裸身のデッサン

大津らら

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第2話 視線の揺れ

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 アトリエの空気は、鉛筆と紙の擦れる音だけが支配していた。
 正木豊は鉛筆を握る手に力を込めようとするが、指先がかすかに震え、線は細く乱れる。
 視線は制御できず、自然と三森梓の裸体を追った。

 乳房の柔らかな膨らみ、腹の滑らかな曲線、そして――淡く陰の奥に揺れる陰部。
 豊は息を詰め、目を逸らそうとするが、どうしても引き寄せられてしまう。
 描こうとする線と、目に映る女の身体が、まるで戦いを繰り広げるように、紙の上で絡み合った。

 梓はそれを察したかのように、片目だけ細め、口角をわずかに上げる。
 挑発するような視線が、授業中であるにもかかわらず豊の胸に直接触れる。
 その視線の力に、豊の理性は徐々に揺らぎ、鉛筆を握る手にますます力が入らなくなる。

 「……こんなに見られて、私は嫌じゃないのね」
 かすかに漏れた声が、心の奥まで響く。
 豊は顔を上げるが、視線は紙から離せない。
 胸の高鳴りと羞恥が交錯し、息は浅く早くなる。
 鉛筆の線は乱れ、影の濃淡も思うように描けない。

 周囲の学生たちは黙々と画板に向かい、筆先を走らせる。
 だが豊にとって、紙の上に描かれるのは単なる裸体ではなく、梓という女そのものだった。
 柔らかく揺れる肌の感触、かすかな呼吸、そして目の奥に宿る挑発の意識。
 それらがすべて、鉛筆を握る指先に伝わるように感じられた。

 豊は理性を取り戻そうと深呼吸する。
 だが、胸の奥の熱は収まらず、鉛筆はかすかに震える。
 その熱は羞恥に混ざり、心の奥を焦がす。
 ――目の前の女を、描くのか。見るのか。それとも……。

 梓は片腕を頭上にあげ、腰をわずかにひねる。
 その曲線に、豊の目は吸い寄せられ、線を描く手は震えたまま動く。
 かすかに揺れる乳房の影、腹の柔らかい曲線、そして陰部の淡い稜線。
 目を逸らすこともできず、描くこともままならず、心は昂ぶる一方だった。

 授業終了のベルが鳴る。
 梓はゆっくりと体を元に戻し、立ち上がる。
 その瞬間、豊の視線がまだ自分に向いていることを察すると、かすかに笑みを浮かべ、耳元で囁いた。

 「あなたの目は正直」

 その声は、静かなアトリエにそっと響き、豊の心を強く揺さぶった。
 紙の上に描かれた線の乱れも、心臓の高鳴りも、全てが鮮明に意識される。
 理性と欲望がせめぎ合い、息が荒くなる。

 梓は何事もなかったかのように、画板の向こうへ歩き去った。
 豊は残された線と紙を前に、心の奥に残る熱と官能の予感を感じながら、息を整える。
 鉛筆を置いた手の震えはしばらく止まらず、視線はまだ彼女を追っていた。

 ――これは、ただのデッサン授業では終わらない。
 鉛筆と紙の上に刻まれたのは、初めて女を意識した少年の心と、彼女の視線が生んだ官能の痕跡だった。
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