BLオカマの異世界『推し事』日記~推しを成り上がらせる魔女の物語~

指圧童子

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第15話 オカマの魔女の名は…

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「こんにちは、冒険者ギルドへようこそ!」
「あー、初めまして。アタシ実はダーリス共和国からやってきた新人冒険者なんですけどぉ~…こちらのギルドの仕組みなんかを教えて頂いてもよろしいかしら?」

 もう素の口調を晒す必要も無いと、利夫は通常営業に戻って話す。色んな人間の相手をしているからだろうか、受付嬢は嫌な顔も不気味な表情も見せずに笑顔で対応した。

「他国からの冒険者登録ですね?。かしこまりました、それではご説明させていただきます!」
「お願いするわ」

情報漏洩防止の為か、受付嬢は利用者側の両サイドのブラインドを閉めて咳払いし、説明を始めた。

「ダーリス共和国の方では、冒険者登録はされましたか?」
「えぇ。でも時間が無さ過ぎて全然説明を聞けないまま飛び出してきちゃったモンだからよく知らないのよ」
「なるほど。それでしたら、ライセンスをお見せして頂いてもよろしいでしょうか?」

 無知な冒険者として差し出した時、利夫は内心しまったと思った。ライセンスにはアダルスの名前が登録されているはず。それを見せてしまうと、アダルスと名乗るオカマが存在する事になり、いずれ怪しまれてしまう。止めようと思ったが既に遅く、差し出されたライセンスを吟味した受付嬢は意外そうな声で驚いた。

「あら、このライセンス…」
(な、なんかヤバイかしら…)

仮面の下で冷や汗を流す利夫に、受付嬢はくすりと笑う。

「名前の項目まで空白だなんて、よほど急いでマーテルまでいらしたんですね♪」
「・・・あい?」
「空白なので、こちらで手続きをしてしまいましょうか?」
「え、えぇ。是非お願いするわ」

ライセンスの持ち主を示す項目には、何も書かれていなかった。
おかしい。確かそこにはアダルス・ギーガの名前が入っていたはず。

(どういう事?。アタシは何もしていないわ)

 利夫は混乱していた。ワードやエクセルみたいに簡単に消せるならまだしも、名前だけ消す動作をした記憶が無い。アダルスの名前が残っていればアウトだったので空白で好都合だが、今の持ち主である自分が一番理解できていない。

「では操作のご説明をしますので、よろしくお願いします」
「アタシが操作して良いの?」
「はい。冒険者ライセンスは持ち主しか操作出来ません。スキル管理や習得など、このライセンスを操作する必要があります」
「へぇ~、すごい画期的ねぇ!」
「冒険者ライセンスは全て神の宣託を受けたシスター様が作られた神聖なアイテムであり、冒険者の大切な身分証でもありますからね」

 受付嬢の説明を聞きながら、利夫はライセンスを操作した。驚くことに、ステータスやスキルの確認は裏面をタッチするだけで良かった。スマホみたいに手軽な操作で、見たい項目を選べば3Dでメニュー画面が浮かび上がる。試しに自分の能力を確認してみると、こんな感じだった。

名前:
職業:魔女Lv3
SP:3
LP:1

「SPって何の事?」
「【スキルポイント】ですね。スキルの習得に必要なポイントで、レベルアップする度に1ポイントずつライセンスに収納されます」
「じゃあLPは?」
「【リーグポイント】ですね。そちらはスキルのレベルや効果を上昇させるのに必要なポイントです」
「なるほど。要するにテクニックを上げるのね」
「大まかに言うとそうなります。ただしLPは、レベルアップしても加算されません」

 受付嬢の話によると、LPはSPと違ってレベルアップをしても自動で加算される物ではなく、自分の職種にちなんだ行動をしたり、スキルの熟練度を上げて加算されていくという。剣士なら、剣のスキルを使い続ければやがてLPが手に入り。魔法使いなら、攻撃魔法や回復魔法を使った時に蓄積されてLPが加算されるらしい。
 つまり利夫の場合、【魔女らしい事をしてLPを稼ぐ】必要がある。

「一度習得したスキルは、所有者の判断で好きなタイミングで使用する事が出来ます。中にはMPと呼ばれる魔力値や、道具やアイテムを消費して使うスキルもありますので、取得した際の説明事項は注意してお読みください。クラスチェンジや上位職への説明もありますが、そちらもご説明しましょうか?」
「いいえ、大丈夫よありがと。次に、スキルの習得の仕方を聞いてもよろしくて?」

 受付嬢は笑顔を浮かべると、丁寧に質問に答えてくれた。職業項目をタッチし、その中から欲しいスキルを選択すればスキルポイントを消費して習得する事が可能となる。ただし上位のスキルになればなるほど必要なポイントが増えたり、習得する為に必要な条件が与えられて困難になっていく。
 ちなみに、冒険者1人につきなれる職業は原則1つらしく。追加で職業を身に着けたいのなら条件を満たした上で神殿に行って莫大な金を払う必要があるらしい。

「ギルドに冒険者登録された方は私達ギルドが稼業を斡旋し、それに準じたサービスを提供させて頂きます。無論、ギルド内の酒場にレストラン。教会なんかも利用は自由です」
「あら、やっぱりあそこは教会なのね。死人が蘇ったりするの?」
「…高位のプリーストでしたら可能かも知れませんが、私はそのケースを見た事はありませんね」
「そっか。そうよねぇ…」

 死んだら終わり。アネストも散々そう言っていた。魔法やスキルなんて便利な言葉に惑わされたが、そのルールは皆平等らしい。

「以上で大体の説明は終わりになりますが、ライセンスへお名前の入力をしていただけますか?」
「勿論よん♡」

 オルドガルドの言葉の羅列が浮かび上がり、名前を入力しようとしたが寸での所で指が止まった。キョウゴク トシオと入力すれば、恐らくこの世界での利夫の本名になるだろう。しかし、その名前は前世で終わった名前。簡単に捨てて良い物じゃないが、もしそのまま入力して誰かに見られたら名前の風体からして違う世界の人間だとバレてしまう可能性がある。
 折角の異世界転生。第二の人生は、魔女らしく好き放題して生きてみたい。好みの男を侍らせて、思う存分推し事して天国へと行きたい。

(『名前』とは、世界に生まれ落ちた瞬間に与えられる生命への最初のプレゼントであり、存在の証明でもある)

利夫は意を決すると、キーボードを叩いて文字を入力した。

「これでお願い」

―――― ブロンズⅠ級 リオ・ウゴック・キョー ―――― 
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