奥さんをやりたかったはずだし」
「世界一周しながら各地を慰問いもんかあ。さすが金持ちはやることがでかい」
「ねえ、まだ記述の続きがある」
 車いすの夫と共に慰問に訪れる、慈愛じあいの姿に感動したインドの映画監督がドキュメンタリー映画を制作。そこからマナミブレイクが再度起こり、過去の作品が全世界に流通する。
「へえ、何というおまけつき。若い頃はべっぴんだったし当然だよな。んで女優復帰とか?」
「ううん。彼女はもう二度と仕事に戻ることはなく、旦那さんの世話をしながら旅し続けたみたい」
 クラブでオーケストラに囲まれて写る夫婦の姿があった。
「二人が好きな曲はムーンライトセレナーデ、って言ってたね」
 写真を切り替えているうち、白い小型犬と一緒に船上で撮ったものが出てきた。
 ただし書きは”うちのかわいい娘、モネと”
「何で!」
 またここでも感じる痕跡こんせき。何がどうなっているのだろう。彼女の場合は過去へ送っていないが、地上から離脱した時点で、記憶から消えるはずなのに。

 享年八十。先立った夫との約束どおり、横浜の小高い丘にある霊園にともに眠る。


 柴田圭輔の生涯略歴(更新後)  
 生まれてすぐに母が家を出て、その後は音信不通。父が一人で彼を育てる。
 幼少時より父の仕事である農業に親しみ、畑作を手伝いながら農学部へと進学。
 野菜の流通をより効率よく行うため、自主流通システムの会社を設立する。農家と小売りとを直結し、良心的価格で提供すべく尽力する。
 その後アメリカの企業と提携ていけいを結び、視察しさつへ向かった先で生き別れの母と再会する。

「えっ、それで?どうしたんだろう」
 父は許していないが、心中では母をまだ愛していたはず。
「でも、母ちゃんは他の男と一緒に行ったんだろ」

 だが離婚は成立していなかった、二人はまだ夫婦のままだった。
 圭輔は母を日本へ連れ帰り、両親を話し合わせた。その結果意地いじを張っていた父が折れて、母を受け入れることに。二人は二十五年ぶりに再会、終生仲良く暮らすことになる。

「ええっ?」さすがのモネも声を上げた。
「出たぞ、ムーンライト何ちゃらの奴らと一緒じゃん。ちょっとしたことで怒ったり離れたり、何年もしてまたくっついたりだもんな。夫婦って訳わかんねー!犬も食わねえよ」
「彼はきっと、お父さんのことを幸せにしてあげたかったんだね」

 そういえば……圭輔は妻と愛人との二重生活をしていたんだった。父はめでたしめでたしだが、肝心の圭輔本人はどうなったのか。再び記述に目をやる。
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