BLオカマの異世界『推し事』日記~推しを成り上がらせる魔女の物語~

指圧童子

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第9話 生真面目女騎士がオカマに不意打ちされるとどうなるのか

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 太陽の光が一切差さない森の入り口は、濃い霧と湿った空気に覆われていて気分が悪くなる。
まずぬかるみや泥に邪魔されて移動スピードが遅くなるし、延々と伸び続ける草木に邪魔されて馬では中へ進めない。視界も悪いし、薬草や解毒剤で対応できない未知の毒虫なんかもいて対処が面倒だ。

「…窃盗犯め、どこへ消えた…?」

 強い正義感を胸に秘めるクエーリは、泥水まみれの大地を踏みしめるレギンスの重さを感じさせない堂々とした足取りで周囲を観察していた。濃霧で本格的に目の前が見えなくなる前に証拠を見つけたい。

「ん?」

散開地点から少し進んだ一際大きな樹木の傍に、乱雑に置かれた何かをクエーリは発見した。視界にモヤがかかりながら捉えた何かに近づき、膝をついて慎重に取り上げる。

「これは…」

 ぬかるんだ地面に落ちていたのは、表紙が泥被った中身が綺麗な状態の一冊の本。この世界の言葉で【魔女の歴史】と表紙に記された、オルドガルドの歴史を綴る貴重な資料である。

「窃盗犯め。やはりここに来ていたのかっ」

 盗まれた本は回収した。しかし肝心の犯人はいない。生真面目なクエーリは考える。
王都マーテルで本を真昼から堂々と盗み、走って人類未踏のアルギリスの森へと走って逃げて来た。全て非効率だ。    盗みに入られた国営図書館は警備こそあるが夜の方が姿を隠せるし、警備の手薄な部分もある。何より一般人に見られてしまえば、決定的に足が付く。
 しかし図書館の受付と窃盗犯を見た少女の証言では、犯人は左目から顎下にかけて禍々しいタトゥーが入っていた男性だという。それが嫌な予感を決定的な物にした。

(この世界で、顔にタトゥーを彫る人物なんて…。まるで、魔女ね)

 盗まれた本も魔女の歴史にまつわる伝承の類であり、偶然盗んだにしては出来過ぎていた。そして犯人の特徴も、魔女にまつわる物。
 まずは盗まれた本を回収する事を優先したクエーリだったが、振り返って声を出そうとした瞬間だった。

「ジャン」

突如、顔面に強い衝撃が走った。

「がッ!?」

 意識を刈り取ろうとする程の強烈な痛みと衝動。完全な不意打ちでも寸での所で偶然急所が外れて何とか持ちこたえたクエーリは、かなりの勢いで顔を蹴り上げられた事に気付く。
 火花が散る様な痛みと理解できない衝撃で脳が揺らぐ中。意識とは反対に勢いよく倒れる体が背中から樹木に叩きつけられた。フルプレートアーマーでも緩和しきれなかった謎の一撃に動きが遅れていると、首元にひやりと冷たい感触があった。

「動かないで頂戴」

 ボヤけた視界と脳が数秒で落ち着く。首元に刃物らしき武器を押し付けられて身動きを封じられたクーリエは、
強襲して来た謎の男を見るなり冷や汗を噴き出させた。
 窃盗犯の顔を見た少女が狼狽え、受付係が怯えて逃げ出した理由を理解した。この世界には珍しい短めの黒い髪の毛に、黄色系の肌色。
 何より一番目を引かれるのが、左目から顎下にかけての夥しいタトゥー。

(なんだ…っ!?。気配も音も全くしなかった!)

 目の前に現れた男は、一切の音を立てずに背後を取り、自分の首を躊躇なく掻き切ろうとしている。その事実だけでクエーリの心胆を寒くするには十分だ。

「叫んだら頸動脈をセパレートしちゃうわよ」

 明らかに窃盗犯は男の容姿をしている。陽気そうな声色に反して、繰り出される喋り方は女。
筋肉質で余分な脂肪が一切ついていなさそうな鍛え抜かれた肉体と不釣り合いな話し方。こんな人間はマーテルでも見た事が無い。
 男が握っている刃物は、クエーリと同じく【聖廟の騎士団】に供給されているサブウェポンの短刀。右の太もも周りに収納している短剣が蹴られて倒れた拍子に抜き取られ、武器として使われている。
とんでもない手練れだ。騎士団を不意打ちしたとは言え、丸腰なのにほんの一瞬で形成逆転されてしまった。

「初めましてミス・クエーリ。アタシはリオ。頑張る男の子と恋する乙女が大好きなただのオカマよ。仲良くしましょ?」
「…っ」

 喉元に押し付けられた刃の冷たさに、クエーリの身体が震え上がる。だが、そんな事はどうでも良いのかリオと名乗った男は言葉を続けた。
 その声色は、まるで恋人との逢瀬を楽しむかの様な甘ったるい物だったのだが、底知れない狂気を秘めた不気味さに声が細くなる。

「こんな物騒なご挨拶でごめんなさいね?。アタシちょっと手違いで本を盗んじゃったんだけど、いつくか質問に答えてもらえるかしら?」
「な、なんだと…?」






「アタシの顔のタトゥーって…。なんなの?」
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