裸身のデッサン

大津らら

文字の大きさ
2 / 6

第2話 視線の揺れ

しおりを挟む
 アトリエの空気は、鉛筆と紙の擦れる音だけが支配していた。
 正木豊は鉛筆を握る手に力を込めようとするが、指先がかすかに震え、線は細く乱れる。
 視線は制御できず、自然と三森梓の裸体を追った。

 乳房の柔らかな膨らみ、腹の滑らかな曲線、そして――淡く陰の奥に揺れる陰部。
 豊は息を詰め、目を逸らそうとするが、どうしても引き寄せられてしまう。
 描こうとする線と、目に映る女の身体が、まるで戦いを繰り広げるように、紙の上で絡み合った。

 梓はそれを察したかのように、片目だけ細め、口角をわずかに上げる。
 挑発するような視線が、授業中であるにもかかわらず豊の胸に直接触れる。
 その視線の力に、豊の理性は徐々に揺らぎ、鉛筆を握る手にますます力が入らなくなる。

 「……こんなに見られて、私は嫌じゃないのね」
 かすかに漏れた声が、心の奥まで響く。
 豊は顔を上げるが、視線は紙から離せない。
 胸の高鳴りと羞恥が交錯し、息は浅く早くなる。
 鉛筆の線は乱れ、影の濃淡も思うように描けない。

 周囲の学生たちは黙々と画板に向かい、筆先を走らせる。
 だが豊にとって、紙の上に描かれるのは単なる裸体ではなく、梓という女そのものだった。
 柔らかく揺れる肌の感触、かすかな呼吸、そして目の奥に宿る挑発の意識。
 それらがすべて、鉛筆を握る指先に伝わるように感じられた。

 豊は理性を取り戻そうと深呼吸する。
 だが、胸の奥の熱は収まらず、鉛筆はかすかに震える。
 その熱は羞恥に混ざり、心の奥を焦がす。
 ――目の前の女を、描くのか。見るのか。それとも……。

 梓は片腕を頭上にあげ、腰をわずかにひねる。
 その曲線に、豊の目は吸い寄せられ、線を描く手は震えたまま動く。
 かすかに揺れる乳房の影、腹の柔らかい曲線、そして陰部の淡い稜線。
 目を逸らすこともできず、描くこともままならず、心は昂ぶる一方だった。

 授業終了のベルが鳴る。
 梓はゆっくりと体を元に戻し、立ち上がる。
 その瞬間、豊の視線がまだ自分に向いていることを察すると、かすかに笑みを浮かべ、耳元で囁いた。

 「あなたの目は正直」

 その声は、静かなアトリエにそっと響き、豊の心を強く揺さぶった。
 紙の上に描かれた線の乱れも、心臓の高鳴りも、全てが鮮明に意識される。
 理性と欲望がせめぎ合い、息が荒くなる。

 梓は何事もなかったかのように、画板の向こうへ歩き去った。
 豊は残された線と紙を前に、心の奥に残る熱と官能の予感を感じながら、息を整える。
 鉛筆を置いた手の震えはしばらく止まらず、視線はまだ彼女を追っていた。

 ――これは、ただのデッサン授業では終わらない。
 鉛筆と紙の上に刻まれたのは、初めて女を意識した少年の心と、彼女の視線が生んだ官能の痕跡だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

社長から逃げろっ

鳴宮鶉子
恋愛
社長から逃げろっ

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

処理中です...